
《見返り美人》を見に行ったら、鈴木其一に全部持っていかれた -静嘉堂文庫美術館「元禄!師宣劇場」-
数あるnoteの中から
ご訪問いただきありがとうございます。
今回は、
静嘉堂文庫美術館(東京・丸の内)にて
開催された
「元禄! 師宣劇場
十二ヶ月風俗図巻 大公開」展の
レビューをしつつ
会期自体が終了しましたので
(2026年8月23日まで)
大好きな江戸琳派についても
書いてみたいと思います。
「見返り美人」の<本物>を
見るため静嘉堂へ
今回
展示に伺ったお目当ては
菱川師宣の
《見返り美人図》です。
以前、
東京国立博物館で
見たことはあったのですが
その時は複製の展示でした。
今回は本物が
2週間限定(6/27-7/12)で
展示されるということで
その期間を狙って
お出かけしました。
師宣、やはり、赤が美しい
複製を見た時から
師宣の赤は
とりわけ美しいと
感じていたのですが
本物ももちろん、
期待を裏切らず
赤が美しい。
名画を実際に見ると
「思っていたのと違った!」
となることもありますが
今回は
「うん。やっぱり美しい」。
次回展示されることがありましたら
ぜひ本物の展示期間を狙って
見てみてください。
おすすめです。
《見返り美人》の着物を展示
今回はさらに
とても興味深い展示も
ありました。
見返り美人の着物を再現し
マネキンに着せて
展示してありました。
(会場の解説では
印刷技術を用いた
復元と紹介されていたと
記憶していますが、
リンク先のものと同一かは
確認できませんでした。
ただ、
とても似ていますのでご参考までに)
着物は、
遠くから見ると
とても美しかったです。
「あの見返り美人が着ていた着物は
こんな感じだったのか」と
絵から現実へ飛び出してきたようで
楽しい展示です。
ただ、近くへ寄ってみると・・・
やはり
「インクジェット」だ。
という感じも、やはりしました。
でも、これも面白い体験でした。
今まで博物館で国宝・重文を含めた
昔の染織をいろいろ見てきたからこそ
「本物の染めや織りって
やっぱりすごかったんだ」
「インクジェットを超える美しさ」に
逆方向から気づけたからです。
良いものを見分けられるようになるには
比較するものも見ることが
大切なのかもしれない、
と改めて気付かされました。
復元品や複製を見ることも
勉強になりますね。
そして全部、
鈴木其一に持っていかれた
そして。
《見返り美人図》を
見にきたはずなのですが。
最後のほうで出会った
鈴木其一《雪月花三美人図》。
実は、今回の鑑賞レポートは
ここからが本題です。
今回は
其一に全部持っていかれました・・・
其一の雪、月、花
鈴木其一の《雪月花三美人図》は
江戸・文政期(1818〜30頃)の三幅です。
https://bijutsutecho.com/magazine/news/report/32718/pictures/12
美人図の上に描かれた
雪と月と花。
自然が持つ
柔らかさと美しさ。
そして、
女性の持つ
凛とした佇まい。
江戸の粋を感じる三幅です。
ああ、其一だ。
と思いました。
其一が筆の中に忍ばせた
メスのような刃が、
チラッチラッと見えるのです。
なぜ其一はこんなにキレッキレなのか
鈴木其一は
酒井抱一に学んだ
江戸琳派の絵師です。
1828年に抱一が亡くなった後は、
師の画風を受け継ぎながらも
其一自身の個性が
より強く前面に出てきます。
その後の其一が
ものすごくキレッキレ。
有名な
《夏秋渓流図屏風》
などを見ると
もう「抱一の弟子」
という言葉だけでは
収まらないところまで行っています。
(鈴木其一の
ウィキペディアページのサムネが
夏秋渓流図屏風です)
今回の《雪月花三美人図》は
1818〜30年頃の作品とのこと。
制作年代は1818〜30年頃とされ、
その推定年代は
抱一の存命中から
没後にまたがっています。
だからでしょうか。
花や雪には
抱一から受け継いだような
柔らかな美しさがありながら
女性の線や構図には
のちの其一につながる
鋭さがチラチラと見える。
「あ、其一が出てきてる」
という感じがするのです。
しかも、この三人の女性。
実は髪型も衣装も
其一が生きた時代より古い
「元禄風」なのだそうです。
江戸後期には
菱川師宣が再び注目される
「師宣リバイバル」ともいえる
動きがあり
この作品もその一つと
考えられています。
つまり私は
《見返り美人図》を見に来て、
展示の最後で
約200年後の其一が描いた
「元禄風の美人」に
出会っていたわけです。
でも面白いのは、
其一が昔の絵を
そのまま再現していないこと。
髪型や衣装は元禄。
でも線は其一。
植物も其一。
そして画面に漂う
あの妙な鋭さも其一。
昔の美しいものを受け取りながら、
ちゃんと自分の絵にしている。
こういうところも
琳派の面白さなのかもしれません。
でも、抱一だってキレッキレ
では師匠の抱一は
「ほんわりしただけの人」
なのかというと
全然そんなことは
ないと思います。
静嘉堂が所蔵する
《波図屏風》なんて、
画面いっぱいに波が押し寄せる
なかなか攻めた作品です。
しかもこの作品は
抱一が敬愛した尾形光琳の
《波図屏風》に想を得たもの
ということで。
ここでもまた、
昔の絵師を見て、
受け取って、
自分の絵にする。
琳派って
こういうことを
何世代にもわたって
繰り返しているんですよね。
宗達から光琳へ。
光琳から抱一へ。
抱一から其一へ。
(その先もあります)
しかも
直接の師弟ではない人まで含めて
昔の天才を見て
「これ、いいなあ」
「自分ならこう描こう」
と受け取っていく。
でも、同じ絵にはならない。
抱一にも其一にも
たしかに「刃」があります。
ただ、私には
抱一の刃は
柔らかさの中に隠れているように見える。
其一は時々、
その刃を隠しきらない。
抱一の絵には
「凛」と「柔らかさ」の
配分の絶妙さを感じます。
其一はそこから時々、
柔らかさを振り切って
「そこまでやる!?」
というところまで
いってしまう。
たぶん私は、
そんな江戸琳派の
お二人が好きなのです。
見返り美人を見に行って、
其一を連れて帰る
今回のお目当てだった
《見返り美人図》は
想像どおり美しく。
復元された着物を見て
本物の染織のすごさにも
改めて気づきました。
それだけでも
十分楽しい
展覧会だったのですが、
最後に待っていたのが
鈴木其一。
しかも振り返ってみれば、
《見返り美人図》から
《雪月花三美人図》へ
という流れは、
元禄の美人が
約200年後の江戸で
もう一度受け取られ、
描き直された歴史でもありました。
そして私は
師宣を見に行ったはずなのに、
結局最後には
「やっぱり其一、
キレッキレだなあ」
と言いながら帰ってきました。
昔の絵師が
そのまた昔の絵を見て、描く。
その絵を
200年後の私たちが見て、
また好きになる。
光琳も、抱一も、其一も。
そんなふうに
絵を受け渡してきたからこそ
琳派は今見ても
こんなに面白いのかもしれません。
《見返り美人図》を
見に行ったはずなのですが、
今回も結局
其一に全部持っていかれました(笑)。
展覧会自体は
すでに終了してしまいましたが、
《見返り美人図》にも
鈴木其一にも
またどこかで
会える日を楽しみにしています。
(そして現在。
東京都美術館(東京都・上野)
にて開催中の
大英博物館「百花繚乱」展
にて展示されている
《三十六歌仙図》。
こちらもなかなかの
切れ味でしたので
ぜひご覧ください。
記事にてレビューを
書いております。
よろしければ
併せてお読みください)
質問、聞きたいこと、ご感想等、
お気軽にコメントを書いていただけるとうれしいです。
関連記事リンクをまとめてみました。
ご興味のある記事がありましたらぜひお読みください!
○今回の記事に関連するもの
2026年9月に行った展覧会の記事です。
鈴木其一の作品についてもレビューしています。
琳派、特に
尾形光琳の
杜若図屏風をテーマに書いた記事です
○日本画について書いた記事
○その他
はじめに01 -絵の声を聴く、アート鑑賞について- 好きな画家さん一覧
https://note.com/killamaru/n/n0cb504116a87
書き始めた経緯やこのNoteの説明など
はじめに02 -アートの声を聴く鑑賞について-
https://note.com/killamaru/n/n3b42879699f8
「はじめに」の続きですが、私のNoteの中では、♡率が高くて、ありがたいです。
はじめに03 -審美眼は何年で身につくもの?
https://note.com/killamaru/n/ne9792bc439fe
美術鑑賞の余談と後日談
https://note.com/killamaru/n/nd40d5d0af577