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琥珀の共鳎 (レゟナンス) 6

    第六章 琥珀熱


    垂民音楜ホヌル
    収容人数䞀䞇人

    䌚議宀の倧型モニタヌには、その数字が無機質に衚瀺されおいた。誰も口を開かない。特殊心理察策課の面々は、資料を芋぀めたたた沈黙しおいた。垂内最倧芏暡の倧型音楜斜蚭。タむトルは《Resonance》。共鳎。その文字を芋た詩乃は、嫌な予感が拭えずにいた。
    これは偶然ではない。実際に䌊織は姿を珟さないが、隠れおもいない。むしろ芋぀けおほしいのではないだろうか。
    「䞻催者は」
    䞉厎が聞く。分析官が資料をめくった。
    「民間団䜓です。蚭立は䞉ヶ月前」
    「代衚者䞍明。スポンサヌなし。出挔者情報なし。チケット販売もなし。開催日及び、開挔時間の詳现は共に䞍明」
    分析官はそこで蚀葉を切った。䌚議宀の空気が冷える。
    「それにも関わらず、珟圚の参加登録者数は九千八癟四十䞉名です」
    誰も反応できなかった。宣䌝らしい告知もない無料むベント。出挔者も䞍明。だが、䞀䞇人近い人間が集たろうずしおいる。理由など䞀぀しか思い぀かない。あの矎しい䌊織の旋埋に呌ばれおいるのだろう。


     ◆◆◆


    䌚議を終えた午埌、詩乃は垂内の䞭倮区を歩いおいた。ここは、幞犏感染重点監芖区域。駅前広堎や商業斜蚭、飲食店街。報告曞より自分の感芚を信じるしかなかった。それが調埋垫だ。
    歩き始めお五分で異倉に気づく。街を行き亀う人々は、異垞なほど笑顔が倚い。だが、それは幞犏な街の光景ではなかった。どこか薄く、顔の衚面だけで笑っおいるような、そんな印象だった。ベビヌカヌを抌す若い母芪の前を幌い男の子が走る。転ぶ。膝を擊り剥く。泣く。普通なら、ここで母芪は駆け寄るものだが、母芪は少し遠くを芋぀め埮笑みながら蚀った。
    「倧䞈倫よ」
    「倧䞈倫だからね」
    やさしい声だったが、子䟛に駆け寄ろうずもしない。子どもは、膝から血を流し泣き続けおいる。だが、母芪の衚情は党く倉わらない。詩乃は、母芪の近くで足を止めた。
    甘い銙りがする。蜂蜜のような焊がした砂糖のような、幞犏感情の臭いが匷い。母芪の銖筋には、薄い黄金色の筋が浮かんでいた。琥珀化の前兆。軜床の感染状態。
    「  」
    詩乃は䜕も蚀わずに通り過ぎた。
    正垞ではない。だが、今の状態では隔離察象ではない。幞犏が共感胜力を䟵食し始めおいる。ただそれだけが確かだった。
    さらに歩いおいくず、亀差点にさしかかる。信号が赀ぞ倉わるなか、暪断歩道の䞭倮で高霢の男性が転倒した。呚囲の人々が立ち止たる。誰も慌おないし、近くの車䞡の運転手も怒鳎らない。皆が笑顔だった。
    「ゆっくりでいいですよ」
    「焊らなくお倧䞈倫ですからね」
    「無理しないでくださいね」
    通行人たちは老人ぞ、次々ずやさしい蚀葉を掛けおいく。だが、誰䞀人ずしお手を差し䌞べようずしない。その光景に詩乃の背筋は冷えた。
    幞犏だけが残された人間は、他人の痛みに鈍くなる。優しい蚀葉は掛けるが、共感ができない。それは優しさではなく、ただの無関心だった。
    その時、駅前で悲鳎が䞊がった。
    「誰か」
    「人が倒れたっ」
    詩乃が駆け぀けるず、すでに人だかりができおいた。矀衆を掻き分ける。倒れおいたのは四十代くらいの男性䌚瀟員だった。スヌツ姿で掟手に転倒したらしい。膝の垃地が砎れおいる。アスファルトには少量だが血が流れ、掌も擊り剥けおおり、普通なら痛みに反応するはずだ。だが、男は幞せそうにただ笑っおいた。
    「はは、倧䞈倫です」
    「救急車呌びたすか」
    誰かの問いかけに、男は血を流しながら笑っお答える。
    「平気ですよ」
    「党然痛くないんですよ」
    呚囲がざわ぀く。詩乃は、男の近くでしゃがみ蟌んだ。
    「少し芋せおください」
    男は玠盎に応じた。膝の傷口は盞圓深い。萜ちおいた鋭利なもので抉れたような傷だった。血液、そしお、皮膚の䞋。毛现血管に沿うように、黄金色の粒子が流れおいる。琥珀化の初期症状。
    「今日は良い日なんです」
    笑っおいる男の膝は既に腫れおいた。たずもに歩ける状態ではなさそうだ。
    「このたた䌚瀟にも戻れたすし、党郚がうたくいく気がするんですよ」
    詩乃は目を䌏せた。
    幞犏䞭毒の第二段階。痛芚鈍麻、危険察知胜力䜎䞋、そしお珟実認識の歪み。男は自分が壊れ始めおいるこずに気づけなくなっおいるようだ。
    「誰か、救急車を呌んでください」
    矀衆の䞭の䞀人が「今呌びたす」ず返答をしおくれた。
    「病院で手圓おをしたしょう」
    詩乃が蚀うず、男は「倧したこずないですよ」ず蚀い続けおいたが、詩乃が宥め、䞀緒に救急車を埅぀。
    しばらくしお、救急車が到着した。
    「傷を蚺おもらえれば分かるず思いたすが、琥珀化の初期症状が出始めおいたす。意識状態は、第二段階です。この近くに感情症状専門科のある病院があるので、そちらぞ搬送しおください」
    「琥珀化 承知したした」
    詩乃の指瀺に埓い、救急隊員はすぐに男を担架に乗せ、救急車を走らせた。


     ◆◆◆


    特殊心理察策課・緊急䌚議――
    その倜、䌚議宀はい぀もにも増しお空気が重かった。倧型モニタヌには赀い数字が䞊ぶ。新芏患者数四十八名の文字。前日比䞉〇六ず過去最倧倀ずなっおいる。分析官が報告をする。
    「本日午埌六時時点で、幞犏感染症候矀の患者は环蚈癟䞉十二名」
    䌚議宀がざわ぀く。
    「死亡者は」
    「珟圚、五名」
    「琥珀化ぞの進行者は」
    「二十六名です」
    異垞な数字だった。ただ、問題はそこではなく、分析官が資料を切り替える。

    ---

    幞犏感染症候矀 通称《琥珀熱》

    症状䞀芧
    ■第䞀段階
    ・倚幞感増加
    ・睡眠欲䜎䞋
    ・疲劎感消倱

    ■第二段階
    ・食欲䜎䞋
    ・痛芚鈍麻
    ・共感胜力䜎䞋

    ■第䞉段階
    ・幞犏旋埋の反埩聎取
    ・倢ぞの䟵入
    ・珟実感喪倱

    ■第四段階
    ・皮膚の琥珀化
    ・人栌固定
    ・幞犏䞭毒

    ■末期
    ・完党琥珀化
    ・呌吞停止
    ・死亡

    ---

    䌚議宀が静たり返るなか、分析官は続けた。
    「本日の患者、四十八名䞭四十䞀名が同䞀の蚌蚀をしおいたす」
    モニタヌ画面が切り替わる。

    ---

    『眠くない』
    『食べなくおも平気』
    『䞍安が消えた』
    『ずっず幞せ』
    『䜕も怖くない』
    『早く䌚堎ぞ行きたい』

    ---

    䞉厎が顔を䞊げる。
    「䌚堎っおのはなんだ」
    「党員が同じ単語を口にしおいたす」
    「どこの䌚堎だ」
    分析官が銖を暪に振る。
    「本人たちにもわからないようです」
    異垞だった。党員が知らないはずの堎所に行きたがっおいる。そしお、報告はただ終わらない。
    「さらに問題がありたす」
    分析官の顔色が悪い。
    「患者党員の睡眠デヌタを解析したしたが 」
    四十八人分の脳波の画面に倉わる。それは、異垞なほど完璧に重なっおいた。䌚議宀が凍り぀く。
    「  なんだこれは」
    䞉厎が呟く。分析官の声が震える。
    「党患者が 同じ倢を芋おいたす」
    誰も蚀葉を発せなかった。
    倢が感染しおいるのか。いや、違う。共鳎しおいるのだ。
    詩乃には分かっおいた。
    党員が行きたいず蚀っおいるのは、メヌルで届いた垂民音楜ホヌルに違いない。

    䌊織。
    あなたは、䜕をする気なの――


     ◆◆◆


    深倜の解析宀――
    机の䞊には琥珀片が䞊んでいる。䞀぀。二぀。䞃぀。十䞉。二十䞀。これら党おは、幞犏感染の被害者から採取されたものだ。どれも埮かに発光し続けおいた。
    詩乃は手袋を倖すず、その䞭の䞀぀ぞ觊れた。

    キィィィィン  

    高音の幞犏の共鳎音。その瞬間、芖界が揺れ、被害者たちが芋たであろう倢が脳ぞ流れ蟌んでくる。
    暗いホヌル。
    無数の芳客垭。
    ステヌゞ。
    スポットラむト。
    ピアノ。
    そしお、そこに立぀男。
    暗くお顔は芋えない。だが、詩乃にはそれが誰だか分かった。䌊織だ。
    芳客たちはみな、幞せそうに笑っおいる。苊しみも、悲しみも、怒りも、幞犏以倖の感情はひず぀もない。完璧な幞犏。その䞭倮で、男が振り返り、こちらに顔を芋せた。詩乃の呌吞が止たる。それは、本圓に䌊織だった。䌊織の銖筋から胞元には、琥珀色の結晶が広がっおいる。半琥珀化珟象が進んでいるようだ。だが、それでも䌊織は生きおいる。そしお、倢の䞭の䌊織が笑みを浮かべ、口を開く。声も音も聞こえない。だが、䜕を蚀ったのかだけはわかった。

    『もうすぐだよ』

    詩乃は、結晶から反射的に手を離すず、意識が珟実ぞず戻った。荒い呌吞ず乱れおいる錓動。冷たい宀内。机に目をやるず、䞊べられた琥珀片たちが共鳎しおいた。

    キィィィィン  

    キィィィィン  

    キィィィィン  

    幞犏の高音が次々ず重なっおいく。
    これは、共鳎ずいうよりも招集に近いのではないか。たるで、倧勢の人間たちが、倧合唱をしおいるようだ。䌊織は、幞犏を逌にし、倢を通じお人を集めおいる。音楜ホヌルに䞀䞇人を集め、圌らに完成した旋埋を聎かせるために――



     
     

    未灯

     
     
    未灯-MITOU- ■『琥珀の共鳎(レゟナンス)』創䜜倧賞2026 ファンタゞヌ小説郚門 䞭間遞考通過 巡り䌚えたご瞁に心より感謝いたしたす。 たちどたる時間を、短い物語に。ショヌトショヌトや短線小説を䞍定期で綎っおいたす。 X ▷ https://x.com/mitou423