
主張に論拠を持たせる“ロジックの構築” #99
■ 同じ目的でも、考え方は異なる
企業などの組織では、同じ目的を果たすために、複数の人たちが関わります。
しかし、その目的を果たすための手段には、人それぞれの考えがあります。
だからこそ、互いの価値観や判断の前提を共有し、考えの違いを理解し合うことが大切になります。
ところが、実際には、何を伝えたいのか話の筋道が見えないことや、考えを整理できずにうまく伝えられないことがあります。
さらには、自分自身でも、そもそも何を伝えたいのかを見いだせていない場合もあります。
自分の考えを他者に理解してもらうには、まず、伝えたいことを明確にし、シンプルに示すことが大切です。
少々、乱暴か言葉ではありますが、それを裏付ける稲盛和夫氏のメッセージです。
「バカな奴は単純なことを複雑に考える。
普通の奴は複雑なことを複雑に考える。
賢い奴は複雑なことを単純に考える。」

■まず、何を考えるべきかを明確にする
シンプルにするとは、必要な情報まで削ることではありません。
複雑な情報の中から、本当に考えるべきことを見極め、筋道を整えることだと考えます。
その出発点となるのが、イシューの特定です。
イシュー(issue)とは、ここでは、検討すべき問いや論点を指します。
「そもそも何を考えるべきなのか」「何について結論を出す必要があるのか」を明確にすることです。
考えるべき問いが曖昧なままでは、情報を集めても、議論を重ねても、話は広がるばかりです。
問いを特定することで、必要な情報や、検証すべきことが見えてきます。
そのうえで、自分の主張と、それを支える根拠を整理します。
ロジックとは、論証や議論の筋道です。
ロジカルであるとは、主張に対する根拠が示され、そのつながりに無理や飛躍がないことだと捉えています。
ただし、一部の人だけがロジカルに考えられても、組織全体での共有には限界があります。
だからこそ、ロジカルシンキング(logical thinking:論理的思考)を、組織の中に浸透させることも重要だと考えます。
■ 「本当にそうなの?」と「それだけなの?」
主張の筋道を確かめるうえで、役立つ二つの問いがあります。
「本当にそうなの?」と、「それだけなの?」です。
「本当にそうなの?」は、その主張を支える根拠や、根拠から結論へ至るつながりを確かめる問いです。
これは、「縦の論理」を確認する視点になります。
例えば、「売上が減ったのは、営業活動が不足しているからだ」という主張があったとします。
しかし、売上が減ったという事実だけでは、営業活動の不足が原因だとは言い切れません。
その判断を支える事実や、ほかの要因の影響を確かめる必要があります。
一方、「それだけなの?」は、検討すべき要素や選択肢に漏れがないかを確かめる問いです。
これは、「横の論理」を確認する視点になります。
売上減少を考える場合も、営業活動だけでなく、顧客の需要、製品の競争力、価格、供給体制など、見るべき要素がほかにあるかもしれません。
その際に役立つのが、漏れなく、ダブりなく整理するMECE(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)の考え方です。
ただし、形式的に分類することに満足せず、目的に照らして必要な要素を捉えられているかを確かめることが大切です。
根拠とのつながりを確かめることと、検討する範囲を確かめること。
その両方によって、主張を支える筋道を整えていきます。

■ 筋道を整えることと、発想を広げること
問題を考える際、従来の見方や前提にとらわれていると、有効な解決策を見落とす可能性があります。
そこで役立つのが、視点を変えて発想を広げる「水平思考(Lateral thinking)」です。
ただし、発想を広げるだけでは、具体的な行動にはつながりません。
そこで、広げた考えを整理し、構成する要素に分ける「因数分解」を行います。
その代表的なツールが、ロジックツリーです。
「どうやって?」と解決策を具体化し、「なぜ?」と原因を掘り下げます。
その際には、根拠と主張のつながりを確かめる「縦の論理」と、要素の漏れや重複を確かめる「横の論理」が重要になります。
発想を広げ、分解して筋道を整える。
その行き来によって、曖昧な考えを、組織で共有し実行できるものにしていくことが大切だと考えます。
■ 考えを言葉にし、伝えられる形にする
こうした思考を他者と共有するための前提となるのが、言語化です。
どれほど優れた着想や根拠があっても、自分の中で整理し、会話や文章として表せなければ、他者には十分に伝わりません。
必要に応じて数値や図も使いながら、共に検討できる形にすることが大切です。
それを支える手法には、ロジックツリー、IRAC法、ホールパート法、ブレインストーミングなど、さまざまなものがあります。
ただし、それぞれに役割があり、どれか一つで、問いの設定から発想、検証、説明まですべてを担えるわけではありません。
その状況や目的に応じて、組み合わせて活用する必要があります。
そして、手法を身につけて満足するのではなく、それを使って、どのように考えを深め、伝えられるかが重要です。
私が考えるロジック構築とは、特定の思考法だけに頼ることではありません。
さまざまな角度から検証し、主張と根拠を筋道立てて組み上げ、相手に伝えることです。

■ 論理とともに、人間らしさを大切にする
ただし、筋の通ったロジックを構築できたとしても、それだけで主張を受け入れてもらえるとは限りません。
相手にも、大切にしている価値観や、これまでの経験、置かれている事情があります。
人間である以上、感情もまた、受け止め方を左右する大切な要素です。
だからこそ、論理的に説明することと同じように、相手の話を聴き、その背景を理解しようとする姿勢も欠かせません。
ロジカルシンキングは、相手を言い負かすためではなく、互いの考えを理解し、組織としてよりよい判断につなげるために活用したいものです。
人間らしさを損なうことなく、筋の通った考えを伝え合う。
その積み重ねが、同じ目的に向かう組織の力になるのだと考えます。