
湿度0%の筆 河鍋暁斎はなぜこんなにも上手いのか-サントリー美術館-
数あるnoteの中から
おいでいただきありがとうございます。
本日は
サントリー美術館(六本木)で
2026年4月22日から6月21日まで開催していた
「河鍋暁斎の世界」
(ゴールドマンコレクション)
のレポートをお伝えしたいと思います。
https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2026_1/index.html
前回の暁斎展ふりかえり
暁斎といえば、
前回2017年のBunkanuraの展覧会も
非常に大きなものでした。
同じくゴールドマンコレクションの
展示でしたので
Bunkamuraに行かれた方は
今回のサントリーで
多くの絵に再開できると思います。
私も2017年の暁斎展は
記念講演会にも参加するなど
非常に楽しませていただき、
画集ももちろん購入し
今でも時々みておりましたので
かなり、同じ絵が来ているな
という印象でした。
ただ、
今回は日本初出展も多く、
また絵の1枚1枚に解説があったり、
さらには
ジョサイヤ・コンドルのコメントを
掲載するなど、
楽しめる工夫が存分にあります。
サントリー美術館さんは
どの展覧会も
展示が非常に丁寧で
きめ細やかなので
2017年にBunkamuraに
行かれている方も
楽しめること間違いなし!です。
そして同じ絵だからこそ、
9年の月日を経て
自分がどう感じるか、を
試す機会にもなりました。
前回は美術館に行き始めたばかりで
暁斎も知ったばかりで
「絵が面白くて上手いなあ」
なんて印象でしたが。
今回は何が変わったでしょうか・・・
うますぎませんか・・・?
久しぶりに暁斎さんの絵を
さまざま拝見して
少し、困惑してしまいました。
絵が、
うますぎやしませんか・・・?
あれ、今まで見た名だたる絵師さんも
こんなに絵がうまかったかな…
そんなふうに不安になる程
絵が上手いのです。
厳密には
「筆使いが、卓越しすぎている」
酒と女が好きで、
牢屋に入ったこともある
破天荒な画家。
そんなイメージだったのですが
実際は7歳から
歌川国芳に入門し
その後11,12年くらい
かかると言われた
狩野派の修行を9年で出て
土佐派、琳派、四条派、浮世絵など
日本古来の画流も広く学んでいたとのこと。
そして、
私の大好きな画家
「鈴木其一」の次女を
最初のお嫁さんにしました。
文章を読むと、絵師としては
エリートの流れです。
国芳の絵を拝見するときには
一礼してから拝見していた
といいます。
礼儀を欠かさない
人だったのですね。
暁斎は
お酒が好きで
破天荒であるのも
真実のようですが
私が知る絵師たちよりもさらに
かなりしっかりめに
基礎を修行した人だと思います。
自然を描かせても
構図も上手いし、
筆もうまい。
狩野派を9年、卒業まで
しっかり修行したからでしょうか。
基礎のしっかり感がありました。

ウィキペディアより引用
White Eagle Eyeing a Mountain Lion
https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Kawanabe_Ky%C5%8Dsai?uselang=ja#/media/File:White_Eagle_Eyeing_a_Mountain_Lion.jpg
また、
暁斎の鴉。
墨(黒)の使い方が
また卓越してうまいです。

ウィキペディアより引用
Identificatie Titel(s): Kraai op tak Objecttype: albumblad prent Objectnummer: RP-P-1961-127 Catalogusreferentie: Jap Cat V 109-19 Opschriften / Merken: verzamelaarsmerk, schutblad, gestempeld: Lugt 2228 Omschrijving: Octogonale prent in album met 39 prenten. Vervaardiging Vervaardiger: prentmaker: Kawanabe Kyôsai (vermeld op object) Plaats vervaardiging: Japan Datering: 1880 - 1890 Fysieke kenmerken: kleurenhoutsnede Materiaal: papier Techniek: kleurenhoutsnede Afmetingen: h 223 mm × b 287 mm Verwerving en rechten Credit line: Schenking van mevrouw L.J. Boddaert, Delft Verwerving: schenking 1961 Copyright: Publiek domein
https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Kawanabe_Ky%C5%8Dsai?uselang=ja#/media/File:Kraai_op_tak,_RP-P-1961-127.jpg
筆の巧さでいうと
日本で二番なのでは、
と思っています。
これには
「そう思わせる秘密」があって
一番巧い人と
一緒に説明させていただくと
ひも解けそうです。
日本の筆ランキング・・・?1位は
筆が日本で2番目に
上手いと思う暁斎。
(絵のうまさではなく
「筆の」とさせていただいています)
私が一番上手いと思う
日本の絵師さんは
言わずと知れた
雪舟
です。
雪舟の場合は
「筆づかいがうまい」
という次元ではなく
すべてにおいて
日本の中でずばぬけて
一番うまいと思います。
そんな雪舟と暁斎
共通点があると感じます。
それは、筆を「抜くこと」
西洋画の記事では
なんどか触れた
「抜くこと」
手を抜くという意味では
ありません。
いろんな「抜き」があるのですが
これは日本の名だたる絵師
北斎、
若冲、
応挙、
では見つけられない部分です。
(いや
実際は上記の画家も
一部の絵はそうなっていると
思います)
雪舟、暁斎の場合は
筆が「抜けて」いるのです。
絵を描いたら
筆には
必ず「気持ち」が入ります。
「どうだ上手く描けているだろう」
「私の絵を見てってや〜」
筆に強く入っている。
これは北斎や若冲に多い・・・
そうでなくとも
筆にはいろいろ入ってしまうものです。
筆に残る
「見てくれ!」
「俺はこう思う!」
という画家自身の気配。
これは
決して悪いことではなく
私の好きな画家の大半が
絵の中に自己主張や意思が見え
「そうそう、これを見に来たんだよ」
という画家も多いです。
抜いているのは
描き手の欲。
「評価、
見てほしい、
自分らしさ、
技巧自慢」
それが抜けると
残るのは描いたそのもの。
鳥。
虎。
山。
水。
鬼。
骸骨。
対象がそのまま立っています。
暁斎の鴉(からす)。
暁斎の絵の中でも
鴉の作品は
筆使いが特に上手だと
思うのですが、
暁斎は
「俺の描いた見事な鴉!」
ではないのですよね。

禅の無心のこと
拝読させていただいている方の記事に
禅の無心について
説明がありました。
私の「抜く」について
上手に書けない私とは違い
非常にわかりやすく
的確に書かれています。
私のいう「抜く」は
まさに
禅の「無心」。
「うまくやろうとする意識」を
超えた先の筆です。
修行を重ねた
お坊さんの領域でしょう。
雪舟と同じように
仙厓さんもやはりお坊さんなので
上手に抜けてるんですよね
(抜けすぎ?
それがかわいいのですが。)
暁斎の場合は
仏教画も多く
お寺との付き合いも
現代より色濃くあったはずですが
修行僧ではないので
普通の人がどうしてもでてしまう
絵師らしい「欲」を手放して
描くことができたということは
特別な才能
(修行の成果?)だと
思います。
湿度0%、暁斎
暁斎の絵が
昔から大好きで
9年前にみたときから
「好きの理由」を
考えていました。
今回みて気づいたのが
「湿度がない」。
彼の絵って
「からっ」
としているんです。
じめっ、
じとっとした感じがない。

File:Brooklyn Museum - Sketch - Kawanabe Kyosai - 2.jpg
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Brooklyn_Museum_-_Sketch_-_Kawanabe_Kyosai_-_2.jpg
かえるなのに、カラッとした絵。
筆はどれも見事でうまい
でも嫌な重さがない。
筆が
すきっとしている、とも言えます。
筆を抜く難しさと
抜いた先に残るもの
筆には
画家の本質が現れると思います。
本来は「欲」がでてしまうのですが
欲を抜き切った筆には
絵師の根っこの部分が
現れてきます。
研いで研いで研いだ先に残るのは
画家の本質。
究極まで追い詰められた時の
その人の本質。
暁斎の場合は
「根明」だと思います。
彼のさいごのさいごは、
明るいのです。
だから、筆の欲が抜けた先が
カラッと、明るい。

妖怪でも、じとっとせず
なぜか明るくユーモラスで
カラッとしている。
つい自分も
加わりたくなるような
明るさなのです。
「カラッと」させることができたのは
暁斎ならではの
才能であり
今もなお愛され続ける
絵の秘密
なのだと思います。
まとめ 梅雨に合う暁斎画
暁斎展を見終わって感じたことは
「上手い」という言葉だけでは
全く足りない
ということでした。
技術はもちろんあります。
でも
その技術を誇示するのではなく
筆から余計なものを抜き切っている。
力まず、濁らず、
描き手の欲を消す。
そして最後に残るのは
対象と、その画家の
いちばん奥にある本質なのだと思います。
だから暁斎の絵は
何度見ても
重くならないのだと思います。
東京の今年の6月は
梅雨らしい梅雨で
じめじめした雨が続きました。
梅雨の湿った空気の中で見ると
その「からっ」とした筆遣いが
いっそう心地よく感じられました。
展示は終了しておりますが
2017年にご覧になった方も
初めての方も
次に暁斎作品と出会う
機会がありましたら、
ぜひ「何を描いたか」だけではなく
「筆が何を残し、何を抜いたのか」
を見てみてください。
暁斎の"上手さ"が
技術だけではないことがわかると
より一層楽しめると思います。
記事をまとめてみました。
ご興味のある記事がありましたらぜひお読みください!
はじめに01 -絵の声を聴く、アート鑑賞について- 好きな画家さん一覧
https://note.com/killamaru/n/n0cb504116a87
書き始めた経緯やこのNoteの説明など
はじめに02 -アートの声を聴く鑑賞について-
https://note.com/killamaru/n/n3b42879699f8
「はじめに」の続きですが、私のNoteの中では、♡率が高くて、ありがたいです。
はじめに03 -審美眼は何年で身につくもの?
https://note.com/killamaru/n/ne9792bc439fe
<ドイツ旅2026>
ドイツから戻ってきました -2026.01.13 近況報告-
https://note.com/killamaru/n/nce677f79afbc
デューラーと話したくて家に2回おしかけた話 - デューラーズハウス -
https://note.com/killamaru/n/n681100d72660
フェルメール報告会 - ドイツ旅で鑑賞した絵のレポート -
https://note.com/killamaru/n/n9509726b7b11
フェルメールに隠された法則 - 嫌いだったフェルメールが好きになれた秘密 - [ディープ]
https://note.com/killamaru/n/nab3fbbd02386
<若冲>
若冲からはじめて呼ばれた話 -泉屋博古館東京-
https://note.com/killamaru/n/n79a61287feed
若冲は、今日も私を呼ぶかしら - 三井記念美術館「円山応挙」展 -
https://note.com/killamaru/n/na07051e46676
若冲は、もう1人の天才にためらう、の話 - 東京藝大美術館 -相国寺展
https://note.com/killamaru/n/n85b940e93ef9
<ゴッホ>
[ディープ]ゴッホのひまわりって、おいしいの? - 西洋美術館 ロンドン・ナショナル・ギャラリー展
https://note.com/killamaru/n/n69330619f156
「あなたはどんな鑑賞タイプ?」と「ゴッホの死相」について ゴッホ展 -東京都美術館-
https://note.com/killamaru/n/na3e315c32ca0
ゴッホ美術館(アムステルダム)に行ってきた -美術館レビュー(絵多め)-
https://note.com/killamaru/n/n4e65dea66a63
おいしそうな絵はここにも(ピエール・ボナール) -「ひまわり」異変の後日談-
https://note.com/killamaru/n/n32920ae6c2de
<美術展>
ブラックホールを作りだせる画家 -仙厓展@出光美術館- [ディープ]
https://note.com/killamaru/n/n576fe4a903b7
絵から音がしない理由 -ユトリロ展(SOMPO美術館)-
https://note.com/killamaru/n/nd086f4b57077
定家にきゅんきゅん -国宝熊野御幸記と藤原定家展レポート(三井記念美術館)-
https://note.com/killamaru/n/ne15a8591b9e4
伊勢物語展 -根津美術館- 岩佐又兵衛に感じるもの
https://note.com/killamaru/n/n522358cdf891
僧侶の背中には、実は何があったのか -特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」-
https://note.com/killamaru/n/nb87fb034c08e
マチュピチュの展示じゃない?!けど、興味深い -マチュピチュ展-
https://note.com/killamaru/n/n5dd9d6de4666
<岡本太郎とウォーホル>
岡本太郎の絵をめくってバックヤードをのぞいた話[ディープ] - ウォーホルの続き -
https://note.com/killamaru/n/ndd21dc5e0255
アンディ・ウォーホル「SERIAL PORTRAITS」展(ルイヴィトン) - 岡本太郎のために力をお借りします -
https://note.com/killamaru/n/ndd1a969b04ba
<ランキング>
[異変の起こった美術展ランキング]2025年行った美術展の中から)
https://note.com/killamaru/n/n853c88ce272c