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托卵

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
コウウチョウに托卵されたツキヒメハエトリ(英語版)の巣
自分より大きいカッコウの雛に餌を与えるオオヨシキリ
テリバネコウウチョウ(英語版)の若鳥に餌を与えるアカエリシトド
それぞれの卵のグループには、ヨシキリの卵に混じってカッコウの大きい卵が1つずつ含まれている

托卵(たくらん、brood parasite、brood mimicry、egg mimicry)とは動物の習性のひとつ。自分の卵への世話を他の動物に托す(代行させる)こと。巣作り・抱卵・子育てなどを仮親に托す(代行させる)ことを托卵。育ての親を「仮親」と表現する[1]。

もともとは鳥類の行為を指したが、魚類・昆虫類の行為も指す。寄生の一種と言って良い[2]。同種に対して行う場合を種内托卵・他種に対して行う場合を種間托卵と言う[1]。

鳥類

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種間托卵

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種間托卵でよく知られているのは、カッコウなどカッコウ科の鳥類が、オオヨシキリ、ホオジロ、モズ等の巣に托卵する例である。カッコウの雛は比較的短期間(10 - 12日程度)で孵化し、巣の持ち主の雛より早く生まれることが多い。孵化したカッコウの雛は巣の持ち主の卵や雛を巣の外に押し出してしまう[3]。その時点でカッコウの雛は仮親の唯一の雛となり、仮親の育雛本能に依存して餌をもらい、成長して巣立っていく。托卵を見破られないようにするため、カッコウは卵の色や斑紋などを仮親の卵に似せている[4][5][6](仮親の卵に似た卵を生む性質が代を経て選択された)。また、托卵する際に仮親の卵を抜き出すが、その行動の意義は判っていない[7][8]。基本的に、卵を託す相手は、同種または近縁種が選ばれる。しかし、稀に猛禽類など、場合によっては卵や雛を食べる肉食鳥が、選ばれることもある[9]。

他にはスズメ目のコウウチョウ[10]やキツツキ目のミツオシエ科、カモ目のズグロガモが挙げられる。ズグロガモは離巣性で、雛は孵化するとすぐに独立する[11]。

種内托卵

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種内托卵を行う鳥類としてはダチョウやムクドリが知られている。ダチョウはオスが地面を掘ってできた窪みに高位のメスが産卵、そのまわりに群れのメス達が産卵する。これを最初に産卵したメスとオスが交代で抱卵する。

2008年にリスト化された時点で、カモ目74種、スズメ目66種、キジ目32種、チドリ目19種、ツル目8種、カワラヒワ目6種、その他の鳥類を合わせて234種で確認された[12]。

対抗策

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托卵されるということは繁殖のためのリソースを空費させられることにほかならず、托卵が始まったことにより生息数が減少する鳥も見られる[13]。托卵に対抗できれば繁殖で有利となるため、「個体差の大きな卵を産むことで、托卵された卵を見分けやすくする[14]」、さらに托卵者との共生が長く続く環境では「托卵による雛を殺す、あるいは巣ごと放棄して育てない[15]」といった進化を遂げた鳥も存在する[16]。種内托卵でも自分の雛を見分けて、托卵された雛を排除する例が見られるという[17]。

人工的な托卵

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動物園などでは親鳥が放棄した卵を同種、あるいは近縁種の鳥に育てさせることがある。この場合、卵を人工孵化させて雛を仮親に託す方法と卵を仮親に抱卵させる方法の2通りがある。

爬虫類

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北米に生息するフロリダアカハラガメは同所に生息するアメリカアリゲーターの巣に托卵する。巣の発酵熱で孵化を早めると同時に、巣を守るアリゲーターの親を卵の護衛役に利用するが、托卵先のアリゲーターの卵に危害を加えるわけではない。

魚類

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魚類では、日本に生息するコイ科の淡水魚であるムギツクが、オヤニラミ、ギギ、ドンコ、ヌマチチブ、ブルーギル等の卵を親が保護する魚類の巣に卵を産み付ける。近縁種で朝鮮半島に生息するホソムギツク、クロムギツクは、主にコウライオヤニラミに托卵する。 また、ナマズ類に属し、アフリカのタンガニーカ湖に生息する、シノドンティス・ムルティプンクタートス(和名・カッコウナマズ)は、マウスブルーダーであるシクリッドに卵を託す習性を持つ[18]。このナマズの稚魚は、シクリッドの口腔内でシクリッドの卵を食べながら成長する。

タナゴなどの淡水魚類は、ドブガイなどの淡水二枚貝のエラに托卵する[19][20]。産み付けられる貝は、産卵母貝という[21]。

巻貝

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エゾボラのメスは他個体の貝殻に卵を産み付ける行動が確認された[22]。

昆虫類

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昆虫類のシデムシの一部は種内托卵を行う。モンシデムシは托卵を行うが、托卵される側はこれに対抗する防衛本能として子殺しの特徴を備えている。すなわち、親は通常の孵化に要する時間と比べて孵化が早すぎる個体を殺す。

カッコウ蜂(英語版)と呼ばれる別の蜂が作った巣に卵を産み付けて、先に孵化して元々の蜂の幼虫を殺してしまう蜂が存在する[23]。

ヒトのEPCに対する誤用

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ヒトの夫婦において、配偶者以外の者(以前の恋人や不倫相手など)との間に生まれた子供を夫婦の実子として養育させることは、動物行動学に於いては婚外交尾やつがい外交尾(EPC)と呼び、長い研究の歴史があるが(英語版wikiのExtra-pair copulationに詳記)、動物行動学の知識に欠ける著者による創作物で「托卵」と誤用される機会が増えている[24]。上記のように、「托卵」とは産卵メスが他のメスに卵を他人(仮親/宿主)に托して子育てをさせる労働寄生であり、托卵したメスは子育て努力を完全に放棄する。その為、実母が夫に不倫の子(EPO)を黙って育てさせていても、実母自身が子育てに参加している場合、「托卵」の定義に当たらない。なお一般的に、托卵を見抜けなかった仮親が、血の繋がらない子供を不同意のまま育てられされている場合が多いが、鳥類では托卵を拒否すると托卵メスに巣ごと卵を壊されてしまうので(マフィア行動)、托卵されている事をわかった上で(擬態が不十分な卵を孵化させ)、血の繋がらない雛を育てる仮親(宿主)が居ることが、実験的に示唆されている[24]。

2017年、オランダの男性医師であるヤン・カールバルトは、不妊治療として精子提供を受ける女性たちに対して、「指定された提供者の精子」と偽って自身の精子による人工授精を行い、数十人以上の女性たちを妊娠・出産させていたとされる[25]。この例も、女性が望んだ精子提供者の子供を育てる機会こそ失っていはいるが、自身の卵子を用いて受精したのなら、通常出産や不正提供がなかった場合と同じ血縁度の子供を育てることになり、血の繋がらない子供を育てさせられてしまう「托卵」の定義に当たらない。

関連作品

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脚注

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  1. 1 2 山内 1995, p. 131.
  2. ↑ 田中 2012.
  3. ↑ 樋口 1995, p. j127.
  4. ↑ 山内 1995, p. 138.
  5. ↑ 樋口 1995, pp. j129–j130.
  6. ↑ 田中 2012, p. p62-65.
  7. ↑ 樋口 1995, pp. j128–j129.
  8. ↑ 田中 2012, p. 65.
  9. ↑ JASON BITTEL (2019年5月3日). “なぜフクロウの巣にカモのヒナが?専門家に聞いた”. ナショナルジオグラフィック. p. 2. 2019年5月3日閲覧.
  10. ↑ Jeffrey P. Hoover; Scott K. Robinson (2007-03-13) (英語). Retaliatory mafia behavior by a parasitic cowbird favors host acceptance of parasitic eggs. 104. Proceedings of the National Academy of Sciences. pp. 4479–4483. オリジナルの2017-11-20時点におけるアーカイブ。 2023年4月28日閲覧。.
  11. ↑ “托卵(タクラン)とは? 意味や使い方”. コトバンク. ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典. DIGITALIO. 2025年5月22日閲覧。
  12. ↑ Yom‐Tov, Yoram (2001-01). “An updated list and some comments on the occurrence of intraspecific nest parasitism in birds” (英語). Ibis 143 (1): 133–143. doi:10.1111/j.1474-919X.2001.tb04177.x. ISSN 0019-1019.
  13. ↑ 濱尾 2018, p. 88.
  14. ↑ 濱尾 2018, pp. 86–87.
  15. ↑ 濱尾 2018, pp. 91–92.
  16. ↑ 田中 2012, pp. 65–66, 71–72.
  17. ↑ 濱尾 2018, pp. 97–98.
  18. ↑ 田中 2012, p. 61.
  19. ↑ “ミヤコタナゴの特徴と仲間 - 御宿町役場”. www.town.onjuku.chiba.jp. 2023年8月5日閲覧。
  20. ↑ “NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会 » 第4章 ドブガイに托卵されたタナゴの卵”. n-baratanago.com. 2023年8月5日閲覧。
  21. ↑ 北村, 淳一、諸澤, 崇裕「霞ヶ浦流入河川におけるタナゴ亜科魚類の産卵母貝利用」2010年、doi:10.11369/jji.57.149。
  22. ↑ “コース: 巻貝も「托卵」する”. repun-app.fish.hokudai.ac.jp. 2024年6月19日閲覧。
  23. ↑ “The secret life of solitary bees – National Biodiversity Data Centre”. biodiversityireland.ie. 2024年6月16日閲覧。
  24. 1 2 猫山ニャン子 (2016年7月28日). “他人ごとではない!夫以外との子を育てている「托卵女子」の割合が判明”. しらべぇ. 2022年1月12日閲覧.
  25. ↑ “オランダの医師、自分の精子で無断体外受精 49人の父親と判明”. BBC. 2019年4月15日. 2022年1月11日閲覧.
  26. ↑ 『子どもの文化 10(2)』 p.27 文民教育協会子どもの文化研究所 1978年2月
  27. ↑ もずのこども 講談社
  28. ↑ 「サンデーらいぶらりい」『サンデー毎日 71(10)(3908);1992・3・15』 毎日新聞出版 1992年3月

参考文献

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  • 濱尾, 章二『「おしどり夫婦」ではない鳥たち』 276巻、岩波書店〈岩波科学ライブラリー〉、2018年。ISBN 978-4-00-029676-2。 
  • 山内, 淳「鳥類における托卵行動の進化 : 野外観察・実験と理論」『日本生態学会誌』第45巻第2号、1995年、131-144頁、doi:10.18960/seitai.45.2_131、ISSN 0021-5007、2022年1月22日閲覧。 
  • 樋口, 広芳「托卵習性に見る鳥類の繁殖適応」『Journal of Reproduction and Development』第41巻第6号、1995年、j127-j133、doi:10.1262/jrd.95-416j127、ISSN 0916-8818、2022年1月22日閲覧。 
  • 田中, 啓太「騙しを見破るテクニック:卵の基準,雛の基準」『日本鳥学会誌』第61巻第1号、2012年、60-76頁、doi:10.3838/jjo.61.60、ISSN 0913-400X、2022年1月22日閲覧。 

関連項目

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