
【妄想学校】第十七弾 意味がわからない。だから面白い。――“ファトラジー”を教える先生がやってきた
妄想学校に、また新しい先生がやってきました。
今度の先生も、少し変わっています。
少し長めの黒髪。
深いワイン色のベストに黒いジャケット。
右眼には片眼鏡。
片手には、文字や矢印がびっしり書き込まれたノート。

見るからに、ちょっと謎めいています。
新しく着任したのは、
初代王天君先生。
担当は――
「笑芸・言語遊戯」です。
「……そんな教科、ありましたっけ?」
ちびたぬき先生が時間割を二度見しました。
ありませんでした。でも、妄想学校です。
面白そうなら、教科そのものを作ってしまいます。
そして王天君先生が今回、生徒たちに教えてくれるものの一つが、
「ファトラジー」なのです。
ファトラジーって、なんですか?
最初の授業。
snowちゃんとはっちゃんの前に、王天君先生が立ちました。

黒板には、
「ファトラジー」の文字。
はっちゃんが、さっそく手を挙げます。
「先生、それ、初めて聞きました」
「たぶん、そういう人のほうが多いでしょうね」
実はファトラジー(fatrasie)は、もともと中世フランスにあったナンセンスな詩の一種です。
辞書にも、ことわざやまとまりのない文などを組み合わせた、中世の滑稽な小詩として説明されています。(アカデミー辞典)
王天君先生は、そのほとんど知られていない詩を現代の日本語でよみがえらせ、「笑芸の詩」として広げようとしています。
しかし、説明だけ聞いても、まだよくわかりません。
snowちゃんが尋ねました。
「どんな詩なんですか?」
王天君先生は答えます。
「まずは、意味がわからなくてもいい詩だと思ってください」
「え?」
国語の先生だったら、ちょっと困りそうな発言です。案の定、教室の後ろで見ていたちびたぬき先生の眉が、ほんの少し動きました。
「意味がわからない」を楽しんでみる
王天君先生は、黒板にこんな言葉を書きました。
図書室の月が
給食のスプーンに乗って
校長室まで遠足に行きました。
snowちゃんとはっちゃんが黙ります。
しばらくして、はっちゃんが言いました。
「……意味、わかりません」
「はい」
「いいんですか?」
「いいんです」
即答でした。
でも、もう一度読んでみると、不思議です。
図書室に月がある。
それがスプーンに乗る。
しかも校長室へ遠足に行く。
現実にはありえないのに、なぜか頭の中には変な風景が浮かびます。

snowちゃんが笑いました。
「なんか……ちょっと好きです」
王天君先生もうなずきます。
「それです」
ファトラジーでは、普通ならつながらない言葉を、あえてつなぎます。原因と結果が合っていなかったり、突然まったく違うものが登場したりします。
だから、筋を追おうとすると、
「なんだこれは?」となります。
でも、その「なんだこれは?」こそが面白い。
王天君先生自身も、ファトラジーについて、意味不明な言葉の組み合わせを楽しみ、「おかしさ」や「不思議さ」、そして独特の想像世界である「綺想」を大切にしています。
正しく書こうとすると、書けなくなる
「では、作ってみましょう」
王天君先生が紙を配りました。
お題はありません。
ルールも、ほとんどありません。
「変なことを書いてください」
はっちゃんが困ります。
「変なことって言われると、逆に難しいです」
snowちゃんもうなずきます。
「ちゃんとした文章にしようとしてしまいます」
王天君先生が言いました。
「では、今日はちゃんとを忘れましょう」
二人はしばらく考えました。
そして、少しずつ書き始めます。
意味が通ってしまったら、ちょっと壊す。
普通の言葉が続いたら、突然違うものを入れてみる。
音が面白ければ、そのままつないでみる。
王天君先生が紹介している作り方の一つにも、考えすぎず勢いよく言葉を出してみる方法があります。そこから組み合わせたり、並べ替えたりしながら、自分だけの奇妙な世界を作っていきます。(前述:作り方解説)
やがて、はっちゃんが笑い始めました。
「先生、これ、めちゃくちゃです」
「いいですね」
「褒められた!」
今度はsnowちゃんです。
「読んでいたら、なんだか映像が浮かんできました」
「それもファトラジーの面白さです」

正しい答えを探していた二人が、いつの間にか、
「もっと変な言葉はないかな」
と考え始めていました。
ちびたぬき先生、少し困る
そこへ、ちびたぬき先生がやってきました。
生徒たちの紙を読みます。
「これは……」
沈黙。
もう一度読みます。
「主語と述語が……」
王天君先生が言いました。
「今日は、そこを気にしなくても大丈夫です」

国語教師としては、なかなか落ち着きません。
「でも、文章は相手に意味を伝えるために……」
「もちろん、それも大切です」
王天君先生は答えます。
「でも言葉には、意味を伝える以外の楽しみ方もあります」
ちびたぬき先生は、もう一度作品を見ました。
意味はよくわかりません。
でも、変な風景が頭の中に浮かびます。
思わず、「……これは、ちょっと面白いですね」
と言ってしまいました。
王天君先生の片眼鏡が、少し光ったような気がしました。
永野先生までやってきました
さらに、書道教室から永野先生がやってきました。
「何を書いているんですか?」
はっちゃんが、自分のファトラジーを見せます。
永野先生はしばらく読みました。
意味については何も言いません。
そのかわり、一文字を指します。
「この字、あと0.1ミリ右です」
「そこを見るんですか!?」
教室に笑い声が広がりました。
意味を整える、ちびたぬき先生。
文字を整える、永野先生。
そして、言葉をいったん壊して遊んでみる、王天君先生。

同じ「言葉」を扱っているのに、三人の入口はまったく違います。
だからこそ、一緒になると面白いのかもしれません。
「わからない」は、悪いことではない
授業の終わり。
黒板には、意味のわからない言葉がいっぱい並んでいました。
でも、snowちゃんもはっちゃんも楽しそうです。

はっちゃんが言いました。
「最初は、意味がわからないから間違っているのかと思いました」
snowちゃんも続けます。
「でも、わからないから想像することもあるんですね」
王天君先生は、うなずきました。
学校では、どうしても、
「意味を理解すること」
「正しい答えを出すこと」
が大切になります。
もちろん、それは必要なことです。
でも、ときには答えから離れてみる。
意味がわからないものを、そのまま眺めてみる。
言葉の音や形から、勝手に風景を想像してみる。
すると、いつも使っている言葉が、
急に知らないもののように見えてきます。
それが、ファトラジーの面白さなのかもしれません。
中世フランスで生まれた不思議なナンセンス詩が、何百年もたった今、妄想学校の教室でまた遊び始めました。ファトラジーは現代ではほとんど知られていない存在ですが、王天君先生のnoteではすでに多くの人が作品作りに参加し、「#ファトラジー」の投稿も広がっています。
帰り際、はっちゃんが尋ねました。
「先生。結局、今日の作品で一番正しいのはどれですか?」
王天君先生は、右眼の片眼鏡に触れました。
そして、少し笑います。
「正解? 今日はありません。」
こうして妄想学校に、
「意味がわからない」を楽しむ先生が加わりました。
妄想学校の言葉の授業。
どうやら、ますます普通ではなくなっていきそうです。
おまけ――モノクルから生まれた、王天君先生のパロノマジー
今回、妄想学校で王天君先生のキャラクターを作る際、右眼にモノクルを掛けてもらいました。すると王天君先生、その「モノクル」からさっそく言葉遊びを一つ生み出してくださいました。
もろ黒の ももクロ、
「モノクロの物 繰る藻の刳るモノクルの者 来る。」
王天君先生によると、意味は、
「モノクロの物を手繰る藻が くり抜くモノクルを掛けている男がやって来る」と完全に黒色の格好をした ももいろクローバーZの全員が言っている
というものだそうです。
似た音を次々につないでいく、パロノマジー(超連続的なダジャレ)。
「モノクル」という一語から、ここまで言葉が増殖していくとは。
天王君先生のダジャレ(パロノマジー)の授業はこちらです。
キャラクター設定から、さらに新しい言葉遊びが生まれてしまうあたり、さすが笑芸家です。妄想学校に着任したその日から、もう授業の外でも言葉が遊び始めています。
妄想学校では職員・生徒大募集中です。
是非、あなたの世界を妄想学校で広げてみてください。


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