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稲盛和夫の「生き方」を高尾山くらいの難易度にしてみた

    今、読むべき本は、その人が必要としているタイミングで現れる。
    あるいは、その人の準備が整ったタイミングで現れる。そんな気がしないでもない。

    仮に、その説が正しいとする。では、わたしが読んだ故・稲森和夫氏の「生き方」は、わたしに何を伝えようとしていたのか?

    稲森和夫氏は、京セラとKDDIを創業した経営の神様として知られている。著書「生き方」も伝説のベストセラー。

    もともと本の存在は知っていたが、わたしは自己啓発本をなるべく読まないことにしているので、距離を置いていた。

    自己啓発本は役に立たないどころか、罪深くさえあると思っている。

    しかし、年月が経過するたびに向こうから迫ってきた。わたしが読む本の中で、たびたび紹介されるのだ。

    あ、また……

    今度はこの人からも!

    わたしの目線からすると、目の前に本がどんどん迫ってくるようだった。

    そんなわけで、このタイミングで「生き方」を読むのは必然だったような気がする。

    やはりというべきか、思っていた以上に精神論。仏道の世界感だ(稲盛氏は後年、在家出家をしている)。

    氏は、自分のことよりもまず他人のこと、社会のことを考える「利他の心」の大切さを説いている。

    その境地に達するためには絶え間ない努力で、常に心を磨く必要がある。そのための一番の方法は、目の前の仕事にひたすら真剣に取り組むこと。

    「つらい……」が最初に感じた素直な感想だった。
    わたしは正視することがつらかった。

    ひとつは、原理原則に沿ってシンプルに考えよ、という正論がつらい。
    ひとつは、氏の完璧主義がつらい。
    さらには、その完璧主義を他人に強いてしまっているところがつらい。

    トリプルつらいだ。

    わたしが社会人の駆け出しのころ、京セラは関西で有名なブラック企業として知られていた。もしかすると、その完璧主義が他者を苦しめてしまった面があったのかもしれない。

    しかし、この本を自己啓発本ではなくて、伝記として読むと、また見え方が違ってくる。

    こういう高尚な想いを貫いた人が世の中に実在して、そして、想うだけではなく、実際に日本を代表する企業を創り上げたのか……。

    とてもじゃないが、氏の言う「原理原則に従えばいい」を綺麗ごとで済ませることはできない。ブラック企業は、凡人のスケールで測ったときの評価なのだろう。

    さて、伝記として感銘を受けたのはいいとして、わたしはこの本から何を学べばいいのか?
    わたしのような凡人を苦しめるだけの著書なのか? 

    少し、救いを感じたのは次の一節だ。
    わたしは思わずメモをとった(メモゆえ、言い回しは簡略化されている)。

    「生まれた時より、死ぬときのほうが心が磨かれた状態になればいい。身勝手で感情的な自我が抑えられ、心に安らぎを覚え、やさしい思いやりの心が次第に芽生え、わずかなりとも利他の心が生まれる状態。」

    とても納得感がある。
    素直に、生きるとはこういうことだよなと思える。

    氏に言わせれば、そこに至るためには血を吐くような努力が必要になるそうだが(人間の本性は救いがたいものだという仏教観からきている)。

    しかし、どうだろう。ハードルが高すぎて、山を登る気がしなってしまうのも違う気がするので、先の一節を高尾山くらいにとらえて、自分なりに歩いていきたいと思う。
    自分みたいなやつは、力を抜いたほうがうまくいきそうだ。

    他には、「運命(最初から決められたもの)」を縦糸、「因果による結果(あとから自分で選べるもの)」を横糸として、人生が織られていくという話が印象深かった。

    善い行いがすぐにいい結果に結び付くとは限らない。運命の力が干渉するからだ。だけど、長い目でみれば、きっとうまくいく。

    本を読み終えたわたしは耳を澄ましてみた。

    「まあ、いろいろあると思うけど、やけにならずに、がんばれよ。自分が正しいと思ったことをやればいいんだよ。ん、なにが正しいのかって? 他人のためになることだよ」

    登山初心者をいたわる、ちょっとだけ優しい稲森さん。
    わたしの完全な創作だ。

    本作の続編です。こちらもぜひ(↓)

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