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確率過程

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

確率過程(かくりつかてい、(英: stochastic process)は状態が確率的に変化していく様子と解釈できる、確率要素の族で表現された数学的対象である[1][2]。不規則過程(ふきそくかてい、(英: random process)とも[3]。

概要

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球面上のウィーナー過程

確率過程は「確率的な過程」すなわち「物事が確率的に進行・変化していく道すじ」と解釈できる数学的対象であり、確率変数・確率要素の族として定義されるものである(⇒ #定義)[1][2]。

現実には確率的な過程が様々存在する。例として、微粒子のブラウン運動、細菌群集の成長、株価の変動が挙げられる。確率過程はこれらの数理モデルとして利用できるため、物理学から経済学まで幅広い分野に応用される(⇒ #応用)。

確率過程は様々な観点から分類ができ、それぞれが制約に沿って特有の振る舞いをみせる(⇒ #分類)。例としてウィーナー過程、ポアソン過程(英語版)、マルチンゲール、マルコフ過程が挙げられる。これらは応用上の要請と二人三脚で発展してきた歴史がある(⇒ #歴史)。

数学的には確率論で扱われる。可算・無限・連続などを厳密に扱う必要があるため、公理的集合論や測度論との関わりが深い(⇒ #研究)。

定義

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族による定義

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を空でない集合、 を に値をとる確率変数・確率要素とする。族を用いて、確率過程は次で定義される[1]:

このとき を「 の状態空間(じょうたいくうかん、(英: state space)」という[4]。 の元は状態(じょうたい、(英: state)という[4]。 は全順序集合のときしばしば時刻・時間と呼ばれる。確率過程からのサンプリングで得られる系列(実現値)を見本関数[5](見本過程[6]、経路/パス[5])という。

すなわち、確率過程は「添字集合 で添字付けられた『状態空間 に値をとる確率変数・確率要素』の族」と定義される[注 1][1][2]。

他の定義

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1次元分布

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まず、時間のように一次元的なパラメタによって変化する確率変数を考えよう。

確率空間 ・可測空間 (S, Σ)・全順序集合 T が与えられたとする。

時刻 T で添字つけられる状態空間 S に値をとる確率過程 Xt とは

であり、すべての t ∈ T に対してXt がΩ 上の確率変数となるものである。

普通、T としては離散時間 T = {1, 2, 3, …} や連続時間 T = [0, ∞) を考え、状態空間 S としてはユークリッド空間 や整数 を考える。

有限次元分布

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X を S に値をとる確率過程とする。すべての有限列 について、k-タプル は Sk を値にとる確率変数となる。この確率変数の分布 は Sk 上の確率測度となる。このようにして得られる分布を X の有限次元分布という。

適切な位相的な制約を加えることで、有限次元分布の「一貫した」集まりを得られる。これを用いて、ある種の確率過程を定義することができる。(例えば、コルモゴロフの拡張。)

例

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ブラウン運動の数学的モデルはウィーナー過程である。

確率過程の標本
3次元ウィーナー過程のサンプルパス
1次元ウィーナー過程
3次元ウィーナー過程のサンプルパス
3次元ウィーナー過程
ランダムウォークのサンプルパス
ランダムウォーク
マルチンゲールのサンプルパス
マルチンゲール

分類

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確率過程は様々な観点から分類できる。

状態空間による分類

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状態空間 を実数 の部分集合とした場合、 は(狭義の)確率変数であり、 は実確率過程と呼ばれる[7]。

を非実数や多次元とする場合[8]、 は確率要素であり、 はその種類に合わせた名前で呼ばれる(例: 複素確率過程[9])。

添字集合による分類

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確率過程は添字集合 の濃度により離散時間確率過程と連続時間確率過程に二分できる。また、確率場(英語版)も参照。

離散時間確率過程

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離散時間確率過程(りさんじかんかくりつかてい、(英: discrete-time stochastic process)は添字集合が高々可算集合な確率過程である。

を添字集合、 を が添字集合である確率過程とする。 が次の条件、

「 は高々可算集合である」

を満たすとき、 は離散時間確率過程である。

典型的には あるいはその部分集合が用いられる[10]。簡単に言えば、列として見たとき「 の確率変数 、 の確率変数 、...」と離散的に並んでいる確率過程が離散時間確率過程である。

特性による分類

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確率過程は特性に基づいて様々に分類できる[11]。

ウィーナー過程は連続時間でユークリッド空間に値をとる確率過程の典型例である。ウィーナー過程以外に、ポアソン過程(英語版)、独立増分過程(レヴィ過程)、ガウス過程、マルチンゲール、マルコフ再生過程、マルコフ過程、マルコフ連鎖、定常過程などがある。

研究

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確率過程は純粋数学の対象としてもよく注目されてきた。

応用

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確率過程は「確率的な遷移」を表現する数理モデルとして様々な分野で利用・応用される。物理学・情報科学・工学・化学・生物学・医学・疫学・社会科学・経済学・軍事学など、適用範囲は多岐にわたる。

著名な応用例として以下が挙げられる:

歴史

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確率過程には長い歴史がある。

脚注

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注釈

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  1. ↑ 確率変数・確率要素の背景には(他の確率変数・確率要素を介する場合も含めて)常に確率空間 が定義されている[1]。

出典

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  1. 1 2 3 4 5 確率過程は確率空間 で定義された確率変数の族 として記述される.ここで, はパラメータの集合 (井原 2009, p. 2)
  2. 1 2 3 状態の列 が生じる。一般に,このような確率変数の列を確率過程(stochastic process)と呼ぶ。(中出 2019, p. 9)
  3. ↑ 足立修一『システム同定の基礎』東京電機大学出版局、2009年、36頁。ISBN 9784501114800。 NCID BA91330114。
  4. 1 2 時刻 で頂点 にいる確率をそれぞれ求める問題 ... 確率過程 ... が取りうる値の集合(状態空間)を とする.1節の例だと である.... の要素を状態と呼ぶ(長谷部 2024, p. 1)
  5. 1 2 「見本関数(経路,sample path)」高岡浩一郎「確率微分方程式の基礎(応用数理サマーセミナー2006「確率微分方程式」講演)」『応用数理』第17巻第1号、日本応用数理学会、2007年、21-28頁、doi:10.11540/bjsiam.17.1_21、ISSN 0917-2270、NAID 110006242211。
  6. ↑ ω ∈ Ω を固定して,X(t, ω) を t の関数とみたとき,これを見本過程という.(井原 2009, p. 2)
  7. ↑ 見本空間が実数全体 の部分集合の場合は実確率過程という.(井原 2009, p. 2)
  8. ↑ 一般には,見本空間としては,複素数空間,多次元空間,位相空間などを考えることもある.(井原 2009, p. 2)
  9. ↑ で定義 ... を複素確率過程という.(井原 2009, pp. 2–3)
  10. ↑ が自然数または整数全体のとき離散時間確率過程(井原 2009, p. 2)
  11. ↑ 岩波, 54 確率過程 p.132.

参考文献

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関連書籍

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  • 小倉久直:「物理・工学のための 確率過程論」、コロナ社 (1978年4月20日)。
  • 情報理論とその応用学会(編):「確率過程:応用と話題」、培風館、4-563-01452-4 (1994年6月30日)。
  • D.ウィリアムズ:「マルチンゲールによる確率論」、培風館、ISBN 4-563-00885-0 (2004年2月20日)。
  • 伊藤清:「確率過程」、岩波書店、ISBN 978-4-00-005200-9 (2007年3月20日)。
  • 森真:「入門 確率解析とルベーグ積分」、東京図書、ISBN 978-4-489-02129-9 (2012年6月25日)。
  • 谷口説男、松本裕行:「確率解析」、培風館(確率論教程シリーズ5)、ISBN 978-4-563-01085-0 (2013年6月5日)。
  • 成田清正:「確率解析への誘い:確率微分方程式の基礎と応用」、共立出版、ISBN 978-4-320-11143-1(2016年9月25日)。

関連項目

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