メインコンテンツへスキップ
見出し画像

応挙は腹を見せず・其一はキレッキレ。―大英博物館「百花繚乱」展 都美―

    数あるnoteの中から
    おいでいただきありがとうございます。

    東京都美術館(東京・上野)
    で開催中の
    「大英博物館日本美術コレクション
    百花繚乱~海を越えた江戸絵画」
    を見てきました。

    今回の展覧会では
    大英博物館が所蔵する
    江戸時代の日本美術が
    ずらりと並びます。

    ということで本来なら、
    なぜこれほどの日本美術が
    イギリスに渡ったのかとか、
    海を越えた作品が
    こうして日本へ初里帰りした
    ありがたさとか
    約150年ぶりに再会した襖絵のことなど、

    そのあたりを書くべき
    なのかもしれませんが、

    書きません(笑)。

    そういうお話は
    もっと詳しい方が
    たくさん書いてくださると思うので、

    私はいつものように
    「これ好き!」
    「これはいまいち!」
    という
    かなり偏った目線から
    気になった作品について
    書いてみたいと思います。

    どうか
    最後までお付き合いいただけたら
    嬉しいです

    琳派、攻めすぎ!

    鈴木其一が、三十六歌仙で攻めていた

    まず
    行って良かった!と心から思えたのが
    鈴木其一の《三十六歌仙図》。

    https://www.britishmuseum.org/collection/object/A_1980-0728-0-1?selectedImageId=1613261442

    (上記の公式サイトの所蔵作品から
    見ることができます。)

    パンフレットなどでも
    特に大きく取り上げられておらず、
    今回の目玉作品というわけでは
    なさそうなのです。
    しかも琳派はほとんど来ておらず。

    そこかい!って突っ込まれてしまいそうですが・・・

    やはり其一、いい!です。

    其一といえば、
    酒井抱一に学び、
    江戸琳派を代表する絵師のひとりです。

    草花を描いた作品が有名で、
    「ほわん」と「凛」を
    併せて持ち合わせる画風が
    私も大好きなのですが、
    今回は珍しく人物。

    しかも三十六歌仙です。

    三十六歌仙といえば、
    もっと雅に、優美に、
    という感じになりそうなものですが、

    其一、全然そんなことない。
    かなり攻めています。

    美人画とも違う。
    いわゆる雅な歌仙絵とも違う。

    一目見ると
    其一らしい鋭さがあります。

    「ほわん」と「凛」を持ち合わせる
    とお伝えしましたが
    それは師匠の抱一先生の方で
    其一の場合は
    「ほわん」と「凛」に
    みせかけて、
    「キレッキレ」
    なのが特徴です。

    江戸琳派らしい
    「たらしこみ」という技術も使いつつ
    36人の書き分けもキレッキレで
    構図もキレッキレです。

    伝 尾形光琳も、攻めすぎ!

    「伝 尾形光琳」の屏風も
    展示されていました。

    こちらは「伝」なので
    光琳作と確定しているわけでは
    ありませんが、

    やはり、キレッキレ。

    https://www.britishmuseum.org/collection/object/A_1913-0501-0-263?selectedImageId=35894001

    (上記の公式サイトの所蔵作品から
    見ることができます。)

    光琳は掛け軸や扇図なども
    とても美しいですが
    屏風になると
    段違いにキレが増します。
    そのあたりは
    杜若図屏風が好きすぎて
    何回か、書かせていただきました。
    (よろしければ併せてお読みください)

    今回の松島図屏風も
    なかなかキレが良いです。

    屏風の前に立つと
    ズギャン!という音がするようで。
    光琳本人の作だったら嬉しいな、
    などと思いながら
    楽しく見てきました。

    浮世絵もしっかり来ていました


    有名な浮世絵も
    たっぷり展示されておりますが
    私にとっては
    普段あまり見られない貴重な浮世絵も
    しっかり展示してありがたい!
    という印象でした。

    浮世絵は
    サイズ的にも小さく
    ひとだかりができやすいので
    混雑する展覧会だと
    鑑賞にストレス溜まるのは
    悲しいながら常ですね。。

    今回は「みたことある」の浮世絵も
    けっこう展示されていたので
    見たいものだけ見ると
    良いのかもしれません。

    スタッフの方も
    「順番はないので
    お好きなところからご覧ください」
    と常にお声をかけてくださっていたと思います。
    (たしかこのように声掛けしていたかと。
    間違ったことを伝えていたらまずいので
    行かれた際はスタッフの方の声かけを
    優先してくださいませ)

    (常にお声がけされるのは
    大変なことですし
    とてもありがたいことです。
    この場を借りて謝意が伝わると良いのですが。)

    春信には、浮世絵なのに気高さがある

    期待していた
    鈴木春信もよかったです。

    個人的には
    広重・北斎・写楽より
    最近、
    春信がお気に入り。

    春信は少し時代が早いこともあってか、
    まとまった数を見る機会が
    意外と少ない気がします。

    今回はたくさん見られて
    ありがたかったです。

    私は春信の浮世絵に、
    「安売りしない気高さ」
    のようなものを感じます。

    浮世絵は流行すればするほど、
    当然「売れるもの」が
    求められるようになります。

    それが浮世絵の面白さでも
    あるのですが、

    流行しているもの特有の
    「くささ」のようなものが
    出てくることもある。

    でも春信には、
    あまりそれを感じません。

    浮世絵なのに、
    のどかで、静かで、
    どこか気高い。

    ゆったり見れて
    本当に美しいんですよね。

    歌麿は、やっぱり女性がかわいい

    歌麿もよかったです。
    歌麿の場合
    流行真っ只中の浮世絵
    というかんじで
    鈴木春信とはまた一風違う浮世絵です。

    歌麿も、有名なわりに
    まとまった数を
    見る機会は意外と少ないので
    今回は嬉しい展示でした。

    鳥居清長もたくさん来ていて
    女性の絵のタッチそのものには
    随分似ているんだな
    なんて発見もあったのですが

    歌麿の女性って、

    本当にかわいい。

    顔だけではなく、
    仕草や身体の線までかわいらしく、

    肌の透明感まで
    見えてきそうな感じ。

    「美人を描いているんだな」と
    ちゃんと分かるんです。

    喜多川歌麿の
    「高島おひさ」の浮世絵を見ているとき
    後ろでご覧になっている女性が
    「この人、美しい人ね」って
    つぶやいていました。
    まさに、そう思う!と、
    私も思いました。

    https://www.britishmuseum.org/collection/object/A_1927-0613-0-6?utm_source=chatgpt.com
    (公式サイトより)

    もしかすると歌麿は
    女性が好きな美人画なのかも
    しれません。

    一方で、今回楽しみにしていた
    歌麿の肉筆画。

    https://www.britishmuseum.org/collection/object/A_2014-3048-1?selectedImageId=1613269127

    (公式サイトより)

    こちらは意外にも
    あまりピンときませんでした。
    すっっっっっごい上手なんですよ!
    でもなぜか・・・
    ドギャーン、的なものが
    くるだろうと思っていたのです。

    以前、歌麿の《雪月花》シリーズの
    肉筆画を見たときに
    非常に感動したので
    歌麿は印刷より肉筆の方が
    絶対良いだろうと、
    ちょっとハードルを上げすぎたのでしょうか・・?


    そこで、ふと疑問が。

    私はなんとなく
    浮世絵は
    肉筆画に比べると
    絵師そのものの力は
    薄まってしまうものだと
    思っていました。

    でも、逆なのかもしれない。

    浮世絵版画は
    絵師一人で完成させるものではなく、
    彫師、摺師、そして版元が関わる
    共同制作です。

    歌麿の絵に
    優れた彫りと摺りが加わり、
    さらに蔦屋重三郎のような
    版元がプロデュースすることで、
    売れる「歌麿の女性」が
    完成したのではないか
    と考えました。

    でも一方で、
    蔦屋重三郎ではない版元から出された
    歌麿の《寄辻君恋》は、
    本当に艶っぽくて、
    まるで生きているようで素晴らしい。

    https://www.britishmuseum.org/collection/object/A_1909-0618-0-70
    (公式サイトより)

    蔦重のおかげだけでもない
    絵師・彫師・摺師・版元のどこまでが
    この『歌麿らしさ』を作っているんだろう?

    肉筆画と版画を
    同じ場所で見られたからこそ、
    ちょっと考えてしまいました。

    ごちゃごちゃしているのに、
    ごちゃごちゃしていない暁斎


    河鍋暁斎も
    やっぱり上手でした。

    河鍋暁斎の《素戔嗚尊の九頭龍退治》。
    https://www.britishmuseum.org/collection/object/A_1969-0414-0-1?selectedImageId=546681001
    (公式サイトより)

    波の中に龍がいる作品で、
    波はうねる、
    龍は動く、
    木々は揺れる。
    描き込みも多い。

    一歩間違えれば
    ごちゃごちゃになりそうな画面です。

    なのに、
    絵の前に立つと

    ぜんぜん、ごちゃごちゃしてないのです。

    視線誘導なのか、
    墨の濃淡なのか、
    構図なのか。

    おそらく全部なのでしょう。

    情報量はものすごく多いのに
    目の前に立つとスキッとしていて
    画面そのものは
    きちんと制御されている。

    こういう絵を見ると、

    暁斎、やっぱり
    めちゃくちゃ絵が上手い。

    と感心します。

    暁斎の絵からは、
    「絵を描くの楽しい!
    もっと上手くなりたい!
    もっと描きたい!」
    みたいなものを感じるんですよね。

    そこも好きです。
    (暁斎展でも書かせていただいております。
    よろしければご覧ください)


    そして、応挙が苦手な理由がわかった


    今回、作品そのものとは別に
    ひとつ大きな収穫がありました。

    こちらのnoteをはじめたきっかけは
    三井記念美術館の応挙展です。
    その際は若冲のことばかり
    書いてしまいました。

    実は
    円山応挙について
    あまり書けなかったのです。

    絵が下手だからではありません。
    むしろ底抜けに上手い。

    応挙の絵をみるたびに
    「うわ、上手いなあ」と
    毎回思います。

    それなのに、
    なぜか絵に「潜れない」のです。

    今回見ていて
    その理由が少しわかった気がしました。

    応挙、腹を見せないんです。

    これはもちろん
    私の勝手な印象です。

    技術はこれでもかというほど
    見せてくれる。
    絵も整っている。

    これだけ自在に
    何でも描ける人なのに、
    どうして私は
    その絵の中に
    応挙本人を感じられないのでしょう。

    若冲なんて、
    「見て見て!
    こんなふうに見えたから描いた!」
    と無邪気なくらい
    画面から出てきます。

    北斎なら、
    「俺はこんなものまで描けるぞ!」
    (すごい余談ですが
    悪口を言ってしまった私に、
    家にまであがらせて絵を見せてくれて北斎。
    腹、見せすぎでしょう!太っ腹!!
    というエピソードも書いています。
    https://note.com/killamaru/n/n09284e45e238)


    暁斎なら、
    「楽しい!もっと描きたい!
    もっと上手くなりたい!」

    そんな本人の声が
    聞こえてくるような気がする。

    ところが応挙は、
    どれだけ近づいても
    奥の間には入れてくれない。

    だから私も
    安心して腹を見せて
    絵を見ることが
    できないのかもしれません。

    奥に入ろうとしたら
    ぶぶ漬け出されそうです笑

    もちろん、
    応挙本人が本当に
    そんな人だったかは知りません(笑)。

    あくまで、
    私が絵から受ける印象です。

    でも長年の

    「こんなに上手いのに
    なぜ応挙が苦手なんだろう?」

    という疑問が、
    少し解けた気がしました。

    いつか
    ゆったりと応挙の絵に潜りたい。

    いやいや、私には腹を見せてくれるよ!
    という方に出会えたら嬉しいなあと
    思いました。

    自分の「目玉」は、自分で探せばいい

    今回の展覧会には
    大きく紹介されている
    目玉作品もたくさんあります。

    でも面白かったのは、
    私にとっての「目玉」は
    必ずしもそこではなかったこと。

    パンフレットで
    大きく紹介されていなくても

    其一を見て
    「やっぱり好きだ」と思ったり

    春信の気高さに
    改めて惹かれたり

    応挙を見て
    わからなかった理由が
    突然わかったり。

    たくさんの絵師の作品が
    一堂に並んでいるからこそ、

    自分が絵の何を見ているのか

    が、逆に浮かび上がってくるようです。

    私にとっての
    「百花繚乱」は
    そんな展覧会でした。

    2026年10月18日まで開催です。
    お気に入りを探しに、
    ぜひお出かけしてみてください。




    記事をまとめてみました。
    ご興味のある記事がありましたらぜひお読みください!

    ○中国画・山水画・水墨画
    南宋画


    はじめに01 -絵の声を聴く、アート鑑賞について- 好きな画家さん一覧
    https://note.com/killamaru/n/n0cb504116a87
    書き始めた経緯やこのNoteの説明など
    はじめに02 -アートの声を聴く鑑賞について-
    https://note.com/killamaru/n/n3b42879699f8
    「はじめに」の続きですが、私のNoteの中では、♡率が高くて、ありがたいです。
    はじめに03 -審美眼は何年で身につくもの?
    https://note.com/killamaru/n/ne9792bc439fe
    <ドイツ旅2026>
    ドイツから戻ってきました -2026.01.13 近況報告-
    https://note.com/killamaru/n/nce677f79afbc
    デューラーと話したくて家に2回おしかけた話 - デューラーズハウス -
    https://note.com/killamaru/n/n681100d72660
    フェルメール報告会 - ドイツ旅で鑑賞した絵のレポート -
    https://note.com/killamaru/n/n9509726b7b11
    フェルメールに隠された法則 - 嫌いだったフェルメールが好きになれた秘密 - [ディープ]
    https://note.com/killamaru/n/nab3fbbd02386
    <若冲>
    若冲からはじめて呼ばれた話 -泉屋博古館東京-
    https://note.com/killamaru/n/n79a61287feed
    若冲は、今日も私を呼ぶかしら - 三井記念美術館「円山応挙」展 -
    https://note.com/killamaru/n/na07051e46676
    若冲は、もう1人の天才にためらう、の話 - 東京藝大美術館 -相国寺展
    https://note.com/killamaru/n/n85b940e93ef9
    <ゴッホ>
    [ディープ]ゴッホのひまわりって、おいしいの? - 西洋美術館 ロンドン・ナショナル・ギャラリー展
    https://note.com/killamaru/n/n69330619f156
    「あなたはどんな鑑賞タイプ?」と「ゴッホの死相」について ゴッホ展 -東京都美術館-
    https://note.com/killamaru/n/na3e315c32ca0
    ゴッホ美術館(アムステルダム)に行ってきた -美術館レビュー(絵多め)-
    https://note.com/killamaru/n/n4e65dea66a63
    おいしそうな絵はここにも(ピエール・ボナール) -「ひまわり」異変の後日談-
    https://note.com/killamaru/n/n32920ae6c2de
    <美術展>
    ブラックホールを作りだせる画家 -仙厓展@出光美術館- [ディープ]
    https://note.com/killamaru/n/n576fe4a903b7
    絵から音がしない理由 -ユトリロ展(SOMPO美術館)-
    https://note.com/killamaru/n/nd086f4b57077
    定家にきゅんきゅん -国宝熊野御幸記と藤原定家展レポート(三井記念美術館)-
    https://note.com/killamaru/n/ne15a8591b9e4
    伊勢物語展 -根津美術館- 岩佐又兵衛に感じるもの
    https://note.com/killamaru/n/n522358cdf891
    僧侶の背中には、実は何があったのか -特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」-
    https://note.com/killamaru/n/nb87fb034c08e
    マチュピチュの展示じゃない?!けど、興味深い -マチュピチュ展-
    https://note.com/killamaru/n/n5dd9d6de4666

    <岡本太郎とウォーホル>
    岡本太郎の絵をめくってバックヤードをのぞいた話[ディープ] - ウォーホルの続き -
    https://note.com/killamaru/n/ndd21dc5e0255
    アンディ・ウォーホル「SERIAL PORTRAITS」展(ルイヴィトン) - 岡本太郎のために力をお借りします -
    https://note.com/killamaru/n/ndd1a969b04ba
    <ランキング>
    [異変の起こった美術展ランキング]2025年行った美術展の中から)
    https://note.com/killamaru/n/n853c88ce272c

     
     
    絵の声を聴いたり、描かれていない世界を感じたり。ちょっと不思議な美術鑑賞を綴っています。 絵の見え方は人それぞれ。あなたにも、あなただけの鑑賞能力があるはず。 いつかこの楽しさを一冊の本にして、もっと多くの人に届けたい。 記事は随時推敲中。すべて自分の言葉で書いています。

    あなたへのおすすめ