
「確認します」と言われた仕事が、二度と帰ってこない。
「確認します」
会社員なら、毎日のように使う言葉だ。
便利である。とても便利である。
何かを聞かれて、すぐに答えられないとき。
「確認します」
判断に迷ったとき。
「確認します」
正直、何を確認すればいいのかも分からないとき。
「確認します」
たった5文字で、あらゆる場面に対応できる。
しかも、仕事をしている感じが出る。
これほど優秀なビジネス用語は、なかなかない。
ただし、一つだけ問題がある。
「確認します」と言われた仕事は、ときどき行方不明になる。
例えば、こんな場面を想像してほしい。
ある企画について、Aさんに相談する。
「この内容で進めて問題ないでしょうか?」
Aさんは答える。
「一度、関係部署に確認します」
数日後、Aさんに聞いてみる。
「先日の件、いかがでしょうか?」
「いま確認中です」
さらに数日後。
「その後、いかがでしょうか?」
「ちょっと確認してみます」
……確認を確認している。
その確認が終わったら、また確認するのだろうか。
仕事が進んでいるのか、確認という名の観光地を周遊しているのか、分からなくなってくる。
もちろん、実際に複雑な調整が必要な仕事もある。
関係者が多ければ、回答まで時間がかかることもあるだろう。
問題は、時間がかかること自体ではない。
何を確認していて、誰の回答を待っていて、いつ判断できるのか。
それが見えないことだ。
私は企業営業の仕事をしているので、社内外のさまざまな人と調整する機会がある。
営業の仕事というと、お客様に提案する場面が注目されがちだ。
でも、実際には社内の関係者と相談し、条件を整理し、判断を積み重ねる時間もかなり多い。
そして、仕事が止まる原因は、必ずしも難しい判断そのものではない。
「誰が、何を、いつまでに判断するのか」が曖昧なまま、話が進んでしまうこと。
これが意外と厄介なのだ。
例えば、会議でこんなやり取りがあったとする。
「この企画、進める方向でいいですよね?」
「そうですね。基本的にはいいと思います」
「では、進めてよろしいでしょうか?」
「念のため確認しておきましょう」
会議終了。
参加者は全員、前向きな雰囲気で席を立つ。
ところが翌週、誰も動いていない。
なぜか。
全員が「誰かが確認してくれている」と思っていたからだ。
会議では誰も反対していない。
でも、誰も決めていない。
全員が賛成したように見えるのに、何も決まっていない会議。
会社員なら、一度くらい見覚えがあるのではないだろうか。
ここで考えたいのが、AIの使い方だ。
私は普段から、AIを使って情報整理や資料作成、企画の検討をしている。
AIに相談すれば、論点を整理したり、確認事項を洗い出したりすることはかなり効率化できる。
例えば、会議の前に、
「この企画を進めるために、判断が必要な事項を整理して」
と依頼する。
すると、検討すべき条件や想定される懸念点を整理できる。
便利だ。
ただ、ここにはAIでも解決できない問題がある。
確認事項を整理することと、誰かが責任を持って判断することは別だからだ。
AIがどれだけ立派な論点整理をしても、最後に人間が、
「では、一度確認します」
と言って終われば、仕事は止まる。
むしろ、確認事項がきれいに整理されたことで、仕事が進んだ気になってしまう可能性すらある。
私は、こういうときこそ、確認という言葉をもう少し具体的にした方がいいと思っている。
例えば、
「関係部署に確認します」
ではなく、
「この条件で対応可能か、商品担当に確認します。木曜日までに回答します」
とする。
あるいは、
「上司に確認します」
ではなく、
「私としては進めたいと考えていますが、予算の承認が必要なので、明日までに上司と調整します」
とする。
これなら、仕事の現在地が分かる。
さらに重要なのは、確認する側だけでなく、依頼する側も工夫できることだ。
「確認をお願いします」
だけで終わらせず、
「今回、判断いただきたいのはAとBのどちらで進めるかです。金曜日までに方向性を決めたいので、難しければ懸念点だけでも教えてください」
と伝える。
確認する内容と期限が具体的になれば、相手も動きやすい。
そして、ここにもう一つ大切なことがある。
確認が終わるまで、すべての仕事を止める必要はない。
Aという条件の確認を待っている間に、Bの資料を準備できるかもしれない。
最終承認を待ちながら、関係者への事前説明を進められるかもしれない。
確認待ちの時間を、単なる待機時間にしない。
これはAIの活用にも通じる考え方だと思う。
AIを使って仕事を速くすることも大切だ。
でも、そもそも仕事がどこで止まっているのか分からなければ、速くする対象すら見えてこない。
資料を作る時間を30分短縮しても、その資料が「確認中」のまま2週間眠っていたら、効果は限定的だろう。
もちろん、慎重な確認が必要な仕事はある。
確認を省略すればいいという話ではない。
むしろ、必要な確認だからこそ、何を確認するのかを明確にしたい。
「確認します」は、仕事を進めるための言葉であって、仕事を止めるための言葉ではないはずだ。
だから私は、何かを確認するとき、できるだけ三つのことを意識したい。
何を確認するのか。誰が確認するのか。いつまでに確認するのか。
この三つが分かるだけで、仕事はずいぶん進めやすくなる。
そして、もう一つ。
確認した結果、どう判断するのか。
そこまで決めて、初めて仕事が前に進む。
さて、今日もどこかの会社で、こんな会話が交わされているかもしれない。
「例の件、どうなりました?」
「確認中です」
「いつ頃分かりそうですか?」
「それも含めて確認します」
……なるほど。
確認することが、確認事項になってしまった。
そろそろ誰かが、確認ではなく決断をしてもいい頃だと思う。