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読まれなくていい。読者を選ぶ"ムラ社会"的ローカルウェブメディア像

    10年以上前、私は初めて暮らす田舎町で「情報の空白」に直面し、悩み、いつしか打開策を考えるようになっていました。
    なんとかできないのかと、ウェブメディア界隈の思い込みや常識を疑う、思考の転換を試みてきました。

    地域密着のローカルウェブメディアが、その本来の活動拠点である「地域」のためにできることって、なんだろう?

    そうして2017年、仲間と話し合いながら、新たな視点で設計したローカルウェブメディアは、どんなものだったのか?

    読者を「等身大の自分たち」と仮定して

    自分たちの切実な問題意識をもとに、インターネット上で「情報が求められる」シーンから逆算して、生活者視点で理想とするローカルウェブメディア像。

    最終的に、私たちがチャレンジしてみようと考えた、ウェブメディアのヒントになったモデル。

    それは、「ムラ社会」です。

    インターネットに甦らせる「ムラ社会」

    佐賀県基山町を拠点に活動を続けているウェブメディア『おおあざ(旧 大字基山)』は、広大なインターネット空間に向けて地域情報を発信しながら、あえて閉鎖的であろうとする試みです。

    どういうことか?

    「ムラ社会」という表現は、基本的にはネガティブに捉えられる言葉です。

    村社会(むらしゃかい)とは、集落に基づいて形成され、有力者を頂点とする序列構造を有し、余所者を受け入れようとしない古くからの秩序を保つ排他的な社会を指す。

    Wikipedia「ムラ社会」より

    『おおあざ』は立ち上げ当初から、「クローズドな情報だけでいい」と割り切った編集方針を貫きました。

    • 普段から、読まれなくていい。

    • 分かる人には分かる、内輪ネタだけでいい。

    • 基山町を知らない人に、届かなくていい。

    • 誰かが「必要な時」に探すと見つかる、秘境でいい。

    そもそものコンセプトが、広域から関心を集めたい移住支援や観光誘致とは真逆の方針であると、お分かりいただけると思います。

    それって、「面白い」の?

    つまり、基山町や佐賀県に関心がない人が読んだら「つまらない」サイトであること。
    好感度の高い情報を広域に発信するのではなく、確かな情報を探している人に共有しようという試みです。

    メディアとして致命的な、内輪ネタばかりで世間一般には面白くないから、読まれない。
    でもそれでいい、と思って始めました。

    この時点で、アクセス数(PV数)はそもそも、諦めていました。

    必要な人に必要な時に、必要な情報ないしヒントが届く。
    情報がないなら、作るしかない。
    まずそういった「困りごと」解決に繋がるコンテンツを重要視したのです。

    広く読まれなくていいのは、地域を守るため

    地域の生活で必要とされる情報の多くは、地域で暮らす具体的な「人」と密接に関係しています。
    例えば地域商店の事業主はあくまで個人であり、私人であることが多い。

    そういったローカルな話題を広く発信するならば、地域の人たちのプライバシーを守る責任があると思いませんか?

    地域の積極的な情報発信は、認知度を向上させるポジティブな取り組みとして受け入れられることが多いですが、不特定多数に知られることは治安上のリスクにつながる可能性もあります。

    地域を守ること。人を守ること。
    誰もが、当たり前の日常を過ごしている権利を守ること。

    もちろん「読み物」としては面白くありたいから、私たちも楽しい切り口での企画記事には定期的に取り組んできました。
    読んで楽しい企画は、制作に取り組む過程も楽しいものです。

    でも、活動が長くなるほど、情報発信がプライバシー保護とは相反する活動であることを身に染みて感じるようになっています。

    不特定多数に読まれる「炎上」が教えてくれたこと

    しばらくして、記事のいくつかで「炎上」も経験することになりました。その内容の多くは個人にまつわるもので、「もっとなんとかできなかったか」「余計なことをしてしまった」後悔と反省ばかり。

    ローカル情報を発信する責任者として、炎上で「読者が増えたこと」を純粋に喜ぶことはできませんでした。
    内輪向けの話題が、その他大勢による一過性の興味関心によって、意図しない形で消費されてしまったからです。

    必要な情報として読まれる記事と違って、「消費される記事」は、記事に登場する人物や場所が「モノ」になってしまう。

    現実にすれ違うことがないだろう100万人に1回読まれる記事より、近所の100人が一生のうちに3回読み返してくれる記事の方が、地域の暮らしやすさや安心感に繋がると、当初の予感が確信に変わった体験でした。

    ムラ社会、それは「中の人」の心理的安全性

    そもそも、「村」単位での生活は、どういうものでしょうか。

    ご近所さんの名前はもちろん、家族構成も性格も趣味も分かっていて、村の中のことはみんなが知っている。
    友達の友達は、親戚。親戚の友達は、先輩や後輩。上司は親戚の幼馴染。
    知人の乗る車の車種やナンバーは覚えがち。

    最後、ラップみたいになった

    都会の人からしたら信じられない、「隣の人に見られている」暮らしそのものです。

    だからこそ、村は「よそ者」という存在に敏感です。
    少しの異変にも気づきます。動揺が走ります。

    プライバシーが少ない限られた空間では、自衛本能が育ちやすい。

    ある人によってはつまらない、変わり映えしない穏やかな村の日々は一方で、地域で暮らす心理的安全性に繋がっているとも言えるのではないでしょうか。

    風通しの良い「ムラ社会」へ

    前述したムラ社会の姿は、良くも悪くも、現実です。
    小さな町には、昔から暮らしていく上でのルールや不文律が必ず、あります。
    でもそれは、「村を守るため」続けられてきた先人たちの知恵の名残。
    その心は、たとえばマンションの管理組合と同じです。現代の価値観へのアップデートには、時間がどうしてもかかります。

    私たちはその「ムラ社会」を否定するのではなく、デジタル空間により良い形で再現できるのではないかと考えました。

    検索すれば見つかる「秘境」

    同じムラ社会でも、ウェブメディアはインターネットの検索機能によって、来るもの拒まず。

    サイトとして適切なSEO(検索エンジン最適化)に取り組むことで、秘境ではあるものの、「探せば見つかる」ウェルカムな設計に自然となります。
    その風通しは、現実の「ムラ」より格段に、気持ちの良いものです。

    求めよ、さらば与えられん。尋ねよ、さらば見出さん。門を叩け、さらば開かれん。

    有名な「マタイによる福音書」7章7節そのもの!

    10年前のネット空間では、SEOは、さながらムラの門番のようでした。

    あなたは、どんなムラの人?

    私たちはローカルウェブメディアとして初期から広域に発信する「拡声器」であることをやめ、地域の「安心・安全」を選ぼうと心がけてきました。

    その決意が今現在、多くの方から活動継続を支えてもらえている「地域からの信頼」に繋がった、そう信じています。

    あなたの暮らす地域は、どんな「ムラ」ですか?

    それなりに暮らしやすいなぁと思えるなら、"よそ者"移住者をはじめとする住民のニーズに応えつつ「風通しの良さ」を地域にもたらすことができるのが、ローカルウェブメディアの力だと思います。


    note更新は毎週木曜日です。
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    次回は、なぜこの閉鎖性が「地域の情報は暮らしのインフラ」となりえるのか、その考え方を綴っていきます。

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    ライター・PR・編集業。「ローカル情報は暮らしのインフラ」を掲げ、人口1.7万人の町で浸透率95%のWebメディアを黒字運営中。年間PV35万(町の人口の約20倍)。補助金なしで自立自走するメディア運用術や、伝わる文脈設計のノウハウを公開しています。俳号:杢いう子

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