
コミュニティビジネスの地域メディアは地元で「コミュニティ」を名乗るべからず
マーケティングや地方創生の文脈で「これからはコミュニティの時代だ」「メディアはファンコミュニティ化を目指すべきだ」と語られることは、よくあります。
熱量の高い読者を集め、会員化し、双方向のコミュニケーションでエンゲージメントを高めていく──。大都市圏や全国を対象にした発信者やインフルエンサー、あるいはオンラインサロンのようなビジネスモデルであれば、この「コミュニティ化」は極めて合理的で、再現性の高い戦略と言えます。
でもパブリック・リレーションズという個人と公を繋ぐ「メディア」本来の役割に立ち返るのであれば、私はこの考え方には懐疑的です。
特に、人口数万人規模の小さな地域社会……コミュニティそのものに根を張ろうとするWebメディアに限っては、この常識が当てはまらない実感があります。
ローカルメディアは、自らの活動を安易に「コミュニティ」と名乗るべきではありません。
なぜ、地域密着を掲げるメディアが「コミュニティ」を自称しないのか。
一般論として語られるコミュニティ化の功罪を整理しながら、小さな経済圏でメディアが果たすべき本当の役割について考えてみます。
事実、ローカルメディアは「コミュニティビジネス」ではある
「コミュニティ」という言葉には、地域社会全体を指すスケール感から、共通の趣味や目的で集まるサークル、ファンクラブのような集団まで、複数の概念が存在します。
マーケティングの視点で「コミュニティ化」が推奨される最大の理由は、熱狂的なファン(コアな読者)を囲い込み、関係性を密にすることで離脱を防ぎ、LTV(ライフタイムバリュー、顧客生涯価値)を高められるから。顧客が自社にもたらすだろう「利益」を数値化する考え方で、これを高めることが企業活動では重要です。
その点において、マネタイズを目指すローカルメディアが「コミュニティビジネス」にカテゴライズされるのは事実でしょう。
読者が一定数いなければ、地域事業者に広告を出す価値を感じてもらえないからです。
しかし、読者を消費者と定義しない、読者にコンテンツを販売しないフリーペーパーのようなWebメディアが自ら「私たちはコミュニティです」と名乗り始めた瞬間、大きな副作用が生じます。
コミュニティを名乗ると生まれる「内と外」
それは、特定の「グループ化」が始まり、不可避的に「ウチ(内)」と「ソト(外)」の境界線が生まれてしまうことです。
コミュニティを宣言し、読者との関係性が濃くなればなるほど、内側にいる人たちの間には独特の熱量や「共通の言語」が形成されます。すると、例えばたまたま情報を求めてサイトを訪れた読者は「なんだか身内だけで盛り上がっているな」「自分は部外者だな」と、強烈なアウェー感を覚えるようになります。
多種多様な思想、年齢、生業を持つ人々がグラデーションのように交差して暮らしているのが、リアルな地域社会です。
地域の関係者全員に読まれる媒体を目指したいローカルメディアが、自ら壁を築いて「内と外」を作り出し、読者を選別するような真似をしてしまって良いのでしょうか?
同じことは「まちづくり」においても、言えます。
コミュニティを名乗るなら、その目的と適切なシーンを考えたいと私は思っています。
メディアはグループではなく、誰もが立ち寄れる「インフラ」であるべき
私が生活情報を扱うローカルメディアに抱く理想の姿は、結束力の強い「グループ」ではありません。街角にある「公園」や「広場」のような、出入り自由で誰もがフラットに利用できる公共的なインフラです。
地域の暮らしに役立つローカルメディアなら、その町に住む人、新しく越してきた人、去っていった人、あるいはたまに訪れる人(関係人口)など、あらゆる人に開かれた情報共有の場でなければなりません。
だから、私たちは読者に対して過度なリアクション(コメントやシェア、イベントへの参加など)を積極的に求めません。「熱狂的なファンになってもらおう」と何かを強要する行為は、読者によっては負担にしかならないからです。
・必要なときにだけサイトを訪れ、欲しい情報を得たら静かに去っていく
・記事やSNSに何のリアクションも残さないけれど、陰ながら更新を楽しみにしてくれている
・アルゴリズムによって無意識に暮らしのニュースとして読んでいるが、ブックマークはしていない
こうしたWebマーケティングの数字には見えにくい静かで寡黙な読者のあり方を、メディア側は全面的に肯定し、尊重するべきです。
信頼関係(エンゲージメント)を本当に育みたいなら、「来るもの拒まず、去るもの追わず」。
自分の意思でいつでも入れて、いつでも無言で抜け出せる。この良い意味での「ドライさ」を保ち続けることが、雑多な関係性に疲れ果てている現代の読者や地域住民に対する最大の「サービス」であり、おもてなしになります。
「囲い込み」ではなく「接点」を作るメディア
「コミュニティを名乗らない」からといって、読者や地域社会と冷淡に距離を置くという意味ではありません。
無個性の透明なインフラであり続けながら「地域社会という大きなコミュニティ」の中に読者が一歩踏み出すための「きっかけ(接点)」を編み出すことは、ローカルメディアの極めて重要な役割です。
例えば、以下のような仕掛けが「接点」として機能します。
温度感のあるSNS運用: 一方的な情報告知にとどまらず、街や運営者の日常や空気感を投稿し、読者が「自分の暮らす街」や「ローカルメディア」に愛着を感じるきっかけを作る。
現地開催のリアルイベント: オンラインを飛び出し、読者や事業者が自然な形で顔を合わせられるリアルな場(イベント)を企画・設置する。読者がその気になれば、関係者と知り合える。
「口コミ」を生むストーリー記事: 単なるお店のスペック情報ではなく、店主の想いや背景を整理し、読者が明日誰かに「あのお店ね……」と話したくなるような会話のタネを提供する。
これらは、読者を「メディアのファン」として囲い込むための施策ではありません。読者が自らの意思で「社会やメディアそのもの」と関わりを深めていくための、きっかけです。
Webメディアはあくまで黒子の立場(ハブ)に徹し、主役はどこまでも「読者」と「情報領域(地域)」であるべきなのです。
唯一の例外:協業体制としての「編集部コミュニティ」
ここまで「ローカルメディアはコミュニティを名乗るな」と持論を述べてきましたが、実はひとつだけ、メディアの中に存在する「明らかなコミュニティ」があります。
それは、メディアを共に運営する「編集部チーム(中の人たち)」です。1人の名ばかり編集部でない限り、このチームはまさに、人間関係が生まれるコミュニティそのものです。
複数人のライター、カメラマン、デザイナー、さらに地域の広告主が集まり、ひとつのメディアを持続させるために知恵を絞る協業のプロセス。この内部組織に、強い信頼関係と共通の目的を持った「濃いコミュニティ」が不可欠です。
メディア運営において、運営する個人の暴走や失言を防ぐガバナンス(ストッパー)を機能させるためにも、編集部の結成やその結束、対話は欠かせません。
「内側のチームは熱く強いコミュニティでありながら、表向けのメディアとしては徹底してフラットで開放的なインフラであり続ける」。
この内と外のバランスをコントロールすることが、組織としてローカルメディアを健やかに維持していくための秘訣ではないでしょうか。
おわりに:コミュニティは名指しされるもの
「コミュニティ」という言葉は非常に心地よく、耳障りが良い響きを持っています。だからこそ、発信者は安心感を求めて言葉に飛びつき、自分たちの活動を言語化・記号化したくなってしまいます。
ローカルに暮らす私たち編集部が本当に向き合うべきは「メディアのコミュニティ」という狭い枠組みではなく、多種多様な人々がすでに営んでいる「地域社会という広大なコミュニティ」そのものです。
自らコミュニティを名乗らない。
メディアを特定の人たちだけの居場所にしない。
その潔い姿勢を貫いて初めて、ローカルメディアは読者にその属性を問わない、誰にとってもフラットで信頼できる「地域の土台(インフラ)」になることができます。
誰の所有物でもなく、誰の派閥でもない。
ただそこに淡々と存在し、必要なときに読者の暮らしを静かに照らす。
そして読者が「その気」になった時のヒントになる、人や場所との接点を提供する。
ローカルメディアがコミュニティを地域内で名乗らないのは、自立自走の真の「強さ」を手に入れるためです。そして、新たな「内と外」を作らないため。
これからも小さな町でメディア業として長く続けていくための、最もブレない軸になるだろうと確信しています。
こうしたローカルメディアの取り組み全般を「コミュニティ」と定義するのは、地域にとっての第三者だろうと思います。メディア運営をコミュニティ作りの一環や地域活性化の枠組みとして語るのは、個人の自由です。でも、Webメディア運営者である私たちが、みずから読者に対してコミュニティを名乗ることは決してありません。
メディアとして手がける現地イベントや交流事業は、「地域のコミュニティに触れる」あるいは「新たなコミュニティを作る」きっかけ(接点)です。私たちが主催するなら、常に出入り自由な形が理想だと思っています。
紙面に地域ページを持つ新聞各社も、コミュニティ作りには事業として取り組んでいます。それは「カルチャーセンター」や「スクール」。
普段のメディア運営とは別軸の、文化拠点としてのリアルな場作りです。
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