
【神戸】街じゅうを、子どもたちの作品で満たしたい。神戸・六甲でアートスクールをつくったパパンダさん
神戸・六甲でアートスクールを主宰するパパンダさん。広告代理店でグラフィックデザインを手がけてきましたが、コロナ禍に退職し、15年以上暮らす六甲に教室を開きました。
街のあちこちに子どもたちの作品が並ぶ、そんな神戸をつくりたいと言います。そして今の神戸は、高くジャンプする前に膝を折り、力を貯めている状態ではないか、と。
これは、神戸という土地に関するインタビュー。
今回参加いただいたのは、アートスクール主宰・パパンダさんです!
・アートスクール KOINE(阪急六甲):https://koine.jp/
・神戸歴:15年以上(愛知県出身。転勤で東京・名古屋などを経て、六甲へ)
・神戸へのメッセージ:
『いまはしゃがんで力を貯めている状態。どこまでも飛距離を伸ばせるぐらい、飛ぼうぜ。』
・神戸いちおし店:
niko and ...(ニコアンド)神戸ハーバーランドumie店
いま、神戸でどんな活動をされていますか?ご自身が感じるこの街の魅力も教えてください。
さだまつ:まず、自己紹介と神戸歴を教えていただけますか?
パパンダ:パパンダといいます。広告代理店を退職した後、阪急六甲駅の近くにアートスクールをつくりました。子どもや大人を対象に、アートを通じて考え、表現し、対話する場をつくっています。
六甲には15年以上住んでいます。転勤で東京や名古屋など何度か住む場所を変えてきましたが、関西支社で働くことになった時、六甲周辺の環境がとてもよいと感じて、神戸に住み始めました。
さだまつ:六甲に住む前は、神戸じゃなかったってことですか?
パパンダ:六甲に住む前は、東京に住んでいました。
さだまつ:あの、転勤の関係で。
パパンダ:神戸に移った後も、単身赴任で東京に戻った時期がありました。会社の都合で、何度か住む場所を変えてきたんです。
さだまつ:では、早速いまの活動についてお伺いします。いまされているお仕事について、教えていただいていいですか。
パパンダ:仕事は大きく三つあります。中心となるのがアートスクールです。作品を見ながら対話したり、アートを通じてコミュニケーションしたりしています。
アートスクールでは、もちろんものづくりもします。子どもたちの創造性を伸ばすこと、そして「ものをつくるって楽しい」と心から感じてもらうことを大切にしています。
残りの二つは、グラフィックデザインと講師業です。
グラフィックデザインについては、美大と広告代理店で培った経験を生かし、ブランディングやビジュアルコミュニケーションに取り組んでいます。ポスターや新聞広告、シンボルマークなどをつくってきました。
講師業では、企業向けの研修などを行っています。アートスクールで実践している、アートを通じた対話や表現を企業の課題に合わせて組み立て直し、内定者から幹部層まで、発想力やコミュニケーションを育てるプログラムとして提供しています。
表現することと、アートを通じたコミュニケーションを組み合わせるのが、僕の仕事に共通する軸です。外部で子ども向けのワークショップも行いながら、アートスクール、グラフィックデザイン、講師業の三つを組み合わせて活動しています。
さだまつ:パパンダさんが感じる神戸の魅力も、ぜひ教えてください。
パパンダ:まず、海と山が近いことですね。僕自身はあまり山には登らないんですけれど、気軽に山へ行けて、少し足を伸ばせば海にも出られる。視界の開けた場所へすぐ行ける、とても贅沢なロケーションだと思います。
もう一つは、神戸の人が神戸を好きなこと。みんな本当に神戸が好きなんですよね。長く住んでいるうちに、その気持ちが僕にも染み込んできたように感じます。
さだまつ:ああ、分かります。
パパンダ:神戸という大きなくくりだけでなく、六甲や御影など、それぞれの地域に強い愛着を持っている人が多いんです。「私はこの街が好き」という細やかな郷土意識がある。それも神戸の面白さだと思います。
それから、神戸はさまざまなものが混ざり合う場所でもあります。海外の文化を受け入れてきた入口の街であり、今も多様な背景を持つ人たちが暮らしている。そうした文化的なミックス感も素敵だと思います。
これまで、神戸という街とどのように関わってこられましたか?
さだまつ:もともと、ご出身は神戸ではないですか。
パパンダ:愛知県出身です。
さだまつ:じゃあ、神戸に来られるきっかけっていうのは、お仕事でいらっしゃったんですか。
パパンダ:仕事の都合です。関西支社に勤めることになった時、暮らすなら神戸がいいと思いました。それと、少し余談ですが、僕のラッキーナンバーは「6」なんです。
さだまつ:ああ、そうなんですね。
パパンダ:子どもの頃から「6」という数字が好きでした。憧れていたプロ野球選手の背番号が6番だったんです。
さだまつ:あー、はい。
パパンダ:ずっと好きだった「6」が、六甲にも入っている。そんな小さな巡り合わせもあって、六甲に居を構えることになりました。
さだまつ:なるほど。じゃあ、そういうご縁で六甲に来られて、そこに根付いて、いまのお仕事に繋がっていった。
パパンダ:おっしゃる通りです。
さだまつ:アートスクールをされるにあたって、最初からもう六甲でされようって考えてたんですか?
パパンダ:開くなら六甲がいいと思っていました。コロナ禍にアートスクールをやろうと決めた時、僕は単身赴任で東京にいましたが、自宅はすでに六甲にありました。そこで会社を辞め、神戸に戻ることにしたんです。
広告業界は、僕が入った20数年前とは大きく変わっていました。広告の中心がデジタルへ移る中で、グラフィックデザインを武器に、この先も同じ働き方を続けるのかを考えるようになりました。
紙媒体を中心に、強いビジュアルで人の心を動かす仕事の機会は、以前より少なくなっていくように感じました。そこで、会社を辞めるという選択肢が見えてきました。
コロナ禍には、自分が置かれている環境や、「この先、一生続けたい仕事は何だろう」と考える時間もたくさんありました。本を読みながら、自分が本当にやりたかったことを思い出し、退職を決断しました。
六甲は、僕の子どもたちが育ってきた場所でもあります。長く暮らしてきたこの環境をもっとよくしたい、神戸に何かを返したい。そう思って、六甲で始めることにしました。
これから先、この街でどんなふうに過ごしていきたいですか?
さだまつ:では、未来のお話を伺います。これから先、どんな風に神戸に関わっていきたいと思われますか?
パパンダ:これからやってみたいことが二つあります。一つ目は、「学ビル(まなびる)」をつくることです。
さだまつ:はい。
パパンダ:「学びのビル」と書いて「学ビル」です。親しくしている学習塾の先生と一緒に構想しています。その人は中学校の教員を10数年務めた後、自分の塾を立ち上げました。
二人で考えているのは、ビル全体が学ぶ場所になるような施設です。アートスクールという表現の場と、学習塾という教科学習の場が同じ建物にあり、子どもたちが行き来できる。そんな複合的な場所をつくりたいんです。
ただし、学ぶだけの場所にはしたくありません。1階には、例えばカフェやコインランドリーがあって、働く場にもなる。高校生がアルバイトをしたり、中学生が小学生に勉強を教えたりしても面白い。学校よりも、もう少し社会に近い場所にしたいんです。
そこでは、学校の授業だけでは経験しにくい、プロジェクト型の学びも行います。
さだまつ:例えば。
パパンダ:例えば、Tシャツをデザインして、実際に売ってみる。そんなふうに学びと社会を接続する「学ビル」ができたらいい。それが一つ目です。
もう一つは、六甲周辺から始めるパブリックアートです。街の中に、子どもたちの作品が並んでいる風景をつくりたいんです。
例えば、カフェや雑貨店の軒先に作品があり、コープへ買い物に行けば、そこにも作品がある。街を歩くと、子どもたちの表現がぽつりぽつりと現れる。「これ、何だろう?」と立ち止まり、日常の中で表現に触れられるような風景です。
そこに並ぶのが、「なんだこりゃ」と思うような作品ばかりだったら、街はもっと面白くなると思います。
子どもたちにとっても、自分の表現を外の人に見てもらえる場所があれば、つくる意欲が高まります。保護者もうれしいし、作品を見るためにお店を訪れ、買い物をする人が生まれるかもしれません。
そんな風景が広がれば、やがて大人も何かをつくりたくなるかもしれない。子どもも大人も、街の全員が「つくる人」になったら、すごくいいなと思います。
さだまつ:楽しいですね。ぜひ実現してほしいです。
パパンダ:実現したら楽しいですよね。すでに、工事現場の仮囲いにアート作品を掲出する例がありますが、イメージとしてはそれに近いと思います。
さだまつ:ぜひ六甲から、そのパブリックアートを広げていってほしいですね。
パパンダ:まず六甲の街から始めたいですね。山の上では、六甲ミーツ・アートが開かれているじゃないですか。
さだまつ:はい、はい。
パパンダ:山の麓から子どもたちのパブリックアートが少しずつ広がり、いつか山上のアートと途中で融合する。そんなことになったら面白いですよね。
さだまつ:面白いですね。ぜひぜひ実現してください。
パパンダ:実現するには、協力してくださるお店が必要です。コープさんにこの構想を相談したところ、何か一緒にできるかもしれないという感触がありました。まずは、そこから第一歩を踏み出せたらと思っています。
(神戸六甲ミーツ・アート beyond ― 六甲山上で開かれる現代アートの芸術祭です)
さだまつ:では、最後の質問をする前に。パパンダさんが誰にも教えたくないけど、神戸で一つだけ教えていただけるなら、どこをおすすめしますか?
パパンダ:言いたくないけれど、教えたい場所ですね。少し考えてもいいですか。
……思いついた場所でいいですか。
さだまつ:はい。
パパンダ:仕事に煮詰まった時、よく行く場所があります。ハーバーランドのumieです。
umieの中にある「niko and ...」に併設されたカフェへ行きます。比較的静かで、車でブーンと行って、おしゃれな空間で仕事をするのが好きなんです。おすすめですね。言ってしまいましたけど(笑)。
さだまつ:カフェがあるようには見えないですよね。服や雑貨のお店だと思っていたら、実はカフェもある。
パパンダ:カフェが併設されていて、家具屋さんのようにも見えます。ゆったりしたソファーがあり、「どうぞリラックスしてください」というオープンな雰囲気が好きですね。
僕は視覚的な情報からアイデアを得ることがあるので、さまざまなものが並んでいる空間が好きなんです。行き交う人の服を見て、ふと何かを思いつくこともある。考え事や仕事をするのに、ちょうどいい環境だと思います。
niko and ...(ニコアンド)神戸ハーバーランドumie店(併設カフェ「niko and ... COFFEE」)
https://umie.jp/shops/detail/213
さだまつ:では最後に、神戸にメッセージを送るとすれば、何でメッセージを送りますか?
パパンダ:神戸へのメッセージですか。
今の神戸は、高くジャンプするために、いったん膝を折っている状態だと思うんです。ぐっと力を貯め、体勢を整えて、これからバーンと飛び出す。その直前にいるんじゃないかと、僕は勝手に思っています。
だから、どこまでも飛距離を伸ばすつもりで、飛んでいきたい。「飛ぼうぜ、神戸」。そんな気持ちです。
さだまつ:今回こうやってインタビューを受けていただいて、実際お話してみて、どうでした?
パパンダ:人は、問われると考えますよね。考えて言葉にすると、完全ではなくても、少しまとまった形で外に出てくる。話すことで自分の思考が整理されていくのが、新鮮でした。
自分では、なかなか自分に問いかけません。「あまり教えたくないけれど、おすすめの場所は?」という問いも、普段は考えない。そうしたことを考える機会をいただいたと思います。
さだまつ:ありがとうございます。
(おわり)
【おまけ】神戸のパブリックアートについてのデータ
まちに置かれた彫刻
・神戸市役所からJR三ノ宮駅・阪急神戸三宮駅へと延びるフラワーロード沿いは「花と彫刻の道」と呼ばれています。神戸市の公式サイトには、この道沿いの彫刻が39点紹介されています。
・通勤や買い物の途中で、いつのまにか作品の前を通っている。そういう置かれ方をしています。
デザイン都市・神戸
・2008年10月16日、神戸市はユネスコからデザイン都市に認定されました。ユネスコ創造都市ネットワークの一員です。
・その拠点が、2012年8月に開設されたデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)。旧館は1927年(昭和2年)竣工の神戸市立生糸検査所(設計・清水栄二)、新館は1932年(昭和7年)竣工の国立生糸検査所(設計・置塩章)です。生糸を検査していた建物が、いまは創造の場になりました。
山の上の芸術祭
・六甲山で開かれる現代アートの芸術祭「神戸六甲ミーツ・アート beyond」は、2010年に始まりました。2026年で17回目です。
・2026年の会期は8月29日(土)から11月29日(日)まで。ROKKO森の音ミュージアム、六甲高山植物園、天覧台、六甲ガーデンテラス、風の教会エリアなど山上の各所が会場になり、60組のアーティストが参加します。
港にある、いちばん有名な文字
・メリケンパークの「BE KOBE」モニュメントは、2017年、神戸開港150年を記念して設置されました。
・もとは阪神・淡路大震災から20年の節目に生まれた「神戸の魅力は人である」というメッセージです。作品というより合言葉が、そのまま街の風景になりました。
あとがき
「6」という数字の縁で六甲に辿り着き、アートスクールを立ち上げたパパンダさん。「学ビル」の構想や街角のパブリックアートのお話は、聞いているこちらまで頭の中に楽しい景色が広がりました。今の神戸を「高くジャンプするためにしゃがみ込んでいる状態」と笑う姿がとても印象的。彼の思い描くワクワクする未来に向かって、一緒に「飛ぼうぜ!」と言いたくなるような、エネルギーをもらえる時間でした。
【企画・インタビュー:さだまつまみ】
【企画・制作:栗林康弘】
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