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旅行会社の生成AI活用は、どこまで進んでいるのか?AIエンジニアが調べてみました

はじめに

今回は「旅行会社」の生成AI活用を調べてみました。

旅行は、航空券や宿の在庫、料金、約款、現地の最新情報といった「正確さが命のデータ」と、「この人にはこんな旅が合いそう」という「感性」が同居している、AIにとって難しくて面白い領域です。「そのうち旅行会社はAIに置き換わるのでは?」という声もよく聞きますが、実際の現場はどうなのでしょうか。

① 業界の生成AI導入率:「使っている」は多数派、「業務に組み込めている」は一握り

まず結論から言うと、「何らかの形でAIを使っている」旅行会社はすでに多数派に近く、一方で「全社の業務フローに組み込んで成果を出している」会社はまだ少数、という傾向です。

世界の旅行業から見てみます。
旅行会社、ツアーオペレーター、ホールセラーを対象にしたHBX Groupのレポートでは、回答企業の65%がすでにAI技術を使っていると報じられています。ただし、回答数や調査期間は記事に書かれていませんでした。用途の中心はコンテンツ生成、カスタマーサポート、管理業務で、レポートでは高度なエンドツーエンドの自動化というより比較的基本的な使い方が多いと指摘しています。

もう少し先の「AIエージェント」まで含めた数字もあります。
旅行テック調査会社のPhocuswrightが世界の上級幹部を対象にまとめた調査では、旅行企業の60%超がエージェント型AIを「試している」か「拡大している」と回答しました。このうち6%が本格的に拡大中、22%が拡大を始めたところです。さらに62%の企業が2026年に技術予算の増加を見込み、生成AIは今後12〜18か月の技術投資で最優先の項目になっているとのことです。ただ、同じ調査を紹介した別の記事は、AI支出の多くはまだ実験に使われていて、業務やシステムをAI前提で作り直した企業は少ないと伝えています。

日本はどうでしょうか。

旅行業に限った全体的な数字は見つからなかったので個社の動きを見ると、温度差がはっきりしていることが分かりました。
令和トラベル(旅行アプリ「NEWT」の運営会社)は2026年5月15日に、全社員のAI活用率が100%に達したと発表しました。AI活用を人事評価や昇進の要件にまで組み込んでいるそうです。
大手ではHISが2025年11月1日付で「AIイノベーション本部」を新設し、2026年1月28日には、AI戦略を率いてきた澤田秀太氏が社長に就任しました。
日本旅行も、2026年から2030年の新しい中期経営計画で、AI活用をはじめとしたDXや人財配置への先行投資による生産性向上を経営目標の一つに掲げています。

最後に、お客さま側の変化も触れておきます。

JTB総合研究所の2025年7月の調査(スクリーニング10,705人、本調査432人)では、生成AIを「週に数回以上」使っていて、かつ過去1年間に宿泊旅行をした人のうち、77.8%が旅行に関しても生成AIを使った経験があると答えました。母数は「生成AIをよく使い、旅行もした人」に絞られているので、国民全体の数字ではない点に注意が必要です(調査全体での生成AI利用率は46.7%でした)。それでも、「お客さまが先にAIで下調べをしてから相談に来る」という前提は、旅行会社にとってもう普通になりつつあるようです。

エンジニアとして一つ付け加えると、「導入率」という言葉は、ChatGPTのアカウントを配った段階から、基幹システムと連携して業務が自動で回る段階まで、とても幅が広いです。調査の数字を見るときは、「どの段階の導入率か」を確かめるのがおすすめです。

② どんな生成AIを使っているのか

旅行会社の側で使われているAIは、大きく三つに分けられそうです。

一つ目は、ChatGPTやGeminiのような汎用の対話AIです。

これは社員が文章作成やリサーチに使う場合もありますが、より大きいのはお客さまの側で、旅程づくりの相談相手として使われています。この流れを受けて、オンライン旅行会社(OTA)はAIアシスタントの中に自社の在庫を出す動きを強めています。報道によると、OpenAIが2025年10月にChatGPT内のアプリを開放したとき、Booking.comとExpediaが最初のパートナーに含まれていました。Expedia Groupは2026年7月31日に、会話型のAI旅行プランナー「Layla」の買収を発表しています。

二つ目は、自社専用に作り込んだ問い合わせ対応AIです。

JTBの仕入商品事業部は、2024年4月から、販売店からの商品や手配に関する問い合わせにPKSHAのチャットボットを使い始めました。さらに、生成AIを使ったドキュメント検索の検討にも入っていると発表されています。JTBグループの法人出張を担うJTB Business Travel Solutionsは、ServiceNowのAI機能(過去の対応事例から回答を生成する「Now Assist」と「AI Agents」)を使って、法人顧客向けのサービスポータルを作ったと紹介されています。また、JTBとカラクリが共同開発した「問合せ返信対応AIエージェント」は、カラクリの事例ページによると、国産の基盤モデル「KARAKURI VL 32B Instruct 2507」で問い合わせ内容や予約情報の理解と返信文案の生成を行い、基幹システムの操作はRPA、取消料免除の判定などは業務ロジックのAPIに任せる、という役割分担で作られています。「LLMに何でもはやらせない」設計です。

三つ目は、業務ツールに組み込まれたAIです。

日鉄ソリューションズは、旅行会社向けに見積もりやメール返信、GDS(航空座席などの予約システム)での空席・料金の照会といった一連の作業の負荷を軽くする取り組みを紹介しています。令和トラベルは、営業、リサーチ、カスタマーサポート、データ分析にAIを入れたと発表していますが、具体的なツール名やモデル名は公表されていませんでした。HISも、社長のインタビューでは具体的なAIツールの名前は出ていません(※未確認)。

エンジニアの視点で見ると、面白いのはBooking.comのやり方です。同社のAIトリップ・プランナーは、もともとあった機械学習モデルにChatGPTを部分的に組み合わせたもので、生成AIだけに任せるのではなく、独自の「オーケストレーション層」を作ってレコメンドの仕組みと一緒に動かしています。ハルシネーション(もっともらしい嘘)を避けるため、人によるチェックも欠かせないと同社の担当者が語っています。別の報道では、速さが必要な場面には旅行向けに調整した小さな専用モデルを、複雑な推論には大きなLLMを使い分けているそうです。この仕組みで、検索、ランキング、顧客とのやり取りといった一部のタスクの精度が2倍になったと同社は説明しています。

つまり、旅行業界の「実戦投入されている生成AI」は、素のLLMにお任せというより、社内ナレッジの検索(RAG)、在庫や料金のシステム連携、人への引き継ぎ、といった周辺の仕組みとセットで動いているケースが多いようです。

③ AIエージェント化は進んでいるのか:「問い合わせの一次対応」と「人の承認つきの下書き」が現実ライン

2026年9月25日にツーリズムEXPOジャパンで開かれたJATA主催のシンポジウムでは、トラベルボイスの鶴本浩司代表が、世界の旅行業界の話題は3年前の「生成AI」から、自律的にタスクをこなす「AIエージェント」へはっきり移ったと報告しました。ただ、同時に、旅行業での活用はまだ黎明期だとも話していました。

日本の旅行会社の具体例としては、先ほどのJTB Business Travel SolutionsのAI Agentsがあります。顧客の質問に答える一次対応を担い、解決できなければ人間の担当者につなぐ設計で、第2フェーズでは対応範囲を広げる予定とのことです。JTBとカラクリのAIエージェントは、経済産業省とNEDOのGENIAC-PRIZEで「社会課題領域」のユーザー変革賞を受賞したと、2026年3月25日にJTBが発表しています。ここで大事なのは、これが実証段階の成果だという点です。カラクリの事例ページによると、検証は2024年8月の台風10号の問い合わせ2,648件のデータを使った机上の検証で、実際のオペレーションには投入していません。設計も「AIで完結」ではなく、AIが返信の下書きと根拠情報の登録までを行い、最後の確認と送信を人が担う形です。

「予約や決済まで自分で進めるエージェント」は、日本ではまだ見つけられませんでしたが、海外では動き始めています。Googleは2026年8月7日に、米国でAIモードのホテル予約を限定的にテストしていると認め、8月27日には、米国の英語利用者向けにAIモード内でホテルを予約できる機能の提供を始めました。パートナーはBooking.com、Expedia、Hilton、Marriottなど10社で、予約後の顧客対応を担う「販売主体」はあくまでホテルやOTAのままです。Expediaも、AIエージェントが自社の在庫に直接つながるためのMCPサーバーを数か月以内に提供する見通しだと報じられています。

旅行アドバイザー(日本でいう旅行会社の担当者)向けでは、米国のTernが、メールの下書き、旅程づくり、予約確認の処理、旅程のチェックをこなすエージェント機能を発表しました。ただし重要な操作は、アドバイザーが承認してから反映される仕組みです。Ternのエージェント機能は2026年6月10日に発表されたと確認できました。Foraも「Via」という組み込みエージェントを、一部のトップアドバイザーとベータ版で検証中です。

一方で、お客さまの「任せていいのか」という気持ちには大きな壁があります。

Expedia Groupが2026年4月14日に公表した調査(YouGov実施、2026年3月10〜25日、米英印の成人5,700人超)では、68%が、AI予約が使える場合でも信頼できる旅行ブランドで予約したいと答え、66%はAIアシスタントに予約や購入を任せることを信頼しないと答えました。AIのプラットフォームで予約することに安心感があるのは8%でした。一方で、旅行先の提案をAIに頼ることに抵抗がない人は53%いて、信頼の壁は「計画」より「予約」の場面に集中しているようです。別の報道では、Booking.comの7月のレポートで、AIが自分で意思決定することに抵抗がないと答えた人は12%だったとされています。

整理すると、2026年11月時点の「旅行のAIエージェント化」は、問い合わせの一次対応では実用段階、旅程やメールの下書きでは「人が承認する」形が現実的、予約から決済までの完全な自律は米国で始まったばかり、というところだと思います。

④ 実際の活用事例と、その効果

数字つきで確認できた事例をご紹介します。

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