
地元民も太鼓判を押す「よそ者」こそローカルメディア運営に向いている3つの理由
「最初は何か怪しいことを始めたなと思ったけど。でも、あなたみたいな『よそから来た人』だからできることよね」
地域でメディア運営を続けて数年が経った頃、地元で長く商売をされている方から、そんな言葉をかけられたことがあります。
地域密着を掲げるローカルメディアと聞くと、多くの人は「郷土愛に溢れる地元民」が運営している姿を想像するでしょうか。確かに、メディア運営上、地元の歴史やディープな人脈を最初から持っている地元出身者のアドバンテージは計り知れません。
しかし、私は「ひとつの小さな地域で、長くメディア業として自立自走していく」という目的に限って言えば、地元出身者よりも「よそ者(移住者や外部出身者)」の方が圧倒的に始めやすいと考えています。
なぜ、地元の事情を知らない「よそ者」が、地域メディアの担い手として適任なのか。
現場で実際に聞いてきた・聞こえてきたリアルな声と、地域社会(ムラ社会)の構造的な事情から、3つの理由に分けて紐解きます。
1. 「空気を読めない」という特権
冒頭で私に「あなただからできる」と話してくれた方は、その理由をこう続けました。
「私たちみたいにずっとここに住んでいると、みんな知り合い同士だから、逆に(発信を)できないのよ。あっちのお店を取り上げて、こっちのお店を取り上げなかったら、すぐにカドが立つでしょ」
別の方にも、言われました。
「町の事情に詳しい人ほど、人間関係も分かってる。昔から仲が良い・悪いもあって、だから近づきにくいとかあえて話しかけないとか、あるよね。あなたはそういうの、分かんないだろうから」
これらの言葉に、小さな経済圏(ムラ社会)における人間関係のリアルがすべて詰まっています。
人口数万人規模の町では、地域の事業者や住民同士の間に、数十年単位で蓄積された見えないネットワークや歴史が存在します。「あそこの家とあそこの家は昔から折り合いが悪い」「あのグループとこのグループは派閥が違う」といった、地元民なら誰もが暗黙の了解として肌で感じている「しがらみ」です。
もし、地元のしがらみのど真ん中にいる人間がメディアを立ち上げたらどうなるか。 「Aさんの店を取材するなら、バランスを取ってBさんの店も出さなきゃいけない」と、読者ファーストではなく「人間関係ファースト」の編集方針に陥ってしまいます。
あるいは、「Aさんの店しか紹介しない」ことだって、あるかもしれません。地域のパワーバランスに巻き込まれ、メディア自体が特定グループの広報誌になり下がってしまうリスクすらあります。
しかし、「よそ者」である私たちには、その背景が見えません。 純粋に「新しくて面白いお店ができたから」「読者の暮らしに役立つ情報だから」というフラットな基準だけで、取材対象を選ぶことができます。
もし後から「なんであそこばかり取り上げるんだ」とクレームを受けたとしても、「すみません、外から来たもので、昔からの事情を知らなくて……」と、無知を盾にして謝ることができます。
(実際には、そんなことを言ってくる人などいません。なぜなら私たち以上に、よそ者が無知なことを知っているから!)
この、地域のしがらみから完全に「自由」であり、しがらみの外側に立っているからこそ担保できる客観性。
言い換えれば、誰もが認める「空気を読めない」存在。
よそ者最大の特権が、特定の誰かに肩入れせず良くも悪くも書かない「フラットな生活インフラ」としてメディアを機能させる力になるのです。
2. 「知らないこと」は強み
メディア運営において、地元の歴史や人間関係を「知らない」ことを弱点(ハンデ)だと不安に思う人もいるかもしれません。
でも、大丈夫です。発想を逆転させれば、「知らない」ことは取材における強みに変わります。
地元で生まれ育った人にとって、町の風景や伝統行事、昔ながらの産業は「あって当たり前のもの」。だからこそ、疑問を抱くこともなく、深掘りしようとも思いません。「今さらこんなこと聞いたら、世間知らずだと思われるんじゃないか」という心理的なブレーキも働きます。
一方、よそ者である私たちは、見るものすべてが新鮮です。
「なぜ、この場所にこんな立派な建物があるんですか?」
「詳しく知りたいから、前任者の方を紹介してくれませんか?」
「この地域の集金の使い道は?」
なぜ?どうして?どうやって?
何の前提知識もないからこそ、3歳児レベルの素朴な疑問を、悪びれることなく「根掘り葉掘り」聞くことができます。
取材対象者の受け答えも変わる
実は、地域の方が取材を受ける際の心持ちも、インタビュアーの属性によって変わるものです。
「子ども記者になら、一から丁寧に話せる」ことと同じで、「地元の人間には今さら照れくさくて語りにくいが、外から来た熱心な人になら話せる」という心理が働きます。
よそ者による純粋な好奇心が地元の人たちの口を滑らかにし、結果的に、地元民すら知らなかったような深く面白いエピソード(背景や想い)を引き出すのです。
もちろん、無知を振りかざして調子に乗りすぎたり、リスペクトを欠いた土足の踏み込み方をすれば、こっぴどく怒られます。よそ者には、常に「地域の事情を教えていただく」という謙虚な気持ちが不可欠です。
よそ者がよそ者として地域に受け入れられるために必要なのは、地域への礼儀とリスペクトを忘れない姿勢。都市部と比較して地域文化を否定する「都会風」は、嫌がられます。
3. 「当たり前」の価値に気づける
地方創生や地域活性化の文脈において、よく「地域を変えるのは、よそ者・若者・ばか者である」という一般論が語られます。
これはローカルメディア運営においても同じです。
地元の人たちが「うちの町には何もないよ」と自嘲気味に語る風景の中に、外の人間から見れば驚くほど豊かで、都会にはない「圧倒的な価値」が眠っていることが多々あります。あるいは「知っておかないと困る」暮らしの事情が、埋もれています。
よそ者は、「住民が忘れてしまった当たり前の価値」を再発見できる存在です。そして、メディアという額縁に入れて「ほら、あなたの町にはこんなに素敵なものがあるんですよ」と、もう一度地元の人たちに提示し直す役割を担えます。
同時に、よそ者は「快適なところ」だけでなく、「不便なところ」にも敏感に気づくことができます。 「車がないとこのエリアへのアクセスは絶望的だ」 「子育て世代にとって、この制度はちょっと分かりにくいな」など。
私たちよそ者は堂々と、分からないことを分からない、知りたいことを知りたいと言って行動できます。
地元民が「仕方ない」と諦めて慣れている不便さに対し、外部の客観的な視点で「これは暮らしのハードルになる」と冷静に評価できる。
これもまた「都会風」の一種かもしれませんが、実用的な「暮らし情報」を共有する生活インフラとしてのローカルメディア運営を目指すなら、とにかく地域の価値観を尊重することです。その上で、地元民もよそ者にも共通する暮らしの不便を情報収集と発信で解決する行動なら、地域の文化否定にはなりません。
おわりに:よそ者の血脈は三代続く
なんの因果か、ある地域で一生を過ごすことになったよそ者は、その生涯をよそ者であり続ける覚悟が必要です。
じいちゃんばあちゃんが町に住んどらんと、町のもんとは言えん!
これもまた、地元の方にお酒の席で言われたことです。
びっくりして大笑いしましたが、人間関係が濃密なローカルエリアにおいて、この言葉はあながち間違いではありません。よくぞ正直に言ってくれたなぁと腑に落ちて、むしろ嬉しく思えました。
よそ者としての私が、ムラの人間関係に受け入れられた瞬間でした。
私が生涯、地域のよそ者だからといって、別に仲間外れ・村八分になるわけではありません。
地域でメディア業を長く続けていれば、当然、顔見知りは増え、人間関係は濃くなっていきます。数年も経てば、徐々に「よそ者」から「ムラの内側の人間(身内)」へとグラデーションのように変化していくのが自然です。
一度、ムラの身内として認識してもらえれば、よそ者はその背景を理解してもらえ、受け入れられ、地域に馴染むために教え導いてもらえます。
ただし、その地域の作法や文化、歴史が染み渡るまで、現実的には三世代の月日がかかるだろうということです。
メディア運営者なら「よそ者」でいい
これは私にとって、決して寂しい現実ではありません。
むしろローカルメディアの編集長を続ける以上、私は積極的に、心の中では常に片足を「よそ者」のポジションに残しておきたいと意識しています。
なぜなら、私たちローカルライターは異動して去っていくマスメディアの地方記者とは違い、この町に留まり「今」という時間軸に伴走し続ける存在だからです。
ある町に深く根を下ろし、町と心中する覚悟を持ちながらも、いざ情報発信をする際には決して地域のしがらみに飲み込まれず、フラットな「よそ者」の目線に立ち返る。
「あたたかい当事者としての伴走」と、「よそ者としての冷静な観察」。
この矛盾する2つのスタンスを行ったり来たりできるバランス感覚が、地域社会において誰からも「カドを立てないメディア」と認められる秘訣だと思います。
地域に信頼され、生活インフラとして認知されるローカルメディアに育てていくために、守り続けたい初心です。
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