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終わらない話*ショートショート

    整然とした机の上に1冊のノートとペン。そしてパソコン。
    これだけがすべてわたしの商売道具。
    今日もノートに書いたプロットをもとに、パソコンでストーリーをつくる。

    できた!これは名作だわ!
    すぐにビジネスパートナーである笑未えみにメール添付で原稿を送る。

    ストーリー1(3幕構成)

    ごく普通の女の子が自分を大事にしながら成長し、まじめに誠実に人々と接していく。
    騙されそうになったとき、どこからかイケメン男子が現れ助けてくれる。
    ほのかな恋が始まった。

    笑未えみが真っ赤な顔をして、プリプリしながらやってきた。
    2Lの水とドレッシング抜きサラダと、お決まりのサラダチキン持参。
    どうやらまたダイエット中らしい。

    「この話のどこがおもしろい?
    なにが楽しくてこんな平坦な話をゲームにするのさ。」

    「え〜っ。平坦じゃないよう。
    騙されそうになるし、助けてくれる人は理想の人だし、まだ恋は始まったばかりだから、何が起こるかわかんないし。夢見れていいでしょ〜。どきどきする〜。」

    「いやそりゃあ、現実でこんなことが起こったら、さぞどきどきするけどゲームの中で、それだとなんにも楽しくないわ!
    もっとヒロインにピンチを!イケメンはこっちを見向きもしなくて、やっとのことで恋が始まる展開にして!」

    わたしはゲームシナリオライター。笑未えみと一緒に作った”猫とネズミと犬が仲良くするゲーム”がちょっとだけヒットしたあと、組んでゲームを作ってる。
    わたしはホラーや、どきどきハラハラなゲームがなぜおもしろいのか、わからない。RPGだって経験値を上げるためにスライムと戦って、レベル上げをしているときが楽しいのだから。
    それを笑未えみに言ったらきょとんとした顔をして「レベル上げが楽しい?信じられない……。」と、まるで妖怪を見るような目でわたしを見るようになった。

    「う〜ん。それじゃあ、これは?」
    わたしはノートのプロットのひとつを笑未えみに見せる。

    ストーリー2(3幕構成・選択肢2)

    さえない男子。いろんな仲間とともに成長していく。
    勉強していい大学に入る。
    就職活動して内定をいくつかもらうが、好きなことを仕事にすると起業する。会社経営は順調。一部上場を果たす。
    その中で出会った、心優しい仕事もできて気が利いてかわいい彼女としあわせな結婚をした。

    「だからあああ、それのどこがおもしろいの?!
    そんなゲームして喜ぶやつがどこにいるの?」

    「そんなあ。選択肢も大学受験と起業するときに悩める選択にするから、これで進めようよ〜。夢見る男子がたくさんいるはずだよー。」

    「いや正しい選択しかなかったら、ゲームとして成り立たないでしょ。
    バッドエンドはないの??その彼女に財産持っていかれるとか、経営破綻してメンタル回復に時間がかかるとか。」

    「なにそれ。そんなゲームやっておもしろいの???」

    信じられないっ。ゲームの世界の中だけでも、いい気分になったらダメなんだろうか?そんな現実にありえそうなことを、ゲームに持ち込んでいいんだろうか。わたしは相当わからない顔をしていたのか、笑未えみはちょっと優しい顔になったあと、水を飲んで言った。

    「あんたのいいところは、そんなところなのはわかる。
    しかしここは、主人公に山あり谷ありの出来事を体験してもらって疑似体験のあと、ハッピーエンドでいいじゃないか。
    平坦なゲームは、”どうぶつの湖”だけで足りてるよ。」

    わたしは笑未えみの食べ終わった食事を見て、チョコレートを箱ごと笑未えみの前に置く。
    「それ食べながら待ってて。書いてみる。」
    「うん。」と返事をした笑未えみは、早速チョコレートの箱に手を伸ばす。あれダイエットは?
    横目でちらちら見つつ、ノートに殴り書きをする。
    笑未えみの頭の中に入る。
    言葉を拾う。

    ストーリー3 設定未定 
    選択肢ありバットエンド2
    ハッピーエンド1

    28歳女子。彼氏いない歴7年。
    大学時代の彼氏と再会。
    彼と何年かぶりの食事の約束をする。

    ◆ダイエットをするも、逆にストレスから食べすぎてしまう。
    彼との食事は、過去の自分の姿に負けたように卑屈になって、彼からの連絡はそのまま来なくなった。
    →バッドエンド1

    ◆ダイエットは見事、成功。
    なんとか大学時代のちょい増しぐらいの体重に落ち着く。
    いざ食事中、食べ過ぎ飲みすぎて、記憶をなくす。
    そのまま彼からの連絡はない。
    自分から連絡はできない。したくない。
    昔、別れた時と同じ理由をつくってしまった。
    あの頃、まるごとわたしを受け入れてよ!と
    思ったことを思い出して黒歴史を脳内再生させてしまった。
    →バッドエンド2

    ◉ダイエットなんかやめて、ありのままを見て欲しいと願うわたしの心を知ってか知らずか、彼自身もちょっと疲れた顔で会社の愚痴を話す。
    あのころと違ってお互いに、そのままの自分を見せることができてる。
    だけど今はもうお互いに違う方向へ進んでいる。
    過去の記憶とは、さよなら。それぞれの道へ進むことを確認して、また会おうと約束した。
    →ハッピーエンド

    チョコレートを食べ終わった笑未えみは黙ってノートを読むと、涙目になって首を横にふる。
    「これもだめ。おもしろくない。」
    寂しそうに言うとチョコレートの箱を握りつぶしてこう言った。
    「どれもバッドエンドじゃん。彼氏いない歴7年は長すぎるのよ。焦る気もちもガツガツしたくなる気もちも、ちっともおもしろくない。
    あんたのいいところが出てないわ。
    今日はあきらめる。また連絡する。」
    そう言うと笑未えみは、ふらふらと帰って行った。

    わたしに足りないものはなんだろう。
    理路整然とした物語は、ゲームにならない?
    わからないから明日は、ピンク色のペンを買いに行こう。
    そしたら笑未えみの頭を借りなくても、シナリオ書けるかな。
    パソコンの電源を落とすと、静けさがいっそう心地よく感じて、ノートとペンを定位置に戻した。



    ※脳内でこんなやりとりをひとりでやってます。



     
     
    ネット老人な元HP制作者おばさんの引きこもり生活をボソボソかきます。HSP・INFJ。栄養士と図書館司書の資格あり。365日飲んでます。ショートショート・映画と本の感想。

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