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【#創作大賞2025#ファンタジー小説部門】マァァァァァム!7話

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    ガサッ……

    「しぃい!」

    ボンが人差し指を口に当てると、子ども達はサッと頭を低くした。呼吸も最低限に抑え、獲物に悟られないようにしている。その様子は、狩りをする野生動物の親子のようだ。のっそりと、しかし、空気を震えさせることなく鍬を構えるボン。茂みの奥を揺らしていると思われるものからフーという息遣いのような音も聞こえてきた。

    ガササッ!

    戦争が終わり、がらりと環境が変わった今、茂みを揺らすような生き物はオヤチャイしかおらず、空にはオチャカナが群れをなすばかり。そのため、茂みを動かすものは、オヤチャイだけと考えるのが正しい。今回もそう判断したボンは、子ども達に「待て」をさせたのだ。

    少しの間続く沈黙の後、茂みを揺らしていたなにかがしびれを切らして飛び出してくる。その瞬間、ボンが鍬を振り下ろす。そうやって旅の食糧を得てきたのである。今回もそう思っていたのだが。

    「マァァァァァム!ダメダメ!ダメよ!」

    ユタがボンにしがみついた。いくら小さいとはいえ、ユタはボンの子ども。その小さな体から発揮された力はかなりのものだ。思わず重心がぶれ、グラリとボンはよろけた。

    ドスッ!

    構えた鍬がサトの鼻先をかすり、地面へと突き刺さる。

    「うわぁぁぁん!」
    「っ!危ないじゃないか!」

    足元のユタを怒鳴ろうとしたのだが、もうそこにユタはいない。

    「ユ、ユタ?」
    「マム、あそこだよ」

    ゾウが指さすそこには、茂みから出て来たものにしがみつくユタの姿があった。

    「マム、イタいダメダメ」

    涙を浮かべるユタを呆然と眺めるボン。ユタがしがみついていたのは1匹の小さな茶色い子犬だった。自分がオヤチャイと間違えられ、鍬で狩られる寸前だったことなど、どこ吹く風。小さな尻尾をフリフリさせ、丸く黒い瞳をキラキラさせている。しがみつくユタの頬をペロリと舐めた。誰かに飼われていたのだろう、人なれしている。

    「ワン!」
    「ワンワン、あったかーい」

    さっきまでボンの鍬に驚き、泣いていたサトに向かって、おいでおいでするユタ。その瞬間、ピタっと涙を引っ込めサトはパッと走り寄った。

    「かわいいね!」
    「かあいいよねえ!」

    狂った戦争が終わると、人間以外の生き物はオヤチャイとオチャカナだけになっていた。それだけに目の前にいる茶色の子犬は、珍しい。鳥や四つ足の動物はほとんどが戦禍に巻き込まれ姿を消していたからだ。戦争により生きたいと思う願いもむなしく、命を失っていった人々の怨念が、凶暴な「オヤチャイと四つ足の動物」や「オチャカナと鳥」を生みだしたと、まことしやかに噂されていた。

    辛い。熱い。悔しい。

    負の感情が暴走した結果、オヤチャイやオチャカナは時に、人を襲うほど凶暴になったといわれている。

    しかし、それを検証しようにも学者の殆どは徴兵され、研究をする者は皆無。オヤチャイやオチャカナの正体は不明、でも明日を迎えるためには、それを狩り、食すしかない。そうした異常な環境でしか食べ物は得られなかったし、そうすることで人々は生き延びてきた。目の前にある飢えをいかに解決するか、それしか未来へと進む道はないのだ。

    ただ、ごくまれに犬や猫といった愛玩動物が生き残っていた。家族同然に可愛がられて育ってきたことで、オヤチャイに取り込まれずに済んだのかもしれない。

    その愛すべき犬や猫を食材として売り買いする酷い人間もいた。人に慣れている分、さらわれやすいらしい。飼っていた犬や猫がある日突然いなくなったという話をよく耳にした。この子犬はもしかすると、そういった人間の魔の手から逃れてきた1匹なのかもしれない。子犬の首回りにはボロボロではあるが、管理番号のようなものが巻かれていた。出荷前に番号でも振られていたのであろうか。

    「マム、この子、おとと!」
    「マム、サトもこの子、弟にしたい!」
    「お、俺もこの犬飼いたいな」

    ゾウもいつの間にか近寄り、子犬を撫でている。3人の幼子からかなり乱暴になでられているにも関わらず、おとなしくされるがままの子犬。相当寂しかったのだろう、小さな尻尾はブンブンと激しくゆれていた。

    飼ってもいいよ、そう言おうとした時。

    「だめだ!」

    ユキの強い声が聞こえ、ボンは驚く。

    「この旅は遊びじゃないんだ!ダドを探す大事な旅なんだ!犬なんて連れて行けるわけない!」
    「にー意地悪!」

    ユタがユキを睨みつける。サトは今にも泣きそうだし、ゾウも気まずそうに犬から手を離す。ユキが母親の負担を気遣い、発言しているのを2人の弟は感じ取ったのだ。しかしユタは違った。ユキの気持ちを察するほど、成長はしていない。

    「ユキにーのバカ!オタンコナス!トンチキィ!」
    「チビのくせに生意気だぞ!」

    ユタの口から飛び出した一丁前な悪口にユキがカッとなった。

    「小さいからってなんでもOKだと思うな!」

    ユタを犬から引き離そうとする。しかし、ユタは子犬から離れようとしない。結果、子犬の首がギュウギュウと引っ張られる形になり、「キャウン!」と悲鳴をあげることになる。

    その声を聞き、ユタと子犬からユキは離れたが、ユタは子犬にしがみついたままだ。子犬が「キャウン!キャウン!」と悲鳴を上げる。短い足をジタバタとさせ体をくねらせているのだが、かえってユタが力を入れる結果へと繋がってしまった。

    「おいよせ!苦しがってる!」

    ユキも子犬を可愛いと思っているし、触りもしたい。だが、その気持ちを必死に我慢していた。

    可愛い!触りたい!でもマムは大変だから!

    だからこそ、苦しそうに鳴く犬の声にはっとして、離れたのだ。

    「バカにー!アンポンタン。あああーん!」

    しかし、興奮したユタは子犬が苦しがっていることなどお構いなし。ギューギュー力を込め続ける。オロオロするユキ。どうしていいかわからず呆然と見守るサトとゾウ。子犬は目を白黒させている。

    「ぶはっ!」

    ボンが思わず吹き出した。

    「いいよ!犬っころの1匹や2匹!この子も母犬とはぐれたら生きていけないだろうしね!」

    ボンの漢気(?)あふれる発言にユキの顔は輝く。ユタの顔にも喜びがいっぱいに広がる。やったぁと喜ぶゾウとサト。ようやく解放された子犬に怪我がないかユキが確認をする。そのユキの手を子犬はペロリとなめた。ユキの心に温かなものが広がる。

    「マム……ありがとう」

    恥ずかしそうに礼を言うユキ。こそばゆそうにボンは笑う。

    「子どもがクソ遠慮なんかしてんじゃないよ!」

    こうして、ボン一家に新しい家族が出来た。

    「しかし、さっきのユタの悪口はよくないねぇ。あんな汚い言葉、どこで覚えたんだい?」

    子犬のそばを片時も離れたくないユタは、ボンに抱っこを要求せず、子犬の横を歩いている。そのユタに向かい、ボンは汚い言葉を言ってはいけないと諭していた。

    「言葉は美しくなきゃいけないよ。お前達のダドはいつもそう言って……」
    「でも、ユタが言った言葉、全部マムが言ってるよ?」

    ゾウが首を傾げながら答える。

    「そんなわけないだろ!このウスラトンカチ!」
    「ほら!マム!言ってるじゃん!」

    ユキが笑いながら指摘する。サトはユキの背後に隠れながら「イッテル……」と小さな声を出す。さすがのボンもこうなると勝ち目はない。

    「わかったよ……これからは美しい言葉を話すよ」
    「いーの!マムはそれでいーの!」

    意味を理解しているかわからないユタから奇妙なフォローが入り、みなが爆笑する。子犬も「わん!」と自分の存在を主張した。

    「ところで、この犬っころの名前はどうするんだい?」

    いつまでも犬っころじゃねぇとボンが言うと、

    「兄ちゃんが決めるんだよね」
    「よね?」

    ゾウとサトがそう言うと。

    「ユタが決めな」

    ユキがそう言った。

    「こいつを見つけたのも、守ったのもユタだ」

    ユタの顔がぱああっと輝く。

    「んとね、んとね……ペス!ペスにしよ!」
    「ペスゥ?なんで」
    「ペスペスおはなが鳴ってるから!」
    「どれどれ?」

    みなが子犬に耳を近づけると、子犬は嬉しそうに「ピスピス」と鼻を鳴らした。

    「ペスじゃなくてピスだよ?」
    「ペスだもん!ペスがいいんだもん!」
    「なんでもいいよ!じゃあ行くよ!」
    「わん!」

    あははと笑いながら5人と1匹は歩き始める。

    「ちっ」

    その様子を少し離れた場所から見つめる1人の男。短い舌打ちをもらすと、一定の距離をはかりながらボン達の後を追った。

    8話に続く

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