
老いを敬う言葉、老いを疎まない社会|日中BizNavi|2026年9月21日
9月21日は日本の「敬老の日」であり、「世界アルツハイマーデー」、日本では法律上の「認知症の日」でもあります。65歳以上が総人口の29.6%を占める日本と、60歳以上が3億2,338万人に達した中国。長寿を祝うだけでなく、働くこと、消費すること、そして認知機能を含めた「生きる質」をどう支えるか。高齢化を日中共通の課題と市場の両面から考えます。
☀️ 今朝のトリビア|二つの「老い」の記念日
2026年9月21日は、日本の「敬老の日」です。「多年にわたり社会につくしてきた老人を敬愛し、長寿を祝う」国民の祝日で、2003年から9月の第3月曜日となりました。今年は9月21日に当たります。
そして同じ9月21日は「世界アルツハイマーデー」。1994年、国際アルツハイマー病協会(ADI)がエジンバラで開いた国際会議を機に始まりました。日本では2024年施行の認知症基本法によって9月21日を「認知症の日」、9月を「認知症月間」と定めています。
今年は、「長寿を祝う日」と「認知症について考える日」が文字どおり同じ日に重なります。
出所:内閣府・政府広報オンライン 2026年の国民の祝日
出所:厚生労働省 認知症の日/認知症月間 2026年度
📰 注目ニュース
🇨🇳 中国金融|LPR、16カ月連続据え置き
中国人民銀行が公表した9月の最優遇貸出金利(LPR)は、1年物が3.00%、住宅ローン金利の目安となる5年物が3.50%で、ともに16か月連続の据え置きとなった。銀行の利ざや縮小や米国との金利差などから大幅な金融緩和の余地は限られる一方、国内では不動産や地方政府部門を中心に信用需要の弱さが続く。景気下支えでは利下げより財政・消費刺激策の比重が一段と高まりそうだ。
出所:Reuters China keeps benchmark lending rates unchanged for 16th month in September
🇺🇸🇨🇳 米中経済|AI・関税・重要鉱物を協議
中国の何立峰副首相とベッセント米財務長官がニューヨークで経済協議に入った。議題にはAI、関税、重要鉱物の供給などが含まれ、今後の米中首脳協議をにらんだ調整の意味合いが強い。とりわけレアアースなど重要鉱物の供給は、日本企業の調達にも直結する。米中関係が改善するかだけでなく、中国による輸出管理が実際のサプライチェーンでどこまで緩和されるかが焦点となる。
出所:Reuters US Treasury's Bessent, China's He to launch talks on AI, trade, critical minerals
💾 中国半導体|CXMT、新世代DRAMを量産
中国DRAM大手の長鑫存儲(CXMT)は、第5世代メモリーチップ製造プラットフォームが量産段階に入ったと発表した。新たな24ギガビットLPDDR5X製品などを投入し、従来世代と比べウエハー当たりのチップ生産量を50%以上高めるとしている。米国の半導体輸出規制が続くなか、中国では設計だけでなく製造装置や材料を含めた国産化が進む。日系の半導体材料・装置企業にも競争環境の変化をもたらす動きである。
出所:Reuters China's CXMT says new memory-chip platform enters mass production
🏨 中国規制|旅行予約4社を当局が調査
中国の市場監督当局が、美団傘下企業や阿里巴巴系企業、同程、途家などオンラインホテル・旅行予約関連企業について、不正競争法違反の疑いで調査を進めている。ホテル予約市場ではプラットフォームの価格拘束や取引条件を巡る監視が強まっており、当局は今年、携程(Trip.com)にも巨額の制裁金を科している。中国でECやプラットフォームを利用する企業にとって、販売チャネルの規模だけでなく取引条件の適法性確認が一段と重要になる。
出所:Reuters China investigates Meituan and Alibaba units for suspected antitrust violations
📊 中国経済|生産回復、消費は伸び悩み
中国の8月の鉱工業生産は前年同月比5.2%増と7月の4.5%増から加速した一方、小売売上高は0.4%増にとどまり、7月の0.6%増からさらに鈍化した。1~8月の固定資産投資も前年同期比7.2%減となった。製造業と輸出が景気を支える一方、家計消費や投資の弱さが続くという中国経済の構図が改めて浮かぶ。企業にとっては「中国市場全体」ではなく、伸びる産業と弱い消費分野を分けて見る必要がある。
出所:Reuters China's factory output growth quickens in August, retail sales slow
🤖 中国AI|ファーウェイ、AIチップ供給が需要に追いつかず
華為技術(ファーウェイ、Huawei)は、中国国内でAI計算設備への需要が供給能力を上回っていると明らかにした。米国の対中半導体規制によりNVIDIA製高性能チップへのアクセスが制約されるなか、同社はAscendシリーズの開発を加速し、2027年投入予定の次世代製品の計画も前倒しする。単体チップの性能差を大量接続するシステム技術で補う戦略も鮮明で、中国のAI競争が「モデル」だけでなく計算基盤そのものへ広がっている。
出所:Reuters China's Huawei says AI chip demand outstrips supply as it steps up Nvidia challenge
🇯🇵 対中貿易|日本の8月輸出、中国向け20.6%増
日本の8月輸出は前年同月比19.3%増となり、中国向けも20.6%増えた。一方、原油高を背景に輸入額は28%増加し、貿易収支は1兆1,060億円の赤字となった。中国向け輸出の伸びは日中経済関係の底堅さを示す一方、エネルギー価格と為替の変動が企業収益を左右する構図は変わらない。中国拠点を持つ日系企業は、販売面だけでなく本社側の輸入コストや金利上昇も含めて収益構造を見る必要がある。
出所:Reuters Japan August imports jump as oil prices lift costs, exports stay firm
🔐 渡航・生活・帰国情報|大型連休前の安全確認を
中国では9月25~27日が中秋節、10月1~7日が国慶節休暇です。在上海日本国総領事館は、期間中は観光地などで人出が増えるとして、外出時の周囲への注意や、可能な限り複数人で行動するなどの安全対策を呼びかけています。
なお、10月10日は中国政府の振替出勤日ですが、上海総領事館は休館日です。領事手続きや出張日程を組む際には注意してください。
出所:在上海日本国総領事館 「中秋節・国慶節」期間中の安全対策、当館の休館日、連絡先について
🇨🇳 ビジネス成語|老当益壮
老当益壮(lǎo dāng yì zhuàng)
「年齢を重ねても、ますます意気盛んである」という意味です。
『後漢書』の「丈夫為志、窮当益堅、老当益壮」に由来します。
例文:
他退休以后仍然老当益壮,创办了新的公司。
彼は退職後も意気盛んで、新しい会社を立ち上げました。
高齢者を「支えられる側」とだけ見るのではなく、経験や知識を社会で生かすという点で、今日の敬老の日にもふさわしい成語です。
出所:台湾教育部『成語典』 老當益壯
💬 中国ネット・時事用語|银发族
银发族(yín fà zú)
直訳すれば「銀髪族」。中国語で高齢者層をやや柔らかく表現する言葉です。
そこから生まれたのが银发经济(銀髪経済、シルバーエコノミー)。中国政府は「高齢者向けの商品・サービス、および老後に備えるための一連の経済活動」と定義しています。
中国では2025年末時点で60歳以上が3億2,338万人、総人口の23.0%。高齢化は福祉政策だけでなく、旅行、食品、住宅、金融、デジタル機器、医療・介護など巨大な消費市場の問題になっています。
出所:中国政府・北京市政府 国务院办公厅关于发展银发经济增进老年人福祉的意见
💡 今日の金言|莫道桑榆晚,为霞尚满天。
莫道桑榆晚,为霞尚满天。|Mò dào sāng yú wǎn, wéi xiá shàng mǎn tiān.
「夕暮れだから遅いと言うな。夕焼けはなお空いっぱいに輝いている」
唐代の詩人・劉禹錫が晩年を詠んだ「酬楽天詠老見示」の一節です。
「老い」を衰えだけで捉えない発想は、「敬老」という言葉を考えるうえでも示唆的です。
[『劉禹錫集』|劉禹錫|中華書局]
📊 今日の数字|29.6%
日本の65歳以上人口は、2026年9月15日時点の推計で3,624万人。
総人口に占める割合は**29.6%**と過去最高となりました。65歳以上の就業者も943万人で過去最多。就業者全体の13.8%、およそ7人に1人を占めています。
「高齢者が増える」ことと「働く高齢者が増える」ことは、同時に進んでいるのです。
出所:総務省統計局 統計からみた我が国の高齢者―「敬老の日」にちなんで―
🏆 高齢化率を比べると
人口4,000万人以上の主要国で65歳以上の人口割合を比べると、日本は29.6%で最も高い水準です。
日本 29.6%
イタリア 25.6%
ドイツ 24.2%
フランス 22.9%
高齢化は「日本だけの特殊事情」ではありませんが、日本が世界のかなり先を走っていることは確かです。だからこそ、介護、医療、移動、住宅、雇用、デジタル対応など、日本で蓄積される仕組みが他国の参考になる可能性もあります。
出所:総務省統計局|統計からみた我が国の高齢者
📅 今日のイベント|世界アルツハイマー報告2026
Alzheimer's Disease International(ADI)は9月21日、World Alzheimer Report 2026を発表します。
今年の報告書は認知症の臨床試験がテーマ。ADIによると、現在158の薬剤が192件の臨床試験で研究されており、診断・治療研究が新たな局面に入っています。
オンライン発表イベントは9月21日14時(英国夏時間)、日本時間22時からの予定です。
出所:Alzheimer's Disease International Launching the World Alzheimer Report 2026
✍️ 難読漢字ドリル|「耆宿」
耆宿
読み方は――きしゅく。
「年齢を重ね、経験や人望のある人」「その分野の長老」を意味します。
単に年齢が高いだけでなく、長い経験によって培った知識や信用まで含む言葉です。
「高齢者」を年齢という数字だけで区切るのではなく、その人が蓄えてきた経験に目を向ける。「敬老」の本来の意味にも通じる言葉ではないでしょうか。
🌿 メディカル・ウェルネス|認知症は「年齢だけ」の問題ではない
WHOによると、2021年時点で世界には約5,700万人の認知症の人がいて、毎年約1,000万人が新たに発症しています。アルツハイマー病は認知症の60~70%を占める最も一般的な原因です。
一方、認知症は「年を取れば必ずなる」ものではありません。WHOは、身体活動不足、喫煙、過度の飲酒、社会的孤立、高血圧、糖尿病、難聴など、修正可能なリスク要因への対応が発症を遅らせたりリスクを下げたりする可能性があるとしています。
2026年の世界アルツハイマー月間のテーマは、
“The Earlier You Know, The More You Can Do: A Dementia Diagnosis Matters.”
「早く知れば、それだけできることが増える。認知症の診断には意味がある」
です。
「物忘れ=すぐ認知症」と決めつける必要はありませんが、気になる変化が続く場合には、自己判断だけで済ませず医療機関などへ相談することが大切です。
出所:WHO Dementia fact sheet
出所:Alzheimer's Disease International World Alzheimer's Month 2026
✏️ 編集者コラム
老いを敬う言葉、老いを疎まない社会
9月21日は、世界アルツハイマーデーと敬老の日が重なる、なかなか含蓄のある一日である。本来なら、高齢者への感謝と労りに思いを寄せる日なのだろう。ところが今の日本では、その趣旨を手放しで喜びにくい空気も漂っている。
高額療養費制度では自己負担をめぐる見直しが続き、長生きすればするほど医療費への不安が重くのしかかる。長寿を寿ぐはずの祝日に、老後の財布を案じなければならないとすれば、何とも皮肉な話である。
さらに厄介なのは、若者の負担と高齢者の社会保障を天秤にかけ、「若者対高齢者」という分かりやすい対立構図に仕立てる言説が目立つことだ。本来なら制度設計や財源配分の問題であるはずなのに、いつの間にか世代同士の損得勘定へと置き換えられてしまう。
映画『PLAN 75』は、75歳以上の人々に生死の選択を促す制度が導入された近未来の日本を描いた作品である。もちろんフィクションだ。しかし、社会保障をめぐる議論を眺めていると、ときにその設定がまるきり荒唐無稽とも思えなくなる。フィクションに現実が追いつく速度は、案外速い。
その一方で、言葉の世界だけを見れば、社会はずいぶん「優しく」なった。
かつて使われていた「老人性痴呆症」という呼称は「認知症」へ改められた。人種や性別、障害、身体的特徴などにかかわる表現も、差別や偏見につながりかねないとして次々に見直されてきた。放送や出版の現場でも表現への配慮は細かくなり、「言葉狩り」という反発が生まれるほど、言葉の角を丸める努力が重ねられている。
中国でも事情は似ている。かつての「老人性痴呆症(lǎorén chīdāizhèng)」や、認知機能の衰えを揶揄するような「老糊涂(lǎo hútu)」といった言い回しは、少なくとも公的・医療的な場面では避けられる方向にある。
ところが面白いのは、中国語ではそれとは別に、「老」という字そのものが実に堂々と日常生活に居座っていることである。
「老師」は先生であり、「老婆」は妻への親しみを込めた呼び方である。「老朋友」といえば昔からの友人だし、「以老带新(yǐ lǎo dài xīn)」といえば、経験豊かな者が若手を導くことを指す。「老」が付いたからといって、必ずしも衰えや古さを意味するわけではない。むしろ経験、親しみ、信頼といったニュアンスをまとわせることさえある。
そんなことを考えていると、大学時代の記憶が蘇る。
当時、街角でよくモルモン教、現在の末日聖徒イエス・キリスト教会の若い宣教師たちに声を掛けられた。まだ二十歳そこそこにしか見えない青年たちが、教会では「長老」と呼ばれていると知り、妙に感心した覚えがある。
二十歳で「長老」。
考えてみれば、これほどアンチエイジングとは縁遠い肩書もない。宗教という世界は、年齢を示すはずの言葉を、権威や敬意を表す記号へと自在に変えてしまうらしい。
そう考えると、日本で「老」という一字が真正面から敬意をもって扱われる場所は、宗教の世界くらいしか残っていないのではないか、とさえ思えてくる。
世俗の世界には「アンチエイジング」という言葉があふれている。白髪は染め、しわは消し、老いはできるだけ見えなくする。「老いること」は人生の自然な過程であるはずなのに、いつの間にか、隠すもの、言い換えるもの、そして時には社会の負担として語られるものになった。
言葉だけを優しくしても、社会まで優しくなるとは限らない。
せめて敬老の日くらいは、「老」という字から目をそらさず、年を重ねることそのものを、もう少し堂々と寿ぐ一日であってほしいものである。(耕雲)
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