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あわてんぼうな郵便配達員 【アカリウムお題ガチャ ショートショート】

    眼前に一面の雲海を望む第六黄泉比良坂ペデストリアンデッキを、モモコは全速力で駆ける。その視線の先には、灰色のロングコートを翻し、全力疾走する初老の男の後ろ姿があった。

    「佐々木さん! 待ってくださーい! 郵便ですー!」

    モモコが声を上げると、佐々木は振り返りもせず「いらん!」と返してきた。

    「書留なんですよー! 受け取ってってば!」
    「いらん!」

    佐々木は蜘蛛の巣の如く縦横無尽に張り巡らせられた連絡橋を、キビキビ曲がる。見たところ、50歳は越えていそうに見えるが、身のこなしが妙に軽やかだ。

    「もう!」

    モモコは、連絡橋の手すりに飛び乗り、後ろ足にぐっと力を込め、蹴り出した。デッキを飛び越え、まっしぐらに飛んでいく。

    「モモコ! 後ろだ」

    よく通る声が耳に入り、ハッと背後に気配を感じた。振り返ると、カラスのマスクを被った黒装束が忍び寄っている。配達鞄を掠め取ろうと伸ばしてくるその手を、モモコは器用に身をよじってかわし、デッキの手すりに尻尾を引っ掛けてぶら下がった。カラスマスクはこちらを一瞥して、雲海へ消えていく。バサバサと羽音がして、白鳩の鳩ケ谷先輩が近づいてきた。

    「無茶が過ぎるぞ。雲海の下は地獄だ。戻ってこれなくなる」
    「あのカラスの面かぶった人は落ちていきましたよ」
    「滑空していた。恐らく雲の中に隠れてる。翼も持たない猫のモモコとは違う」
    「なんなんですか、あの人」
    「奪い屋だ。俺たち郵便配達員の配達物を狙っている」
    「ぐぬぬ、迷惑な」
    「それよりも、依頼主を早く追うんだ」
    「そうだ! 佐々木さん!」

    視線をデッキに戻すと、佐々木はだいぶ小さくなっている。モモコはするりと手すりをのぼり、再び駆け出した。


    佐々木の背中を追って、モモコは連絡橋を右へ曲がる。鳩ケ谷先輩も上空からついてくる。

    「モモコ、雲の中!」

    白い雲が割れた。カラスマスクが飛び出し、滑空しながら突っ込んで来る。狙いはまっすぐ、モモコの配達鞄だ。

    「しつこい!」

    急停止すると、カラスマスクの手が鼻先をかすめた。着地したところへ、モモコは飛びかかる。

    「泥棒猫、しないでくださいよお!」

    尻尾を鞭のようにしならせ叩きつけるも、カラスマスクはするりとかわした。

    「その書留、転生証明書なんだろう? どうせあの爺さんは受け取らねえんだ。よこせよ」
    「郵便物の中身は教えませーん」

    モモコはベッと舌を出す。

    「転生証明書は高い“徳”で売れるからな。命が惜しけりゃさっさと渡しな」

    カラスマスクが腕を伸ばしたところを、モモコは低く沈んでかわし、懐へ潜った。前足で外套を掴んで投げ飛ばす。

    「なにい!」

    モモコを小さな猫だと侮っていたカラスマスクは、いとも容易く自分が投げられたことに驚愕したようだ。体制を立て直そうとするが、そこへ急降下してきた鳩ケ谷先輩の強烈な頭突きを喰らい、倒れた。

    「あー! とどめの一撃を!」
    「バカ! 目的を見失うな! 受取人を見逃すぞ」
    「そうでした! ああ、あんな遠くに!」

    モモコは再び駆け出した。「クルッポー」と、鳩ケ谷先輩もついてくる。

    「佐々木さん、足、早過ぎじゃないですか? 私、かけっこは得意なんですけど」
    「ここは彼岸だからな。此岸で一番調子が良かった頃の状態にチューニングされるんだ」
    「でも、若い頃の姿じゃないんですね」
    「姿は姿で、別物だ。思い入れのある姿が反映される」
    「なるほど」と、納得した。モモコ自身、生前にもっとも思い入れの深かった頃の姿で過ごしている。
    いくつもの分岐を経ると、徐々にデッキは一本道になっていった。佐々木の背中は、少し近づいている。

    「鳩ケ谷先輩、この先って何かありましたっけ」
    「……いや、デッキ自体は行き止まりのはずだが」

    その瞬間、キーンと耳をつんざくような音が上空から聞こえて来た。見上げれば、またしてもカラスマスクだ。マスクが半分割れ、憤怒の表情が覗いている。

    「許さねえぞお! てめえらあ!」

    カラスマスクは体に横回転を加え、まるでドリルのように突っ込んできた。進路上を飛んでいた鳩ケ谷先輩は、回転に巻き込まれ吹き飛ばされる。モモコが慌てて鳩ケ谷先輩を受け止めるも、軌道を変えたカラスマスクは、もうそこまで近づいてきていた。

    「はははは! 喰らえやあああ!」
    「おのれ! もう許しませんよ! はあ!」

    モモコは尻尾をデッキに突き刺して軸にし、思い切り回転した。

    「うおおお! モモコトルネーーーード!」

    コマのように回るモモコを中心に、小さな竜巻が巻き起こる。逆回転の空気の渦に巻き込まれ、カラスマスクの翼はズタズタに引き裂かれた。

    「ぐおお!」
    「勝機!」

    ぐっと後ろ足に力をこめ、跳ぶ。竜巻の暴風に後押しされ、まっしぐらにカラスマスクへ向かっていく。

    「必殺! モモコキ――――――ック!」

    強烈な回転がかかったモモコの飛び蹴りを喰らったカラスマスクは、茜色に染まる空の彼方へ飛んでいき、やがて雲海に落ちていった。デッキにふわりと着地したモモコは、鳩ケ谷先輩に駆け寄る。

    「鳩ケ谷先輩! 大丈夫ですか!」
    「お前、なんてメチャクチャなやつなんだ」
    「通信空手、やっといてよかったです!」
    「……空手の技名じゃねえだろ」
    「戦闘は、テンションの高い方が勝つ! 少年ジャンプに書いてありましたから」

    呆れてものが言えない鳩ケ谷先輩を背中に乗せ、モモコは再び駆け出した。


    デッキの行き止まりで、佐々木に追いついた。手すりに両腕を預け、眼下に広がる雲海をじっと眺めている。

    「もう逃げないでくださいよお」

    モモコは配達鞄から書留を取り出した。

    「転生証明書です。受け取ってください」
    「いらん」
    「まだ言う!」

    思わず尻尾がぴんと立つ。

    「これを受け取ったら、転生できるんですよ? そのために徳を積んだんじゃないんですか?」

    佐々木は答えず、雲海を指差した。雲が割れ、その向こうに街が覗く。遥か下を走る電車。駅前の商店街。信号待ちをする人の群れ。その中に、一人の女性がいた。

    「あれ、娘なんだ」
    「娘さん?」
    「俺が死んだ時は、まだ高校生だった」

    女性は買い物袋を提げ、誰かと電話をしながら笑っている。

    「ここに来ると、たまに見えるんだよ。転生したら、あいつのことも忘れるんだろ」

    モモコは書留を見る。何も言い返せなかった。背中から「クルッポー」と、声が上がる。

    「本人確認済みの受取拒否。こうなったら、持ち帰るしかない」

    鳩ケ谷先輩が告げると、モモコの尻尾がしゅんとうな垂れた。鳩ケ谷先輩は続ける。

    「ただ、息切らして職務を全うしようとした、コイツが得られる徳も、半分になるでしょうな」
    「そうか」

    佐々木は、小さく頷き「じゃあ、受け取ろうか」と、振り返った。モモコは「えっ」と、漏らす。

    「転生する気になったんですか」
    「いいや。俺が受け取らないことで、あんたの徳が積めなくなるのが悪いと思ったんだ」

    佐々木は、モモコから書留を受け取った。

    「それだけ必死なんだ、転生したい理由があるんだろう?」

    神妙な面持ちのモモコに、佐々木は訊ねる。

    「転生したら、サンタクロースになるんです」
    「なるほどな。だから今、配達員を頑張っているのか」

    佐々木は、受取にサインを書きながら「だとしたら、そのあわてんぼうな性格は、少し直していかないとな」と、愉快そうに笑った。

    鳩ケ谷先輩が「あばれんぼうで、きかんぼうなところも」と、続くと、モモコは「精進します」と、照れくさそうに頭を掻くのだった。


    あとがき

    みなさんこんにちは。どてらいと申します。物書きを生業にして、米と味噌を買う日々を過ごしています。

    さて、今回の記事は、お世話になっている赤髪のあかりさんが、始めた「アカリウムお題ガチャマガジン」で出たネタを使った記事だったりします。

    お題ガチャを引くと、「ジャンル×舞台×スパイス」が出てくる。そのお題に沿って書いた短編作品を、マガジンに登録していく。

    今回のお題はこちらだった。

    【サンのお題ガチャ】
    ジャンル:バトル
    舞台:雲の上の郵便配達路
    スパイス:3つの短い場面だけで構成する
    形式:3000字程度のショートショート

    これは……ちょうど書きたかった設定が書けそう。
    と、いうわけで、今回の記事を書いたということです。

    この話はつい先日公開した記事の後日談的な話だったりします。

    と言っても、僕が構想を練っている「ぶっきらぼうなサンタクロース」の続編はもっと別の話。むしろ、モモコが転生してからの話を書こうと思っていました。

    しかし、ガチャで偶然引き当てた「バトル×雲の上の郵便配達路×3つの短い場面だけで構成する」というお題が、モモコ像と合致していたので、急遽作ったのが「あわてんぼうな郵便配達員」です。

    思いもよらず、モモコがあの世でどう過ごしているかを描くことができて、なんだかとてもわくわくしました。せっかくなので、「モモコあの世編」を、もう少し描いてから、転生後の物語を描いてもいいかなと思い始めています。

    お題ガチャ、恐るべし……。



    余談


    さてさて、今回話題に出ました自作ゲーム!

    昔懐かしの2D RPGです。そのうち、しっかり販売しようとしています。

    今、テストプレイしてくれる人を募集してます!

    あわてんぼうな郵便配達員

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    あらすじ

    眼下に一面の雲海を望む第六黄泉比良坂ペデストリアンデッキ。
    天国と地獄の狭間にある不思議な世界で、モモコは郵便配達員をしています。
    今日も元気にデッキを走っているのですが、どうやら今回の受取人は、少しクセモノのようで……。

    テストプレイの期間

    2026年10月24日(土)~2026年11月15日(日)

    • 上記期間、テストプレイ用のURLを配布します。

    • 11月16日(月)に、いったんテストプレイの公開を終了、配布するURLを非公開に戻します。

    テストプレイの方法 

    以下のテストプレイリンクから行えます

    アンケートフォーム

    こちらからご回答を!

    こんなかんじです!

    一応周回要素もありますが、1週目は難易度が低いので15分もあればクリアできると思います。

    必ず、期間内にアンケートに答えてくれる方の応募をお待ちしております!


    原作小説

    原作小説は、noteで公開中です!

    あわてんぼうな郵便配達員

    天国と地獄の合間に存在する『彼岸』。

    そこで“徳”を積むべく郵便配達員の仕事をしているモモコの物語です。

    ぶっきらぼうなサンタクロース

    モモコが彼岸へ行く前の物語。

    とあるクリスマス、モモコが依頼したサンタクロース・香坂は全身真っ黒。

    どこかぶっきらぼうな態度の香坂に不信感を抱くモモコだったが……?

    リンゴ探偵と消えた手紙

    『あわてんぼうな郵便配達員』のスピンオフ。

    主人公は、彼岸の公園で色々な人のお悩みに耳を傾けるおばあちゃん「リンゴ」。

    郵便配達員・モモコが持ち込んだ誤配事件の真相を暴く、ミステリー小説です。

    リンゴ探偵と消えた手紙(ゲーム)

    小説『リンゴ探偵と消えた手紙』を原作としたノベルゲーム。 赤髪のあかりちゃんが作ってくれました。

    モモコ視点で調査をする「聞き込み」パートと、リンゴ視点で解明をする「証言」パートで分かれています。

    小一時間くらいでクリアできるので、おすすめです!

     
     
    創作とゲーム制作を生業とする物書き。ペデストリアンデッキ過激派。ポッドキャスト『バク然らいぶらり』スピーカー。

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