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短編小説『空を見上げれば同じ月が輝いている』


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    空を見上げれば同じ月が輝いている

    「ねえ、2号ちゃん、今日皆既月食なんだって」
    夜の稼働中、ろるこはLINEを送った。

    「ほーん、ロマンチックやな」
    返ってきたスタンプもない短い文字。

    「ねえ、一緒に見ない? 完全に隠れるの3時頃だって」
    「いや、やめとくわ。クエ残っとるしな。お前もまだ終わっとらんのとちゃう?」

    「もう! ホント2号ちゃん女心わかってないな」
    既読だけがついて、返事は途切れた。

    付き合い始めて二ヶ月。
    稼働終わりに一緒にご飯を食べに行くことはあっても、配達ばかりで大きなイベントもない。
    ろるこはスマホを握ったまま、胸の奥が少しだけざらついた。

    溜め息まじりにタイムラインを開くと、配達報告よりも月食の写真が並んでいる。
    「月が綺麗ですね」
    そんなキャプションと一緒に。

    (2号ちゃんも、こういうこと言えたらいいのに……)
    リプ欄を追っていくと、思わぬ言葉が目に飛び込んできた。

    「死んでもいいわ」
    「正解!」

    慌てて検索すると、夏目漱石の逸話や、二葉亭四迷がロシア語の「Yours(あなたのものよ)」を訳したとされる言葉が出てきた。
    どちらも「愛している」の婉曲表現らしい。

    (へぇ……そんな意味があったんだ)

    2時半。
    「はぁーん、クエスト終わらないよ~🥹」
    疲れ混じりに送ると、すぐ既読がついた。

    「せやろ? だから月なんて見てる場合ちゃうねん」

    「もう! ホント2号ちゃんは女心わからないんだから!」
    再び、既読だけがつく。胸がちくりと痛んだ。

    そこへ通知。
    「ろるこ、空を見てみ」

    言われるままに顔を上げる。
    夜空の月は思ったより白っぽくて、SNSで見た真っ赤な写真とは違っていた。
    街の喧騒をよそに、静かに欠けていく光が、ひとり見上げる胸をなぜか満たす。
    欠けゆく影の輪郭が、彼女の不安と重なって見えた。

    「会えなくても、空を見上げれば同じ月が輝いてるで」

    画面の文字を見つめながら、ろるこの頬がふっと緩んだ。
    (もう……ずるいな。女心わからないくせに、こういうとこばっかり)

    タイムラインに戻りかけて、指が止まる。
    (……やっぱり、言ってみようかな)
    スマホの画面に文字を打ち、消して、また打って。
    小さく息を吐いてから、送信ボタンを押した。

    「2号ちゃん」
    「なんや」
    「月が綺麗ですね」

    少しの間が空いた。
    「……もうほとんど消えかけとるけどな」

    「もう、ほんとに!」
    ろるこはスマホをぎゅっと握りしめる。

    そして返ってきた一文。

    「……死んだらお前に会えんくなるからな。死んでもいいわなんて言えんわ」

    夜空に残る月は、淡く白い欠片だった。
    でもろるこの胸の奥には、真ん丸の光が満ちていた。
    それは月よりも確かに、彼女の中で輝いていた。

    ――空を見上げれば、同じ月が輝いている。


    あとがき

    昨日は皆既月食。
    せっかくだからと、配達員ろること2号の特別編を急遽書いてみました。

    今回の舞台は「未来編」。
    先月公開した新婚旅行を描いた番外編『旅行の攻略法』と同じく、本編の“数ヶ月後”か“数年後”かは、あえて読者のみなさんの想像におまかせしています。

    実際に昨夜のタイムラインも、月食の写真でにぎわっていました。
    「月が綺麗ですね」と投稿する人もいて、僕は思わず「死んでもいいわ」とリプを返してしまったんですが――よく考えると、最近はあまりそう返す人っていないんですね。

    少し前までは、検索すれば必ずセットで出てきた「月が綺麗ですね → 死んでもいいわ」。
    でも今は、いろんな返し方があるようで。ちょっと浦島太郎気分になりました。
    どうやら僕自身も“愛の言葉アップデート”が必要みたいです(笑)。

    ちなみに、この表現を初めて知ったのは、はるか昔の2ちゃんねるまとめブログでした。
    「奥さんに“月が綺麗ですね”と送って反応を見てみた」――そんなスレの内容で、なぜか印象に残っているんです。心がほんのり温かくなるまとめでした。

    大切な人に「月が綺麗ですね」と伝えてみる。
    あるいは、その言葉をどう返すかで、相手との関係を見つめ直してみる。
    そんな小さなやり取りの中に、恋の光が宿るのかもしれません。

    ――さて、あなたならどう返しますか?


    月が綺麗ですね――そう思ったら、スキ・フォロー・コメントで伝えてもらえると嬉しいです。

    ろること2号の物語はまだまだ続きますので、ぜひ連載本編ものぞいてみてください。

    Xでは、フードデリバリーの稼働話や小説、AIイラストなども発信中。
    よかったら月を見上げるついでに、そちらも覗いてやってください。


    ※本作はフィクションです。

    登場する人物・団体・地名・出来事などは実在のものとは関係ありません。また、一部の描写は実在するX(旧Twitter)ユーザーの投稿や活動に着想を得ていますが、特定の個人・団体との関連性はなく、内容は創作に基づいて構成されています。

     
     

    2号

     
     
    『配達員ろること2号』連載中。配達あるあるとちょっとのドラマ、読んでってね。

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