
未開封の段ボール|拝啓文芸部
どっきり企画進行中って、言ったのを最後に、妻は。サプライズなら、バラしたらどんなんだと僕は、そう、妻があまりに嬉しそうで、そんな当たり前を放置したのが、いまの異常をまねいたと思うと僕の心がちくちく痛んで、どうしてと、毎夜毎夜、悔しさに、いまもぼうっと苦しんでしまう。
仕事が忙しかったせいもある、ただ忙しさのせいにしたくなかったし、逃げ道は、だけれど僕は、妻をもっとかまってあげたら、妻の笑顔を奪ってしまった、誰よりも大切だった妻は、もうどこにも居ないように思えた、妻の匂いや温もりは、いや止めよう、僕は。
久しぶりに深呼吸、それから淹れたてのコーヒーを啜って、リラックスしようと頑張ってみる、頑張ることじゃないけど頑張ってみる、ほっと気が抜けて、ふとリビングルーム隅っこにある段ボール箱に目がいった、あれ、何か頼んだっけ、僕は、妻が頼んだのか、とも思った、夫婦の記念日は遠にすぎて、一カ月は経っただろうか、何かサプライズで頼んだのか、妻が、サプライズと、笑う姿が浮かんで寂しくなる。
サプライズ
その言葉に僕は背中が凍りつき、全身に鳥肌が立つのが分かって、さらに恐怖、顔面蒼白になるのも分かって僕は、その段ボール箱から目が離せない。
人ひとりが丸まったら梱包できそうなサイズの段ボール箱、妻がそう言えば、リビングソファで何読んでるのと訊ねたとき、たしか、最近安部公房ブームなんだよねと、読んでた箱男文庫本を閉じて笑った姿が、何より僕が本好きだから妻は僕のために、そこまで考えて僕は。
サプライズ
妻が笑って、そう叫ぶ声が聴こえた気がしたが、妻はどこにも居ない、あるのは、ちょっと人がひとり梱包できそうなサイズの段ボール箱がひとつあるだけだ。
なぜ気づかなかったのか、言い訳はしたくなかったし、自分を責める口実をつくりたくなかった、最低だ、なぜ気づけなかった、なぜだ、なぜだ、なぜなんだ。
僕は恐る恐る、その段ボール箱に近づき、ぴりぴりテープをめくっていき、完全に取ると、折り重なったフラップ蓋を外に折り、梱包材を取り出していき、ぷちぷち緩衝材に包まれたそれに、僕は。
現実逃避したくなる。警察に何と言えばいいのか。サプライズで、どっきり企画進行中で、どこからどう話せばいいのか、過失はどちらに、配達業者に落ち度は、なんて考えていると日が落ちて、真っ暗な中、僕は手さぐりで電源スイッチを押し、部屋があかるくなった。
妻だった
灯りの中、妻が立っていた、目の錯覚だと思って何度か擦ったが、妻が立っていた、泣きそうになる、いや泣いていた、妻だ、妻だった、妻は。
サプライズ
僕は、そんなことどうでもよくて、笑ってる妻を抱きしめた。妻は。
僕はそれ以上考えるのを止めた、考えてしまうと全て失ってしまう気がしたのだ。僕たちはずっと笑ってすごせたらいい、それだけだ、妻だって分かってる、僕は。
サプライズ
妻と僕は、とくに僕は驚く側に回って、毎日楽しく妻と笑い合って、どっきり企画進行中です、サプライズ、サプライズ、サプライズ。
サプライズ
僕は。
(了)
















