
もやしが安いままなのは、作る人が消えているからという噺(はなし)
えー、毎度ばかばかしいお笑いを一席。 物の値段が上がった話ばかりの中で、もやしだけは安いままでございます。 八っつぁんはこれを、世の中の良心だと思っておりました。 ところがご隠居の家で、話はまるで逆だと知らされまして。
八っつぁん、もやしを褒める
八っつぁん「ご隠居、世の中で一つだけ、値上げしない物がありますよ」
ご隠居「ほう。何だね」
八っつぁん「もやしで。一袋三十円。あっしの味方だ」
ご隠居「その味方は、今、次々に店を閉めているよ」
作る会社が、5年で13社消えた
ご隠居「昨日、会社の信用を調べる所が数を出した。もやしを作る会社は、この5年で13社が潰れたか店を閉めた。今年だけで4社だ」
八っつぁん「売れてないんですかい」
ご隠居「よく売れている。節約したい人が多いからね。それでも儲からない」
八っつぁん「売れてるのに」
ご隠居「決算(1年のもうけを計算したもの)の分かる会社は約20社。そのうち3割が赤字(もうけがマイナス)だ。もうけが減った会社も入れると、3社に2社が前の年より悪い」

原料は上がっているのに、値札は動かない
ご隠居「もやしのもとは緑豆(りょくとう)という豆で、ほとんど輸入だ。この豆の輸入の値段は、今年1月から8月の平均で、去年より7.2%高い」
八っつぁん「じゃあ、もやしも上げていいじゃないですか」
ご隠居「上げられないのさ。もやしは安いのが当たり前だと皆が思っている。1円上げると、客は隣の袋を取る。だから作る側が黙って飲み込む」
八っつぁん「飲み込めなくなったら」
ご隠居「店を閉める。13社がそうしたんだよ」
うちの財布には、いくら効くので
八っつぁん「でも、もやしが十円上がったって、たいした額じゃない」
ご隠居「おまえさんの家は週に2袋だったね。1か月で8袋、240円。10円上がって320円。増えるのは1か月80円、1年で960円だ」
八っつぁん「なんだ、安いもんで」
ご隠居「そう。けれども、もやしが店から消えたらどうする。同じかさの野菜を買うとなると、キャベツ4分の1玉でおよそ120円だ。8回で960円。今より1か月720円増える。1年でおよそ8,600円だよ」
八っつぁん「十円の値上げの、9倍」
ご隠居「安い物が無くなる損は、値上げの損より大きいのさ」

ここを見落とすと、損をする
ご隠居「見落としやすい所が二つある。一つ目は、安い物は値段が上がる前に売り場から消えるということだ。値札を見ていても気づけない」
八っつぁん「二つ目は」
ご隠居「円の値打ちだ。今は1ドルが158円台で、円は弱いまま。豆は輸入だから、この先も原料は上がりやすい。作る側が飲み込める幅は、どんどん狭くなる」
だから今のうちに考えておきたい
ご隠居「安いのは、誰かが我慢しているからだ。我慢が切れた日に、その品物は棚から消える。だから今のうちに、自分が何の安さに頼っているかを一度数えておく。数えた人は、消えた時に慌てない」
八っつぁん「分かりました。あっしは今日から、もやしを買い占めます」
ご隠居「三日で傷むよ」
八っつぁん「へえ、それじゃ我慢するのは、あっしの方で」
ご隠居「八っつぁん、それを辛抱(しんぼう)と申します」
計算の前提:もやし1袋を200g・30円、キャベツ4分の1玉を120円として計算しました。週に2袋、1か月を4週(8袋)としています。実際の値段は店と時期で変わります。会社の数は、決算や公表された情報が分かる範囲の集計です。
参考にしたニュース
帝国データバンク「『もやし製造』5年間で13社が消える 経営は7割が『業績悪化』」2026年11月3日
財務省の貿易統計をもとにした緑豆の輸入の値段(2026年1〜8月の平均、去年の同じ時期より7.2%高い)