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星がきらめく栞と出会う日 ふたたび"本屋とほん"さんへ

    淡いみずいろのインクを溶かし込んだようなやわらかい空から、はちみつ色に光る陽ざしが降りそそいでいる。


    数日後の雪の予報が信じられないほどおだやかな空気で、歩いているうちに体も温まってきて、マフラーと手袋を外してしまう。
    梅日和という季語を思い浮かべながら電車に揺られる。窓の向こうの空を眺めていると、昨年もこうして大和郡山へと向かった日は晴れ渡っていたことを思い出した。

    雪の活版栞について書かれたいろさんの記事をきっかけに、奈良にある"本屋とほん"さんの存在を知った日のこと。訪れたいと願っていたその場所で開かれた「第11回栞展」にみっちさんが栞を出品されることになり、その作品を手元にお迎えしたくて京都から電車を乗り継ぎ、はじめてとほんさんを訪れた日のこと。

    春風のようなよろこびを纏った記憶を愛でていると、白い梅の花の姿が目の前を流れていった。
    その可憐な佇まいが一瞬、星のように見えたのは、これから迎えに行く栞のことが心にあったからだろうか。

    *****

    二月になったら、とほんさんにまた行きたいな。
    そう考えていたある日、タイムラインに流れ星のようなお知らせが舞い降りてきた。


    そっと涙をぬぐってくれるようなぬくもりに、
    美味しいおやつと、和やかなほほえみ。
    愛らしいお顔のくまさんたちのおしゃべりと、
    痛みを虹の色に変えてゆくしなやかさ。


    ふれるだけで心がまぁるくなるような絵とことばを紡がれる、くまのマフィンさん。流れ星が届けてくれたのは、大好きなその方が「第12回栞展」に栞を出品されるというお知らせだった。

    うれしさが心に広がるのを感じながら手帳を開けば、栞展初日はちょうど仕事がお休みの日。
    君の仲間を、迎えに行ってくるね。
    小さなZINEの表紙で毛布にくるまって眠る子に、そっと声をかけた。


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    昨年の十一月のなかば頃、
    東京から羽を広げて
    京都まで来てくれた作品集。
    眠る前にページを開けば
    満ち足りた気持ちになる。

    *****

    駅から商店街を抜ける道を歩き、のぼりやマンホールに住まう金魚にご挨拶をしているうちに、ひっそりと佇む木の格子戸の前にたどり着いた。


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    昨年も撮ったけれど、今年も。
    大和郡山は金魚の街として知られている。


    窓の中に灯る橙色の丸い明かりが目に入り、その変わらない様子に気持ちがほどけてゆく。
    暖かいからだろうか、引き戸は開けられたまま。
    入口近くの小さな平台の上には、『贈り物の本』『冬の本』『氷』『私の孤独な日曜日』などが並び、冬の冷たさとおだやかさがマーブル模様を描いている。

    ゆっくりと店内へと足を進めた途端に、なつかしい、と思った。空気に滲むストーブの匂いとぬくもり。天井からひそやかにこぼれ落ちてくる歌声に耳を傾ける。透明でありながら、花曇りの日のやわらかな色の憂いを帯びたひとの声。

    吊り下げられたモビールと、水槽の中の金魚が、スピッツの曲のメロディに揺られている。
    その光景をしばし楽しんでから、栞が並ぶ平台の右端に視線を向けると、ここだよと手招きする声が響いた。


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    くまのマフィンさんの栞、『夜と本と星』
    (というお名前には"とほん"が隠れている)
    左側が「リトルスター」、右側が「栞の約束」
    目にした瞬間に、これから読書の時間を
    一緒に過ごせるのだと思うと笑みがこぼれた。


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    ポストカードにもなる栞と、
    銀の星付きダイカット栞。
    ポストカードにもなる栞の裏面には、
    ブルーのインクで詩が記されている。



    思わず目を細めてしまったのは、とほんさんに満ちるおだやかな雰囲気に包まれて、くまさんたちがあまりにも居心地よさそうにしていたから。
    そこは、昨年みっちさんの栞が佇んでいた場所のお隣の席なんだよと、心の中で語りかける。


    38組の方が出品された栞が並ぶ様子を見ていると、今年もここに来ることが出来て本当に良かったと思った。
    好きなお店が変わらずそこにあることも、行きたいときに行きたい場所に行けることも、そして本を読みたいと思えることだって、当たり前のことではなく、それはきっとささやかな奇跡なのだ。


    吉田篤弘さんの本が並ぶ一角には、木洩れ日のような色彩がふわりと舞い踊る。
    隣では西尾勝彦さんの詩集が笑みを浮かべながら歌い、そのすぐそばで日下明さんの作品集から月の光が射し、『石の辞典』と宮沢賢治のことばたちが澄んだ輝きを放つ。

    まるで、うたたねをしているうちに、顔なじみのひとびとが集う喫茶店に迷い込んだかのよう。
    好きな本屋さんはたくさんあるけれど、とほんさんほど、本がくつろいで深く呼吸している場所をわたしは他に知らない。


    名残惜しいけれど、栞とその友となるような本を連れて、そろそろ帰らなければ。
    夜明けの光に揺蕩う音色を織り上げたエッセイと、障子越しの雪あかりを思わせる白い小さな随筆集と。
    ブックカバーをかけてもらう間、棚の一番上にある『夜の木』の表紙の美しさに見惚れながら、また来よう、と思った。
    星がきらめく栞と、今日の思い出も一緒にかばんに忍ばせたままお店を後にして、近くにある氏神様の境内に入ると不意に甘い香りが漂ってくる。


    淡い色の空にくっきりと映える、紅梅の花。
    静謐さの中にほのめく春の気配を指先に宿しながら本殿へと向かい、むすばれたご縁への感謝の気持ちを伝えた。


    *****

    ざらざらとした現実に馴染めず、本だけが心のよりどころだった、幼い日々のことを思い出す。
    本を読むことは、ひとりきりになること。
    その孤独な時間が救いだったあの頃は、こうして栞の手ざわりを味わいながら、遠くにいるひとの
    笑顔とやさしさに思いを馳せる日が来るなんて、夢にも思わなかった。

    ステッチされた銀の星、きらきらと光るグリッター。やわらかに滲み合うインクの色と、肌にふれる紙のぬくもり…。
    そして愛らしいくまさんたちの姿と、裏面に記された、月と星のように心に寄り添ってくれる詩のことば。
    本を開き、目が合うたびに思う。
    君たちに出会えて、わたしはしあわせだよ、と。



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    刺繍糸でつくられた銀の星。
    きらきらとした様子を上手く写せなかったのですが、
    拡大して見ると、わかりやすいかなと思います。
    グリッターのこまやかな光にふれてから
    本を閉じて眠りにつけば、夢の中でも
    物語の世界をともに旅することが出来そうです。



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    色や形、素材も様々なたくさんの栞にふれる
    時間は、楽しいひとときでした。
    ひとつだけ、のつもりが選びきれずふたつに。
    "SOZORO"さんの空の栞と
    "たんぽぽ堂"さんの雪の栞。


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    とほんさんで購入しようと決めていた二冊。
    どちらの作品も、静けさを纏った装釘に
    心惹かれます。著者はおふたりとも、詩人の方。
    ひとつひとつのことばが夜を照らすのです。



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    最後に、みっちさんの栞と一緒に記念撮影。
    この光景を眺めていると、noteという場所に
    出会えて良かったと思わずにはいられません。
    とほんさんを訪れるきっかけをつくってくださった
    いろさん、みっちさん。そしてもちろん、
    大切な宝ものとなる栞を届けてくださった
    くまのマフィンさんに感謝の気持ちを込めて。
    ありがとうございます。


    *****
    本屋とほん「第12回栞展」は
    2026年2月6日(金)から2月25日(水)まで
    (木曜定休)

    栞展のご案内と
    出品者の方の一覧はこちらから
     


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    お店の外観。小さな看板が目印です。
    通路側の明かりが灯っていないのは、
    少し早めに到着してしまった為。
    再訪出来る日を、心待ちにしています。

     
     

    夏樹

     
     
    心に浮かぶ思いを、詩と散文に。 好きなものは、空と月と虹。本と珈琲。 京都で暮らす日々。