
人事管理からHRM(人的資源管理)へシフト #106
■ 経営資源のなかでも重要な「ヒト」
企業が成長し続けるためには、ヒト、モノ、カネ、情報、知識などの経営資源を有効に活用するマネジメントが欠かせません。
なかでも、筆頭である「ヒト」、すなわち人材の重要性は高いと言えます。
それは、モノやカネ、情報を活かすのも、知識を蓄積し、新しい価値を生み出すのも、人だからです。
ところが、その企業活動を支える人材の確保が、大きな経営課題となっています。
背景には、少子高齢化に加え、限られた労働時間で成果を生み出す必要性や、技術・事業環境の変化によって、求められるスキルが変わっていることなどがあります。
単に人数を確保するだけでは、対応しきれない課題もあるのです。
そこで重要になるのが、人材を「人的資源」として捉える、HR(Human Resources)の視点です。
そして、その人的資源を戦略的に活かし、経営目標の実現につなげる取り組みが、HRM(Human Resource Management/人的資源マネジメント)です。
■ HRMとは、人と経営をつなぐこと
HRMでは、採用、教育、人事評価、人材配置、処遇などを、それぞれ独立した制度として運用するのではなく、一貫した方針で結びつけて考えます。
大切なのは、制度を整備して運用することにとどまらず、一人ひとりの能力を引き出し、組織と人、人と人との相乗効果を、事業の成果につなげることです。
例えば、新しい事業に挑戦するなら、必要な能力を明確にしなければなりません。
その能力を持つ人を採用するのか、今いる社員を育てるのかです。
さらには、力を発揮できる役割を用意し、その貢献をどう評価するのかまで考える必要があります。
その起点となるのが、企業が何を目指しているのかを示す経営理念です。
人材の問題は、人事部門だけに任せる課題ではありません。経営理念の実現に向けて、人と組織をどう育てていくかという、経営そのものの課題なのだと思います。
■ 人件費を管理するだけでなく 人材投資として活かす
従来の人事労務管理は、PM(Personnel Management)と呼ばれます。
雇用条件や労働時間、給与、人事制度などを適切に管理することは、今も欠かせません。
その土台の上で、さらに考えたいのが、人材の能力や可能性を、どのように企業の未来へつなげるかです。
人件費は、経営上、管理すべき費用です。
しかし、削減する対象としてばかり見てしまえば、育成や働く環境の改善まで抑え、将来の競争力を弱めかねません。
人材を資本として捉え、その価値を引き出すことで、中長期的な企業価値の向上につなげる。
それが、経済産業省の示す「人的資本経営」の考え方でもあります。
対して、人材にかかる費用についても、目先の金額だけでなく、どのような成長や価値につながるのかを考える必要があると考えます。
もちろん、投資と呼べば良いわけではありません。学んだことを実務で活かせる機会をつくり、本人と組織の成長につながったかを確かめてこそ、意味のある投資になります。
■ ジョブ型に変えれば 解決するわけではない
人事制度のあり方を考える際、現代であれば、メンバーシップ型雇用であるべきか、ジョブ型雇用であるべきかが問題となります。
メンバーシップ型は、会社の一員として人を迎え、配置転換や育成を通じて、担う仕事を広げていく考え方です。
一方、ジョブ型は、職務や責任、必要な能力などを明確にし、それに合う人を配置する考え方となります。
ただし、HRMを進めることが、そのままジョブ型への全面的な移行を意味するわけではありません。
職務を明確にすることで、期待される役割や評価基準が分かりやすくなる面があります。
同時に、部門を超えた協力や、長い時間をかけた技能の継承が重要な仕事もあります。
大切なのは、自社の事業に必要な働き方を明らかにすることです。
長期的に人を育てる良さを活かしながら、役割と責任を明確にする。
勤続年数だけに頼らず、発揮した能力や貢献を適切に評価する。
そのように、自社に合った仕組みを組み立てる必要があります。
長く働ける安心感と、挑戦や貢献が報われる納得感。
その両方を大切にしたいと考えています。
■ 評価は 次の貢献を生み出すためにある
成果を評価することは大切です。
しかし、短期的な数字だけを追わせる運用には注意が必要です。
達成率ばかりを重視すれば、挑戦的な目標を避け、無難な目標を設定したくなるかもしれません。
個人の成果だけで競わせれば、仲間を支える行動や、知識を共有する姿勢が評価からこぼれてしまいます。
成果主義を一律に否定するのではなく、何を成果として捉え、どのような行動を促すのかを考えることが重要です。
大切なのは、評価の基本は成果に置きながら、その成果を生み出したプロセスも見る必要があると考えています。
重要なのは、ジョブである、職務、やるべきことを具体化することことです。
その上で、持ち得た能力を発揮して、周囲への協力、知識の共有、そして、やるべきことを、やり切ったのかです。
それらを具体的な行動として捉え、本人と確認していくことが大切です。
当社では、誠実を「伝えたことを実現するために、やるべきことを、やり切る姿勢」と定義しています。
結果には、本人だけでは動かせない要因もあります。
それでも、実現に向けて何を考え、どう行動したのかは、次の成長につながります。
さらに、そのプロセスが言語化・数値化・視覚化され、記録として残れば、成果の再現性を高める組織の資産にもなります。
評価は処遇を決めると同時に、経営理念の実現に向けて、次の貢献を促す機会でもあるのです。
■ 学び直しを本人任せにしない
事業環境や技術が変われば、必要な能力も変わります。
そこで重要になるのが、新しい仕事や役割に必要な技能を身につけるリスキリングです。
ただ、社員に「学び直してください」と伝えるだけでは、十分ではありません。
会社はどこへ向かうのか。
なぜ、その能力が必要なのか。
学んだ先に、どのような役割があるのか。
それらが見えなければ、学ぶ意味を実感しにくいからです。
本人の希望と会社の方向性をすり合わせ、学ぶ時間や機会を整え、実務で試せる場をつくる。
社員の主体性を求めるのであれば、それを支える会社の行動も必要です。
これは、若手だけの話ではありません。
経験豊かな社員が新しい技術を学び、これまでの知見と結びつけることで、新たな貢献が生まれる可能性もあります。
例えば、AIを活用して、経験に基づく暗黙知を言語化し、次の世代へ引き継ぐことも考えられます。
本人の成長と、組織への知識の蓄積。その両方につながる人材開発を進めたいと思っています。
■ 人が育ち、企業が続く関係をつくる
限られた人材で必要な成果を生み出すには、人の努力に期待するだけでは限界があります。
年齢や性別、国籍、雇用形態などにかかわらず、それぞれが力を発揮できる環境を整える。
同時に、仕事そのものの進め方も見直さなければなりません。
AIによって情報整理の負担を減らす。
ロボットによって身体への負担が大きい作業を改善する。
必要に応じて、外部の専門性を活用する。
こうした業務の見直しを、人材の育成や配置と結びつける視点も大切です。
その際の目的は、技術を導入することではありません。
社員が安全に働き、能力を発揮し、お客様へより良い価値を届けられるようにすることです。
人にしか担えない判断や工夫、関係づくりに力を注げるよう、仕事の仕組みを変えていくことも、経営の役割だと考えています。
HRMに、すべての企業に通用する唯一の正解があるわけではありません。
従来の制度にも、長く人を育て、技能や信頼を積み重ねてきた良さがあります。
その良さを活かしながら、今の事業や働く人に合わなくなった部分を見直していくことが必要です。
経営理念から必要な人材像を考え、採用、育成、配置、評価をつなげる。
そして、社員一人ひとりの成長が、企業の発展につながる関係をつくる。
それがHRMの本質だと考えています。
人材不足への対応を、目の前の欠員を埋める活動で終わらせない。
人が育ち、その力が組織に蓄積される仕組みへと変えていく。
その積み重ねが、社会における存在意義を高め、持続的に経営を続けられる企業につながるのだと思います。
企業が成長し続けるためには、経営資源であるヒト、モノ、カネ、知識、知識などを活用したマネジメントが重要視されます。
なかでも、筆頭として重視されるのが、ヒト=人材です。
ところが、その人的資源が不足状態にあります。
その背景には、少子高齢化、労働時間規制、更には労働環境変化による新しいスキルに対応できる労働力不足など様々な要因があります。
その意味でも、近年の人事的なキーワードとして、HRが定着しています。
これは、Human Resourcesの略であり、単なる人材ではなく、人的資源を意味することとなります。
さらに、経営目標の達成を目指す機能として、HRを戦略的に有効活用するための仕組み、すなわち採用、教育、人事評価、人材配置などのすべてを統括するHRM(Human Resource Management)が重要視され始めています。
単に制度を整備して運用するだけでなく、組織と人材、人材と人材、それぞれの相乗効果によって事業に貢献できるように促す機能も含まれます。
そもそも、HRMが提唱される前の日本は、PM(Personal Management)でした。
つまり、人事労務管理です。
人件費は、固定費にあたります。
一般的な企業では、固定費は、コストです。
利益を確保するためには、如何に削減するかが重要となってきます。
つまり、PMは企業が利益を上げるにあたって、人材をコストとして捉え、労働力として、人事制度や労働環境を整え、それに基づき人材を管理統制する考え方でした。
一方、HRMは、人材を資源と位置付けています。
人件費が固定費であることは変わりませんが、コストではなく、投資と捉えるべきかと思います。
つまり、人材あるいは人件費を戦略的に活かして、企業の利益を上げる考え方です。
その様な日本で、HRMが、注目させるようになったのは、1990年代以降と言われています。
背景としては、バブル崩壊による経済が低成長時代に移ったことにあります。
また、少子高齢化の進展により、生産年齢(15〜64歳)の人口が減少傾向に転じた時期でもありました。
厳しい環境下で限られた人材を活用して成長して行かねばならない企業にとって、HRMの考えを取り入れることは、ある意味、当然の流れだったのだと思います。
大きな制度転換としては、メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への移行です。
従来の日本企業の多くは、大量に新卒者を採用して、社内でキャリアを積ませながら、適材を適所に配置するメンバーシップ型雇用でした。
同時に日本企業の雇用制度の特徴として従来より慣行されて来た制度の見直しも進みます。
その典型が終身雇用と年功序列です。
終身雇用とは、企業が正社員を定年まで雇用し続ける人事制度です。
対して、昨今の転職市場の活性化の影響で離職者が後を絶ちません。
企業側としては、社内でキャリアを積んだ社員が、やっと一人前になったくらいで退職されてしまうことになります。
また、年功序列とは、貢献度や意欲に関係なく、勤務年数で評価される傾向の強い制度です。
これも貢献意欲の高い社員にとっては悪影響であり、離職を促す要因ともなっています。
対して、導入が進んでいるのがジョブ型雇用です。
ジョブ型雇用とは、事前に職務(ジョブ)と必要とされるキャリアを明確にすることで、それに適した人材を配置する適材適所的な考え方です。
ジョブ型雇用を考えた時に、日本でも1990年代に大手企業が導入して話題となった成果主義の人事評価制度が思い出されます。
この成果主義は結果的に失敗だったとされています。
原因は、社員の行動を外発的モチベーションによって引き出そうとしたこととされています。
結果的に内発的なモチベーションは抑止されますので、社員は指示待ちとなってしまいました。
また、必要以上に目標値を高くしたところで、自分の立場を悪くするだけとなってしまうことから、無難な数値、出来るだけ低い目標を設定するようになっていまいました。
そして、組織として致命的だったのが、成果主義でえるため互いに協力し合う姿勢が希薄になったとされています。
人事評価の基準は、一般的に次の3つです。
・業績評価 — 目標に対する成果評価
・能力評価 ー 発揮・貢献した能力評価
・情意評価 ー 仕事に対する誠実な姿勢評価
評価の目的は、給与や賞与を決めるためのものではありません。
まずは、企業理念の実現です。
そのために、どれだけ貢献したか、そして今後貢献してくれるかを点数や給与・賞与によって客観化させたものだと言えます。
ジョブ型雇用の理想は、社員一人ひとりが自らキャリアを選択する自発的モチベーションを促す制度である必要があります。

これによって、労働者が自分の意思でリスキリングを行うことで、希望の職種を選択できます。
リスキリングとは、労働環境に合わせた新しいキャリアの学び直しです。
また、労働市場の活性化によって、社内の内部労働市場と社外の外部労働市場をシームレスで繋ぐことで労働移動を活性化することができるというものです。
しかしながら、現実は、労働者のリスキリングは進んでいません。
また、希望する職種に偏りが出ることで、希望の職種に就職できないまま無職であったり、逆に募集しても希望者が集まらない職種が出ています。
HRMでは、絶対的なセオリーが存在する訳ではありません。
例えば、終身雇用の様に採用した社員に如何に終身まで働いてもらえるような、個々のキャリアプランに沿った人材開発を行うことが重要です。
そのためのリスキリングなどの教育機会の整備なども必要となります。
また、年功序列ではなく、公明正大、信賞必罰で評価する制度も必要になってくると思います。
その他、男女の均等な機会および待遇の確保などは当然ですが、シニア人材やパート社員など、個々の多様性に応えた待遇改善などによる労働力の活性化などは大きな課題です。
また、人材だからと人材だけに依存する時代でもありません。
そこは、AIなどのデジタルやロボット、あるいは外部委託などもHRMの一環で検討して行かねばなりません。
各企業は、HRMの推進により、限られた人材で、必要なパフォーマンスを発揮できるような環境づくりをして行かねばなりません。
その意味でも、従来の日本、あるいは各企業の人事制度を全面否定するのではなく、良いところは活かして時代に合わせた取り組みをして行くことが大切に思います。