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わたしのロツレチハヒ【第6話「不協和音からの」】

     「あっ、いけない。お銀さんを懐かしんで長くなっちゃった。パーティー盛りだったね、もう準備できてるから」

     我に返ったように厨房まで戻るコハルおばさん。それを一緒に目で追う皆の気持ちがちょっぴり近づいたように思えた。

    「おばちゃんの長唄三味線のお師匠さんが、日色さんのおばあさんってことだよね。なんか素敵なつながりじゃん」

    「かなえは知らなかったってことよね?おばあさんが“お銀さん”だって」

     倉田唯やまりなが身を乗り出すように聞いてくる。まるで芸能リポーターがマイクを向けてくるような勢いだ。

    「わたしだってびっくりしたわ。おばあちゃんが三味線やっていたとか知らないし。“お銀さん”なんて昭和の映画に出てきそうな名前も聞いたことないし」

     するとじんさんまで興味津々で口を開く

    「でも、日色さんはおばあさんが長唄三味線をしていた影響を無意識のうちに受けているのかもね。だから邦楽部に入ったんじゃないの」

    「え?それって遺伝子的なってことですか?ますますドラマティックだわぁ」

     じんさんの根拠のない話しを聞いて倉田唯が目をキラキラさせている。

     当のわたしは冷静に俯瞰していた。じんさんが邦楽部に入った理由を聞き出したいのはわかる。それに話題が核心に向かうよう軌道修正しなければ集まった意味が無い。

     ここは乗ってみるか。

    「影響もなにも、わたしは尺八を吹きたくて入部したんですよ。おばあちゃんの血を継いでるんだったらそこは三味線でしょう」

    「そうだよね。じゃあ日色さんはなんで尺八を選んだの?」

     来た来た。そう聞かれちゃあ、わたしも語らせてもらうわよ。

    「坂本堂山さまの演奏を聴いて尺八の印象が変わったんです。それまでも尺八でポップスとか吹くのを見たことはあるけど、堂山さまの『アメイジング・グレイス』は次元が違うっていうか……」

    「そっか、坂本堂山がきっかけなんだ。ボクも彼が出す音は好きでよく聴くよ」

    「坂本堂山さまはピアノやマリンバとか西洋音楽とコラボするじゃないですか。そこがまた素晴らしいなって。わたしもいつかはあんな風に吹いてみたい。そんな憧れから邦楽部に入ったんです」

     わたしが『堂山さま』にこだわったからだろう。まりながニヤリとするのがわかった。

    「なんかボクが邦楽部に入った頃を思い出すなぁ。ボクはジョン海山ネプチューンに憧れて尺八を始めたんだ。彼は尺八にいち早くジャズを取り入れたから、きみが“堂山さま”に憧れた気持ちもわかるよ。ボクも入部した当時は先輩から山本邦山や青木鈴慕について教わったものさ」

    「山本邦山先生は堂山さまが師と仰ぐ人間国宝ですよね。ジャズとコラボした動画は見たことがあります」

    「おおっ、それってビッグバンドとコラボした『テイク・ファイヴ』だろう。あれを見たんだ!いいねー」

     じんさんとわたしだけ盛り上がっているので、まりなが不服そうに口を挟む。

    「あのーー、わたしも尺八パートなんですけど・・・」

    「ごめんごめん。小山内さんはなぜ尺八を選んだの」

     まりなは自ら話題を向けさせると、満足そうに答える。

    「わたしはかなりミーハーなんですけど。“和楽器タイフーン”っていうバンドで尺八の魅力を知ったっていうか」

    「和楽器タイフーンはボクもYouTubeで見たことがある。女性の尺八奏者だから印象に残ってるよ」

    「わー、ご存じなんですね。“鼎”さんですぅ~。かなえと同じ名前なんですよ」

    「もうっ、それはいいでしょ。漢字は違うんだし」

     まりながしゃべり出すと止まりそうにない。わたしは話題を田中浩二に向けようと考えた。

    「そう言えば、田中浩二はなんで邦楽部に入ったの」

    「ぼ、ボクは、おじいちゃんが『与作』をよく聴いていたから。尺八で吹いてあげたいなって思ったんだ」

    「えーそうなのー。初耳なんだけど。『与作』って“ヘイヘイホー”って歌うやつだよね。知ってる~」

     まりなが嬉しそうに茶々を入れる。

    「でもいいお話し。田中くんっておじいちゃん孝行なんだね」

     倉田唯から声を掛けられて田中浩二が顔を赤らめた。おまけに頭の後ろに手を当ててポリポリかきだした。

    「あれっ、なんで照れてんのよ。ちょっとあやしいぞ」

     まりなに冷やかされるとなおさらペコペコして笑いを誘う。憎めない性格なのだ。

    「おまちどうさまーー、パーティー盛りねぇ。二皿にわけたから。唯ちゃんちょっと手伝ってちょうだい」

    「うん、じゃあこっちのお皿もってくね。あ、田中くん力ありそうだからグラスをお願いしていいかな」

    「あ、はい。わかりました」

     急接近した感のある二人を見てまりながつぶやく。

    「倉田さんってなかなかやるわね」

     わたしは周りに気取られないよう目配せで釘を刺した。

     モダン焼きと唐揚げとポテサラが盛られた大皿2つと取り分けるための小皿。そしてコーラとウーロン茶を飲むためのグラスが配られた。

    「じゃあ、食べながら聞いてくれ。先日も話したけど、全国大会に向けて合奏曲を座奏で行う件について意見交換したいと思う」

     ついに本題か。じんさんはわたしと目を合せないように話している気がする。どういうつもりなのだろう。なし崩しに同意させる作戦か。

     そもそも琴と三弦は普段から座奏が基本だ。音楽室では折りたたみ椅子に座ることもあるが、座奏に反対するとは考えにくい。

     わたしと同じく正座が苦手で座奏に反対する可能性があるのは、まりなと田中浩二ということになる。
    横目で二人の様子を伺って拍子抜けした。嬉しそうに料理を取り分けてパクついているではないか。

     そのときわたしは気づいた。じんさんは食べ盛りである高校生の欲求と衝動を見越してこの場を設定したのだ。なかなかの策士である。

     かく言うわたしも、これまでの交流でじんさんに対する警戒心がずいぶん和らいだ。彼の思惑にまんまとハマったわけか。

     しかし主張すべきことを曲げるつもりはない。たとえ一人でも訴えるしかない。



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