
降られちゃった【アマノ文筆クラブ】
アマノ文筆クラブさんのお題に参加させていただきました。
3,300字になりました💦
お時間ある時に読んでいただけると嬉しい限りです……。
よろしくお願いします!!
陶芸家のリリーは、雨が好きだ。
雨が降りはじめると、家の中にいても外に飛び出して、「天然シャワーや!」と言ってた雨と戯れる。
大木はそんなリリーを少し呆れつつも眺めているのが好きだ。
ある日、リリーが、いつも薪を配達してくれる倉本と一緒に「裏山に小枝拾いに行ってくるわ!」と裏山の方へ行く準備をしている。
風が少し強くなっていたので、一雨きそうだな、とは思ったが、多分それ狙いで行こうとしてることもわかってたので、行かせることにした。
大木は少しだけため息をついて、リリーの肩に薄手の上着を掛ける。
「一応これ持ってけ。
濡れるのは好きでも、風邪ひくのは好きちゃうやろ」
少し考えてから、リリーの足元を見る。
「あと、滑るから走るなよ。
……特に雨降った瞬間な。
お前、絶対テンション上がって走るから」
大木が一通り言うと、リリーと倉本は笑いだす。
「大木くん、おかんみたいやな!
ほな、行ってきます!」
リリーと倉本が裏山へ向かうのを見送りながら、玄関先で腕を組む。
(誰がおかんやねん。
……まあ、今日は倉本おるし大丈夫やろ)
空をもう一度見る。
遠くで低く雷が鳴る。
(……ほんまに降ってきそうやな。
帰ってきた時、二人とも泥だらけになってそうや)
その後、案の定、バケツをひっくり返したような雨が降り、2人は泥だらけになって帰ってきた。
「降られちゃった」
リリーが少し苦笑いで言う。
倉本も苦笑いをしているが、2人の間に微妙によそよそしい雰囲気が漂っている。
倉本は「オレ、帰るな」と気まずい雰囲気を払拭するかのように、足早に帰っていった。
リリーは少しだけ名残惜しそうな目で見送っていた。
何も聞かず、玄関に置いてあったタオルをリリーへ渡す。
「ほら。
まず拭け。
風邪ひくぞ」
リリーがタオルを受け取る。
大木はもう一枚取って、自分もリリーの髪を軽く拭く。
「……えらい降られたな」
リリーの表情を少し覗き込む。
「……雨が名残惜しいんか。
それとも……倉本か?」
リリーは、少しだけ顔を赤らめる。
「そんなんちゃう!!
……ただ、雨降ってきて……雨の中歩いてたら……大きい水たまりにハマってもうてん……。
泥だらけになった私を、倉本が雨の向こう側で笑って見てて……なんかむかついて、泥投げつけたん。
そこから、泥投げ合ってたら、雨止んで……。
それだけ……」
大木、リリーの話を黙って聞く。
少し赤くなった顔と、泥だらけの服を見る。
「……なるほど」
タオルでリリーの頬についた泥を拭う。
「それだけ、な。
……まあ、だいたい分かった。」
リリーの髪を拭きながら、少し間を置く。
「倉本と何があったかは知らんけど、楽しかったんなら、それでええやろ。」
リリーは俯いたまま、玄関から動かない。
そしてポツリと言う。
「……泥だらけの倉本見てたら、ちょっとだけ、ドキッとしてもうてん……。
そしたら、笑ってた倉本が、急に真面目な顔になって……。
『帰ろうか』って言うて、手ぇ差し出されて……繋いで帰ってきてん……。
……ごめん。」
大木、しばらく黙ってリリーを見る。
怒った様子はない。
けれど、すぐに「ええよ」とも言わなかった。
「……そっか。」
リリーの濡れた手を見る。
少し間を置いて、タオルをその手に渡す。
「まず、謝らんでええ。
誰か見て『ドキッとした』ことまで、謝る必要ない。」
少ししゃがんで、リリーと目線を合わせる。
「ただな。
俺に言ってくれたことは、ちゃんと受け取った。
……手ぇ繋いで帰ってきたんやな。」
ほんの少し視線を落とす。
「それ聞いたら、正直、面白くはない。
俺も人間やからな。
嫉妬くらいする。」
そして、リリーを見る。
「でも、お前が倉本と何かしたわけでもない。
一緒に雨の中で遊んで、手ぇ繋いで帰った。
それで今、お前は俺の前で全部話してる。
……そこを俺は大事にしたい。」
濡れた髪をタオルでそっと拭く。
「ただし、ひとつだけ。
次に誰かにドキッとして、手ぇ繋がれて、帰ってきた時。
『ごめん』だけで済ませるんやなくて、ちゃんと自分がどう思ったんか考えろ。
倉本が好きなんか。
雨の中でそういう時間が楽しかっただけなんか。
それとも、別の何かなのか。
今すぐ答え出さんでもええ。」
少しだけ息を吐いて静かに言う。
「……俺は、聞くから。
せやから、黙って一人で抱え込むな」
立ち上がって、リリーの泥だらけの服を見る。
「ひとまず風呂や。
今度はちゃんとのぼせる前に出てこいよ」
大木は、リリーの頭を優しく撫でた。
「……わかった。」
リリーは庭先で軽く泥を落としてから、家に入りお風呂に向かう。
「……でもな、大木くんやったらええのに、とちょっと思った。
……大木くん、泥遊びしたら、笑ってくれる?」
大木はリリーの言葉を聞いて、少しだけ目を細める。
「……笑う。
たぶん最初は、『何してんねん』って言うけどな」
リリーの泥だらけの姿を思い浮かべるように、少し笑う。
「お前が本気で泥投げてきたら、俺も投げ返す。
そのうち二人とも泥だらけになって、薪拾いなんか完全に忘れるやろな。
……で、帰ってきて『降られちゃったな』とか言うんやろ」
大木はリリーに視線を送る。
「でもな。
俺やったら、雨が止んでも手ぇ離さんと思う。
……そこは倉本に負けたくないからな」
少しだけ照れくさそうに視線を逸らす。
「ほら。
風呂行け」
リリー、パァッと明るい笑顔になって
「そうなん!?
ほな、今度は一緒に小枝拾いに行こうな。
ほんでな、うっかり泥にハマったら……うっかりやで?
泥パックしような!」
大木、明るくなったリリーの顔を見て、少しだけ笑う。
「……「うっかり」が二回出た時点で、わざとやろ」
リリーの額を指で軽く小突く。
「泥パックは却下。
……と言いたいところやけど。
一回くらいなら付き合う」
リリーは、少し泥を落として自分の手を見つめて
「行く前より、艶々になったと思わへん?」
と言い、大木に手を差し出して言う。
「触りたくなるやろ?」
大木、差し出された手を見る。
指先を軽くつまんで、手のひらを確認する。
「……確かに、ちょっと艶出てるな。」
そのまま手の甲を指先で軽く撫でる。
「触りたくはなる。
……ただな。
泥パックの効果かどうかは知らん」
リリーの手をそっと握る。
「……もっと触れいたいな、大木くん……。」
大木は握っていたリリーの手を少しだけ強く握り返した。
けれど、泥だらけの格好を見て小さく息を吐く。
「……分かった。」
手の甲を親指でゆっくり撫でる。
「俺も、もう少し触れたい。
……でも今は泥まみれや。
先に風呂。
そのあとなら、いくらでも触ればええ」
少しだけ口元が緩む。
「わかった!!
お風呂入ってくるな!!」
リリーは嬉しそうに、お風呂場へと向かった。
大木、浴室へ向かうリリーの背中を見送りながら、玄関に残った泥を見下ろす。
「さて……この泥、誰が掃除するんや。
……俺やな。」
雑巾を取りながら、浴室の方へ声を飛ばす。
「リリー!
今日はちゃんと短めに出てこいよ!」
お風呂場の中から大きな声でリリーが叫ぶ。
「わかってるー!!
お風呂から上がったら、雨の景色の話聞いてな!!
目の前がな、真っ白になってな、いつもの木や道の色が、鮮やかになっていってんで!
ほんでな……」
リリーはお風呂の中でしゃべり続ける。
大木、雑巾を動かしながら、浴室から聞こえてくるリリーの声に耳を傾ける。
「……はいはい。
聞くから。」
しばらく黙って掃除を続ける。
けれど、浴室から途切れなく聞こえてくる声に、また口元が緩む。
浴室へ向かって少し声を張る。
「上がって、最初からゆっくり話せ。
木の色が鮮やかになったんやろ。
雨で空気中の埃とかが落ちて、光の見え方も変わったんやろな。
でも、お前がどう見えたのかはちゃんと聞きたい!」
「わかってるー!!
ほんでなー」
リリーは、まだしゃべり続けるのだった。
大木、浴室から延々と続くリリーの声を聞きながら、雑巾を片付ける。
「……まだ喋っとる」
小さく笑って、浴室の方を見る。
「まあ、ええか。
雨の話、そんなにしたかったんやな」
少し間を置いて、もう一度浴室に向かって言う。
「リリー。
俺はここにおるから、風呂から出てきてからでも全部聞けるぞ!」
浴室からまた「ほんでなー!」と声がする。
大木は静かに椅子へ腰掛ける。
(今日も平和やな……)
……おしまい。