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受け継いだのはお店ではなく「おいしい」を届けたい気持ち。ー繋がっていく5つのレシピー[2026創作大賞入選作品]

    私は、お弁当屋になるつもりなんて、まったくありませんでした。

    はじめは右も左もわからない。
    何が何だかわからないまま始まったお弁当屋生活に、正直、何度も逃げ出したくなりました。

    それでも気づけば毎日お弁当やお惣菜を詰め、お客様と「今日のおかず」の話をしています。

    人生って、本当にわからないものです。

    楽しくないと思っていた日々は、少しずつやりがいに変わり、開業して三年が過ぎました。

    毎日同じように料理を作っているつもりでも、お客様との会話や、店長とのやり取り、季節の移り変わりの中で、少しずつ見える景色が変わってきたのです。

    だから、作り方が変わってもいい。
    調味料が変わってもいい。
    時代に合わせて、少しずつ形を変えてもいい。

    そうやって守ってきた料理たちが、今日もお弁当の中に並んでいます。

    創業者から受け継いだのは、レシピではありませんでした。
    お客様に「おいしい」を届けたい。その気持ちだったのだと思います。

    今日は、たんぽぽで受け継がれてきた5つのレシピと、一緒に受け継いだ大切なものをお話しします。

    揉めたポテサラと救いの『ラペ』

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    ある日のポテトサラダ。

    このポテトサラダをめぐって、店長と創業者は何度もぶつかりました。
    あのピリついた空気・・・二人とも本気でした。
    わたしもここだけの話。
    いまだに「ポテサラにりんご?」と思うことがある。

    でも、お客様からも「ここにしかないから」「ほっとする」「ついつい買っちゃう」と言われる一品。
    疑問符はあるものの、味見のたびに「このじゃがいもの味に、シャキッとした食感と爽やかな甘さ。いいよな。」と毎回思ってしまう。

    結局、完敗です。

    ただ、この子には弱点があります。水分が多く、夏のお弁当には向きません。

    そこで、元イタリアンフレンチのシェフだった店長が作ったにんじんラペが登場しました!
    夏になると、りんご入りポテサラは少し休憩。その場所を、にんじんラペが引き継ぎます。今では「あのサラダ入る?」と聞かれるほど人気者。

    主役交代ではなく、季節ごとのバトンタッチです。

    泣きながらつくる『肉団子』

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    忙しすぎて記憶がない。そんな開業当初。

    店長が作った肉団子を食べた創業者が一言叫んだ。
    「この肉団子は、たんぽぽの肉団子ではない!」
    OPENしてから、やっとたんぽぽの肉団子の話を聞いたんです。
    えっ!肉団子って、そんなに変わる??私は意味がわかりませんでした。それだって、十分なのに・・・。

    「とにかく玉ねぎたっぷり。柔らかい。玉ねぎ団子って呼ばれてるくらいよー」というので、レシピを聞くと、こう返ってきました。

    「そうね……だいたいお肉より多く玉ねぎを入れれば大丈夫!!」

    「何グラムですか??」

    「とにかくいっぱいよ!!」

    結局、「とにかくいっぱい」を数字に置き換え、季節ごとの玉ねぎの違いと向き合いながら、今のレシピにたどり着きました。
    何度泣いたかわからない。今も泣きながらつくる肉団子は(泣いてるのは、玉ねぎだからね)うちの看板商品です。

    「これが食べたくて来たんだよ。」「ここにしかないんだよね」

    そんな声をいただくたびに、今日も目は痛いけど作ろう!と思います。

    どんな顔の子が来ても大丈夫。『ナス田楽』

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    ナス田楽は、たんぽぽのお弁当でずっと名脇役を務めてきた料理です。だからこそ、ある日ちょっと困ったことが起きました。

    八百屋さんを変えた時に、届くナスも変わりました。品種が違う。大きさが違う。太さも違う。

    「これ、どうしよう。」

    今までと同じように切れない。スタッフさんも困っています。

    でも、その時ふと思ったのです。
    「今までも、お客様は『今日は大きいな』『今日は小さいな』と思っていたかもしれない。」それって、本当にいいんだろうか?

    そこで私たちは、切り方を見直し、重さを意識し、味噌の量も決めました。

    少し手間は増えました。でも、そのおかげで今は困りません。

    どんな品種のナスが届いても、その子に合わせて美味しく仕上げられるようになりました。

    名脇役は、いつも安心してそこにいてくれる存在であってほしい。そんな気持ちで、今日もナス田楽をお弁当に詰めています。

    たんぽぽのパートナー『筑前煮』

    「創業者は、いつも筑前煮から料理を始めてたよ。」一緒に働いていたスタッフさんからそう聞いた時、なんだか嬉しくなりました。

    出汁の香りからたんぽぽの1日は始まるのは、今も同じ。
    店長(夫)は、前日に下味をつけた筑前煮を冷蔵庫から出して温める。

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    いい香りに包まれていると・・・「おはようございます」とスタッフさんが出勤してくる。それが毎日の景色。

    見た目は昔とほとんど変わりません。でも、出汁は変わりました。醤油も変わりました。切り方も、誰が作っても同じになるように整えました。

    少しずつ変わっているのに、筑前煮はずっと筑前煮のまま。
    派手ではないけれど、いつも隣にいてくれる。

    正直、根菜を煮るのは、めんどくさいんです。でも、たんぽぽにとって筑前煮は、パートナーのような存在。大事なお惣菜です。

    222度の答え。『焼き鮭』

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    「冷凍のまま焼けるわよ。」と創業者は言いました。
    確かに焼ける。でも、それは創業者がめちゃくちゃ忙しくて、魚焼き機をフル活用していた時の話。きっと、そうじゃないと間に合わなかったのだろう。でも、今は機械も違う。量も違う。最適解があるはず・・・。

    店長は、納得がいかなくて、何度も調整を重ねました。
    結果、スチコンで蒸してから焼く方法に辿り着きました。
    温度は222度。
    理由を聞くと、「なんとなくゾロ目がいいかなって。」それだけでした。
    (とても店長っぽい。)

    創業者が忙しい時代に見つけた答えと、私たちが今見つけた答えは違います。
    でも、どちらも「おいしいお弁当を届けたい」という気持ちから生まれた答えでした。


    このところ、新しいお弁当を作りたかったので、創業者からいただいていたお弁当のアルバムを開くことがありました。

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    そこには、今よりずっと賑やかで、懐かしくて、なんでもかんでも詰め込んである、おかあさんのお弁当が並んでいます。

    ページをめくりながら、ふと思いました。
    「なんか、変わりすぎちゃったのかな。」

    正直、創業者のお弁当の方がずっとおいしそうに見えたのです。
    でも同時に、言われた言葉を思い出しました。

    「あの頃のようにはできないのよ。いい時代だったの。だから、あやちゃんたちが自分たちのやりたいようにやっていいのよ。頑張ってね。」

    そうか。変わっていくものなのです。
    そのなかで、私たちが受け継いできたのは、レシピだけではありません。

    創業者や、一緒に働いてきた人たちの「おいしいを届けたい」という温かい想いでした。

    これから先も、お弁当の形は変わっていくでしょう。
    でも、その想いだけは、変えずに守っていきたいと思います。

    この記事が受賞したコンテスト

     
     
    静岡市・浅間通りで夫婦でお弁当屋「たんぽぽ」を営んでいます。 保育士から、お弁当屋の妻へ。料理のこと、商店街のこと、夫婦で営む小さな店の日常を毎朝綴っています。暮らしと商い、ときどき創作。 2026年note創作大賞にて入選。

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