メインコンテンツへスキップ
見出し画像

【#創作大賞2025#ファンタジー小説部門】マァァァァァム!10話

    9話はこちら

    しまった!

    幼子を連れての旅で知らないうちに心や体に疲労も蓄積しているのだろう。ペスの一件があってから体力自慢のボンは、どんな音でも反応できるよう、軽い睡眠を毎夜意識していたのだが。一瞬、深い眠りに引きずり込まれ、慌てて飛び起きた。

    焚火の向こうに健やかな寝息を感じ、ホッとする。しかし、いつもならボンが起きると、頬をペロリと舐めるペスが近寄ってこない。またアカイヌ攫いさらいが来たか!

    すばやく周囲を見回すと、更なる異変がボンを襲う。1……2……3……。

    1人いない!
    素早く近寄り子ども達の顔を確認する。

    ユキ!

    下手をすると末っ子のユタより力がないのでは、と感じるユキがいないのだ。ユキは非力ではあるし、長男として責任を果たそうとするあまり、空回りをしてしまうところがある。しかし、手先が器用で気持ちをすぐに察するユキは、ボンにとってかなり大きな存在であった。

    他の子どもも同様に大切ではあるが、長男という響きがユキを頼りにしてしまう気持をボンに生み出してしまう。戦後、世の中がひっくり返り、男尊女卑の意識が薄れてきているとはいえ、一家の長は夫、不在の場合は長男という考えは、いまだ多くの人々の間に残っていた。ボンも同様で、その意識は深く刷り込まれている。

    人間同士の不要な争いに巻き込まれ、生き残った生物は異様な姿に変化した。

    汚染された畑の土から逃れるため、野菜は人を襲う凶暴なオヤチャイへ、魚は人々の怨念がしみ込んだ水を嫌い、空で群れを成し生活するオチャカナへと変わり果てたのだが。力をつけた彼らが人を襲う力を得ても、しみ込んだ意識はそう簡単に覆らない。動けるようになった今もオヤチャイが鍬を怖がり、オチャカナが釣り針や網で捕まってしまうのは、畑から掘り起こされた記憶や釣られた過去が彼らの意識を縛っているのだろう。

    そこまで考えた時、ユキの顔を思い浮かべボンの気持ちは焦る。父親であるアグに酷似したユキの顔を。顔だけではなく、中身もユキはアグに似ていた。

    手先が器用なところも
    自分より人を思いやり譲ってしまう優しさも
    見合いの席でボンの心を射抜いた目元も

    「ユキ……」

    心配で張り裂けそうになる心を抑え、姿勢を低くした状態で動くボン。ユキが連れ去られ、犯人がまだ近くにいるのであれば騒ぐと危険だ。普段は響くような足音を完全に消し、空気にわが身を同化させ動く。

    「クウン……」
    「……ペス!」

    誰にも気づかれないように行動していたはずなのに、いつの間にかペスがそばにきていた。普段ならどんな気配もすぐに感じ取るボンにしては珍しい。動揺している自分に気づき苦笑すると、ペスがボンの脛すねをペロリと舐めた。

    「……心配してくれるのかい」

    手に握っていたオチャカナ用の吹き筒をそっと腰に差し戻し、ペスをなでる。通常、オヤチャイ狩りはすさまじい腕力で鍬を振り回し、驚異的な肺活量で吹き筒から釣り針を発射してオチャカナを仕留めるボン。そのため、狩りの武器は、食糧を得るためにしか使わず、人に向けることは決してしない。

    しかし、ユキの無事がわからない今はそんなことを言ってられなかった。犯人がいたら釣り針をぶち込んでやろうとボンは考え、吹き筒を握っていたのだ。母親の愛は時に非情な撃退方法を思いつく。

    「……キュゥゥン」

    クイっとペスに裾を引っられ、なにかを感じ取りついていくボン。すると少し離れた先の茂みがポウっと淡く光っていた。茂みの先から殺気や悪意は感じない。生まれながら狩人としての感性を備えたボンは、そういった空気を読むのが上手かった。音を立てても大丈夫と判断し、すばやく茂みをかきわける。

    「ユキ!」
    「マァァァァァム!」

    突然ボンが現れたため、驚いたユキが小さな叫び声を漏らした。淡い光を発していたのは、虫かご一杯に詰められたホタルで、それを頼りにユキは本を読んでいたのだ。それはアグが残したもので、唯一焼けなかったポエムの本だった。

    「こんな遅くになにやってんだよう!」

    心配のあまり、軽く頭を小突いてしまうボン。

    「子どもは夜に寝ないと成長しないよ!目も悪くなっちまう!」
    「マム、ごめんなさい」

    頭をさすりながら謝るユキ。

    「兄ちゃんは本が好きなんだよ」

    ゾウの声が聞こえ後ろを振り向く。ユキとボンの声で起きてしまったらしい。ゾウだけでなくサトもユキも起きてしまったようだ。目をこすりフラフラとしながらゾウの後ろに立っていた。

    「昼間に本を読めばいいじゃないか」
    「昼間はマムの手伝いで忙しいから夜、そっと読んでいるんだ」
    「ゾウ!やめろ!」

    きまり悪そうにユキがゾウを止める。確かに昼間はボンの狩りの手伝いや弟達の世話でユキは忙しい。ペスが来て、下の2人が自分達で歩くようになってきてはいるが、まだ、ちょっとしたことで諍いが起きる。そのたびに仲裁にあたるのがユキだ。次男のゾウもそれなりに手伝ってはくれるが、ユキよりも3歳年下で自分の気持ちを優先してしまう。そうなると結局ユキの出番となってしまうのだ。

    ユキだってまだまだ甘えたい盛りなのに……。

    野盗や凶暴なオヤチャイ・オチャカナから子どもを守り、父親探しの旅を安全に行うことばかり考え、子ども達を十分に見てやれなかったと、ボンは自身を責めたくなった。

    「そうかい、本が好きなのかい」

    コクリとうなずくユキに優しい笑顔をむけるボン。

    「明日、近所の村から荷車を譲ってもらおう」

    パッと顔を輝かせるユキだったが、すぐに顔を曇らせる。

    「でも、荷車を買う金なんて……」
    「あるさ!」

    ボンが、枝にぶら下げている干しオヤチャイを指さす。

    「あれを見せれば誰もがすぐに荷車と交換してくれるさ!」
    「でも、あれは大切な……」
    「私の狩りの腕を知ってるだろ?」

    ボンが片目をつむり、いたずらっ子のような顔をした。めったにしないウインクだったので、子ども達は驚く。

    「マム!もっかいバッチンして!」
    「メメ、バッチンおもちろっ!」
    「馬鹿!そこは「魅惑的なウインクだな」だ!」
    「変な言い方はするな」

    ゾウの頭をゲンコでグリグリしながら笑うマム。泣かれては困るので手加減はしており、少し顔をゆがめただけだが、ゾウは少し不満げではある。手加減をされてもボンのゲンコは痛いのだ。

    「マム……」

    涙ぐむユキの頭にそっと優しく手を乗せるボン。

    「明日からは本が読みたくなったら荷車の上で読めばいい」

    嬉しさがあふれ、ポロリと涙を流すユキ。好きな時に本を読めない異常な世の中が早く終わればいい。そう思いそっとユキの頭をなでていると、

    「僕だって頭なでてもらいたい!わぁぁん!」

    とゾウが泣き出した。やはりボンのグリグリが痛かったようだ。悪かったようと言いながら泣くゾウをボンが笑いながら抱き上げ、小さな手で押さえている頭をなでる。そこでようやく満足したゾウが泣き止む。ボンのまわりでサトとユタ、ペスが笑いながら走り回り歌う。

    今泣いたカラス、歯生えてわらった♪
    うぅ~うぅ~♪わお~ん♪

    「カラスじゃねーよ!」

    慌てて兄の威厳をしめそうとするゾウだが、サトとユタはケタケタと笑い、ペスは「わん!」と尻尾を振る。その様子を見ていると威厳はどこへやらゾウも一緒に笑い出した。

    「さあ、夜も遅い、子どもはさっさと寝る!」

    興奮した子ども達を叱り飛ばすボンだが、その目は優しい。焼け残った布切れを繋ぎ合わせて作った簡易寝袋に4人の子どもを入れた時、ユキが口を開く。

    「マムは本が嫌いだと思ってた」
    「なんでだい?」
    「だって、ダドがポエムの会に行った時、ものすごく怒ったじゃないか」
    「ああ!」

    ボンが思わず吹き出す。

    「どうしたのマム?」
    「ユキは、あれ、覚えていたのかい」
    「うん」
    「あれにはね、訳があって」

    興味津々の八つの目に見つめられボンは、ニッと笑う。

    「それは明日、歩きながら話してやる。だから今は寝な!」
    「えーっ!!!!」

    不満そうな子ども達をそのままにボンは虫かごを手に取り、ホタルを放った。

    「昼間に本を読むから、もういらないね」
    「わぁぁぁ」

    淡い光を放ちながらユラユラと空を舞うホタル。幻想的な光に誘われ、子ども達はすやすやと寝息を立て始めた。子ども達を守るように寝袋に寄り添っていたペスもフンと鼻を鳴らし、顎を地面につけ目を閉じる。

    「ゆっくり眠るんだよ」

    大きな木の幹に寄りかかりながらボンも目を閉じた。

    11話に続く

    「マァァァァァム!」を最初から読みたい方はこちらをクリック♪



     
     
    第12回ブックショートアワード9月期優秀作品選出!カクヨムコン11ではホラー「きれいなものだけ」が中間選考突破!創作大賞2023~25年連続ベストレビュアー賞受賞!心に寄り添う文章を心がけるライターです。優しい文章ご入用ではありませんか?文章の依頼お待ちしております。

    あなたへのおすすめ