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人事評価はなぜいつも歪むのか #130

    企業は目的を達成するために、ヒト・モノ・カネ・情報・知識といった経営資源を活用しながら事業を運営しています。
    これらの資源をどう配分し、どう機能させるかは企業経営の根幹です。

    中でも「ヒト」は最も重要な経営資源とされ、近年では単なる労働力ではなく「HR(Human Resources)」として明確に資源化されています。
    さらに、採用・育成・評価・配置を統合的に設計するHRM(Human Resource Management)が、経営戦略そのものとして扱われるようになりました。

    そのような状況においても、「人をどう評価するか」だけは、合理性だけでは決して割り切れない領域でもあります。

    ■ 常に“他人を評価する側”でもある自覚

    人は社会の中で生きる以上、常に他者と関わり、その都度「評価」を行っています。
    それは意識的な判断だけでなく、無意識の印象形成も含まれます。
    同時に、自分自身もまた他者から評価される存在でもあります。

    ここで問題になるのは、評価が必ずしも客観的な平等なものではないという点です。
    好き嫌い、経験、価値観の違いによって、同じ人物でも評価は大きく変わってきます。

    心理学には「アンカリング効果」という現象があります。
    最初に与えられた情報が基準となり、その後の判断に強い影響を与える認知バイアスです。
    一度形成された印象は、その後の評価の“物差し”として固定されてしまいます。

    この現象は人事評価の場面でも強く働いてしまいます。

    ■ 評価はなぜここまで難しいのか

    企業における人事評価は、組織運営と人の人生に直結する極めて重要な仕組みです。

    一般的に評価は、「業績評価」、「能力評価」、「情意評価」の3軸で構成されます。
    しかし現実には、この評価の平等性を阻害する要因もあります。

    その背景にあるのが例えば「ハロー効果」です。
    ハロー効果とは、ある目立つ特徴に引きずられて全体評価が歪む現象です。
    この名称は、聖人の頭上に描かれる後光(halo)に由来します。

    例えば:
    * 印象が良い人は能力まで高く見える(ポジティブ・ハロー効果)
    * 印象が悪い人は能力まで低く見える(ネガティブ・ハロー効果)

    さらに、接触頻度や第一印象はアンカリング効果と結びつき、その不平等な評価を固定化して行ってしまいます。

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    ■ 評価制度は何度も失敗してきた

    こうしたバイアスを前提に、企業は評価制度の設計を繰り返し試行錯誤しています。

    1990年代初頭、多くの企業が成果主義(業績主義)を導入しました。
    しかし、短期的な数値目標への過度な偏重が生じ、成果と実力が必ずしも一致しないという問題が顕在化しました。
    結果として、長期的な組織力の低下を招いたケースも多く、制度としては広く“失敗の研究対象”として知られるようになりました。

    実際に、当社でも、当時の経営判断で成果主義による評価制度が導入された過去があります。
    しかし、その不平等な評価結果から社員のモチベーションが著しく低下し、約1年で廃止されました。
    その後、改善策として、プロセス重視の評価も導入されましたが、今度は評価基準の曖昧さが問題となり、社員たちからの納得感を得ることができませんでした。

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    ■ ジョブ型評価という試み

    現在は、次のような構造の評価制度となっています。

    * 業績評価
      客観的な目標設定に対する成果で評価する
    * 能力評価
      保有能力ではなく、実際に発揮・貢献した能力で評価する
    * 情意評価
      経営理念(バリュー)に基づき、誠実さや姿勢を評価する

    これらは、いわゆるジョブ型の考え方に基づき、「曖昧さ」と「主観」をできる限り減らす平等の元に評価する設計としています。

    ただし、これも完全な解決ではありません。
    それは、評価という行為そのものが、人間の認知バイアスから逃れられないためなのだと考えます。

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    ■ ハロー効果は“悪”とは限らない

    ハロー効果は、単なる評価の歪みとは捉えていません。

    例えば、第一印象や外見が内面評価に影響することは、日常でもよく見られる。
    * 姿勢は誠実さに見える
    * 服装は品格に見える
    * 表情は人格に見える

    これは単なる思い込みではなく、内面と外面が相互に影響し合う現象でもあります。
    身体や行動が心理に影響を与える「エンボディメント」という考え方にも繋がります。
    つまり、外見は内面の結果であると同時に、内面を形成する要因にもなり得るということです。

    特に初対面では、第一印象が評価の起点となります。
    ここで悪い印象が形成されると、その後の評価はアンカリング効果によって固定されやすいといえます。
    例えば、工場見学の場面で、だらしない服装の作業員を見た場合、いくら製品品質を説明しても信頼は揺らぎやすい。

    このように、人は論理だけではなく印象で判断してしまう側面を持つことは間違いありません。

    ■ 評価とは「正しさ」ではなく「構造」である

    人事評価の問題は単なる制度の問題ではありません。
    それは人間の認知構造そのものに根ざした問題といえます。
    だからこそ、評価制度は何度設計し直しても完全には解決しないものと認識しています。

    重要なのは、「正しく評価すること」ではなく、
    「どのように歪むのかを理解した上で設計すること」でだと捉えています。

    前提は、人は合理的に評価しているようでいて、実際には多くのバイアスの中で判断しているということです。

    * ハロー効果
    * アンカリング効果
    * 成果と能力の乖離
    これらはすべて、平等な評価を構造的に歪める要因です。
    そして評価制度の歴史は、その歪みを前提にした“調整の歴史”ともいえます。

    人事評価において重要なのは、完全な正解を求めることではないと受け入れる必要があります。
    その歪みを理解した上で、より納得可能な形に近づけ続けることなのだと思います。

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