
開けるな!|「未開封の段ボール」
「開けるな!」
私はエコロジーを掲げる会社に勤めている。
こう見えてもなかなかの野心家で、
将来の幹部候補として期待されている。
少なくとも、私はそう思っていた。
ある朝、出社すると、私のデスクの上に大きな段ボールが置かれていた。
引っ越し業者が使うような、やけに立派な段ボールだ。
丁寧に梱包されており、送り主の名前もない。
ただ、天面に一枚の紙が貼られていた。
「開けるな!」
誰が、何のために置いたのだろう。
私は周囲を見回したが、同僚たちはいつもどおり仕事をしている。
私を妬む誰かのイタズラだろうか。
そう思いながらも、段ボールから目が離せなかった。
開けるなと言われれば、開けたくなる。
人間とはそういう生き物だ。
ましてや、誰が書いたのかもわからない命令に従う理由などない。
私は仕事に取りかかったが、
どうにも気になって仕方がなかった。
中には何が入っているのだろう。
新製品だろうか。
それとも、誰かからの贈り物だろうか。
考えれば考えるほど、好奇心は膨らんでいった。
やがて私は周囲を確認し、
段ボールのガムテープに手をかけた。
ゆっくりと蓋を開ける。
中には何も入っていなかった。
いや、正確には、一枚の紙切れが底に置かれていた。
私はそれを取り出した。
そこには、こう書かれていた。
「開けてしまったあなたはクビです」
思わず笑ってしまった。
悪質なイタズラにもほどがある。
私は段ボール持ち、社長室へ向かった。
「社長、私のデスクにこんなものが置かれていたんですが」
社長は段ボールを見ると、あっさりと言った。
「ああ、それは私だ」
「社長が?」
「そうだ。開けてしまっては仕方がない。君には会社を辞めてもらう」
私は言葉を失った。
「ちょっと待ってください。こんなもの、ただのイタズラじゃないですか。
そもそも、開けるなと書いてあるだけですよ?」
「君は優秀だ。仕事もできるし、将来性もある。だからこそ、残念だよ」
社長は椅子に深く腰掛けた。
「自然とは予測できないものだ。年々気温は上がり、地震だっていまだに正確な予測はできない。
そんな自然には逆らわず、流れに従うのが一番だと私は思うのだ」
社長は続けた。
「会社も自然と同じだ。急に顔色を変えることもある。
それに従えないような社員は、
どんなに有能でも、会社との共存を脅かしかねないからね」
私は唖然とした。
納得できるはずがなかった。
「……せめて、荷物をまとめる時間をください」
「もちろんだ」
社長は微笑み、こう言った。
「デスクを片付けるのには、その段ボールを使うといい」