
「動物三部作」のチュルヒャー兄弟インタビュー
チュルヒャー兄弟とのインタビュー機会をいただきました
10/30(金)よりシアター・イメージフォーラムほかにて上映されている特集《ミニアチュールの詩学 チュルヒャー兄弟「動物三部作」》。チュルヒャー兄弟の作品は、数年前に『ガール・アンド・スパイダー』を観た時から注目しており、『ストレンジ・リトル・キャット』が菊川の映画館Strangerで特集上映された際にはトークショーにてチュルヒャー兄弟作品の魅力について語ったことがある。その縁もあってか、先日Gucchi's Free Schoolさんより「チュルヒャー兄弟にインタビューしてみないか?」と誘われた。
正直、インタビュー経験がないかつ英会話ができないので断ろうかと思っていたのだが「安心してください、通訳をつけますので」と背中を押されたため本件を受けることにした。
初のインタビュー。それも推し監督とのインタビューだったため、戦々恐々、全身ガクブルな状態だったのですが、カイエ・デュ・シネマのような専門的な取材を行うことができた。YouTubeにて動画が公開されているのだが、文章でも残すことにした。
なお、ネタバレ個所は少ないものの専門的な話なため、チュルヒャー兄弟の作品を1本以上観てから読むことをオススメする。
↑私のレビューは上記記事にてまとめた。
ミニアチュールの詩学 チュルヒャー兄弟「動物三部作」
10月30日(金)よりシアター・イメージフォーラムほか全国公開
提供:JAIHO
配給:グッチーズ・フリースクール
インタビュー翻訳担当:松下由美
①制作スタイルについて

© Deutsche Film- und Fernsehakademie Berlin 2013
CHE BUNBUN:ラモン・チュルヒャー&シルヴァン・チュルヒャーの制作スタイルについて教えてください。動物三部作は、主に部屋の中で人間同士、時に猫や犬といった動物を介して複雑な人間心理を描こうとしているように思えます。チュルヒャー兄弟同士ないし、俳優とどのような対話を経て映画を作っているのか、あるいは3部作通してどのように手法を変えているのかについて教えてください。
シルヴァン・チュルヒャー:13年ほど前、最初に映画を作り始めた時の作品『ストレンジ・リトル・キャット』における「閉じられた空間にいる家族」「その中で人々が登場していく」といったアイデアはシャンタル・アケルマン『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地(以下、ジャンヌ・ディエルマン)』やルクレシア・マルテル監督の作品から影響を受けています。オン・スクリーン/オフ・スクリーン(何が映っているのか/映っていないのか)がハッキリ明らかであるという部分ですね。オフ・スクリーンというのは、音によって何が起きているのかがわかるので欠かせない要素です。サウンドによって色々な緊張感が高まったり雰囲気も変わるという大事な要素となっています。
『ストレンジ・リトル・キャット』に関して、固定カメラで撮るということ、ミザンセーヌの中であたかもバレエの振り付けをするように人々が移動していくということ、固定カメラとのコントラストをどのように魅せるのかということが『ストレンジ・リトル・キャット』の出発点となります。
そして映画を作り続けていくうえで段々と世界が拡大していったわけです。『ガール・アンド・スパイダー』においては、カメラにナレーションさせるというより、場所に語らせるというよりもロケーションを増やしました。アパートの部屋を移動する設定になっています。ですから、空間がある意味半径が広がっていった。そして、キャラクターの数も増えていったということですね。ですから、異なる《中間》を生み出したわけです。
『煙突の中の雀』に関していうならば、《解放》がテーマとなっています。『ストレンジ・リトル・キャット』と同様に家族という名の監獄から奇跡的な体験という旅路を経て解放される主人公を描くため、カメラの動きが多かったわけです。
②『ジャンヌ・ディエルマン』の技法の活用について
CHE BUNBUN:『ストレンジ・リトル・キャット』はよくシャンタル・アケルマン『ジャンヌ・ディエルマン』と比較されます。
実際に、海外の記事でタル・ベーラ監督から『ジャンヌ・ディエルマン』をオススメされたと伺っています(注)。このようなタル・ベーラ監督からの指導がどのように作品に影響を与えたのかについて伺えたらなと思います。
私が観た印象だと『ジャンヌ・ディエルマン』におけるジャガイモの皮を剥く場面は、部屋の壁と平行にカメラを置いていますが『ストレンジ・リトル・キャット』の場合、割と角度をつけて撮影されているように思えます。実際にどのようにアレンジしたかについて伺えたらと思います。
注:ソースはFILM COMMENTのインタビュー
ラモン・チュルヒャー:『ジャンヌ・ディエルマン』を観て分析して感じたのは、やはりカメラのあり方ですね。ご指摘の通り、ジャンヌがテーブルでジャガイモの皮を剥いている時にカメラは壁に平行であって角度がないですよね。『ストレンジ・リトル・キャット』の場合は、スペースの制約もあり、キッチンとかほかの部屋、非常に室内劇のような感じだったので最初は角度をつけていませんでした。そして日常にありふれた状況を描くということ、家族がいるということでドキュメンタリーではないのですがカメラによってよりこれがリアルに起きているというイリュージョンを起こそうとしました。プラニメトリック(注)な撮影だと人工的になってしまうんですよね。角度をつけた方がリアルに錯覚を起こせるんですよ。
タル・ベーラ監督が大事な点として強調していたのが「部屋をどう魅せるのか、どういう風にキャラクターをスペースに配置していくか」でした。それを考える上でのカメラのあり方ということで、プラニメトリック、角度をつけないのではなく、これは80分近くある映画かつロケーションがひとつの室内劇なので角度をつけるという選択をしたわけですね。少しバリエーションを加えたといった感じです。
注:プラニメトリック(Planimetric)は平行的に撮影する手法で、ウェス・アンダーソン作品に関する海外評でよく見かける専門用語。
③扉や窓の開閉の描写について

© 2024 Zürcher Film / SRF / SRG SSR
CHE BUNBUN:動物三部作に共通する演出として「ドアや窓の開閉」があるかと思います。家の中は基本的に扉が開いていて、家族や動物が自由に行き来します。独りになりたい時でも、気を許すと背後に人がいたりします。
この扉や窓の扱いをどのように決めていったのかについて教えてください。
ラモン・チュルヒャー:シルヴァンが話した通り心理劇であり家族との関わりの形成というものを描いていると同時に室内劇でリアルタイムで話が進行します。
そして、場所はアパートのように限られた空間であります。その中で人間心理を深堀りしていくんですよね。まさしく家の図面を組み立てるように、ここは寝室で、キッチンはここで色々なことが社会活動のように集う場所といったように。ドアというのは閉じてキャラクターを孤立させることもできるが、キッチンというところはいろんな人が入って来る交流スペースであると。
ドアがちょっと開いているというのは、親密性であったり関係性の近さとか優しさを表すと同時に、ほかの人が聞き耳を立てたりチラッと覗き見することができる、まさにこれは《視線の映画》でもあるわけですよね。同時に心理的蜘蛛の巣が張り巡らされているというか、でもその中でドアが閉まるとそれで人は独りになれると同時にドアというのは開かれるという比喩でもあるわけですよ。ですから、室内劇であり視線と関係性でストーリーが奏でられるわけですけれども、三作ともドアないし窓があって、特に『煙突の中の雀』に関しては窓がドアの役割を果てしています。庭にも出られるし、入ることもできる。鳥が飛んできたりとか、それが徐々におとぎ話的な開放、家があたかも息をして生きているかのようなものを象徴しているわけですよ。流動性があって内と外が融合していくような。ということもあって、キッチンの窓がドアの役割を果たすというのが大事な要素なわけなんです。
④『ガール・アンド・スパイダー』における図面の着想

© 2021 Beauvoir Films / Zürcher Film / SRF
CHE BUNBUN:『ガール・アンド・スパイダー』の図面の扱いについて教えてください。サイコロジカルな映画、たとえばロベール・ブレッソン『田舎司祭の日記』などでは、日記や手紙といったもので物語を語らせる手法がよく使われます。一方で『ガール・アンド・スパイダー』では、文章よりも図面や落書きが多く、このようなイメージから人間の内面を描こうとしている気がします。この演出の着想について教えてください。
シルヴァン・チュルヒャー:元々、『ガール・アンド・スパイダー』ってタイトルに決まるまでの題名は『友だちの部屋の図面』でした。なぜ、『友だちの部屋の図面』になったかというと私の身に実際に起きた経験に基づいています。PDFで図面を開こうとした際に、PDFにもかかわらずグチャっと混沌としたものが出てきたことが実際にありました。この経験からストーリーが生まれてきたわけです。そして、この図面というのが中心的要素になっていきました。図面というのはシミュレーションのような感じですよね。図面を見るとどういう風に部屋が繋がっているかということがわかる。ある意味これは観た人がジグソーパズルで映画を組み立てていくのに役立つことになります。というのも、私の映画では部屋の外観を映すようなエスタブリッシングショット(注)がない。特に主人公のクローズアップが多い。その主人公の顔がアップになると他の人から隔離され際立ちます。そして観た人は、主人公がいる場所が、全体がどうなっているのかが見えないわけです。だけれども、頭の中でこの部屋はどうなっているのかと構築していくわけですよね。ジグソーパズルを組み立てていくような。しかし、この図面があると見てパッとわかってしまうという。だからこそ、図面を中心的なモチーフとして使ってみました。
注:エスタブリッシング・ショット(Establishing Shot)とは、場所や状況を示すための導入となるショット。
⑤『ガール・アンド・スパイダー』とベルイマン作品との関係について

『鏡の中にある如く』
CHE BUNBUN:『ストレンジ・リトル・キャット』は『ジャンヌ・ディエルマン』をかなり意識していた作品でした。だとすると『ガール・アンド・スパイダー』は蜘蛛のモチーフが強調されていたので、イングマール・ベルイマン作品、特に『鏡の中にある如く』を意識されたのでしょうか?
シルヴァン・チュルヒャー:ベルイマン監督作品は母と一緒によく観たんですよね。母がベルイマン作品のファンでして。ですので心理的な描写は私たちの映画作りを形作っており、随所にベルイマン作品からの影響がみられます。やはり心理描写であるということ、女性を主人公に据えているということ、室内劇であるということで特に『ガール・アンド・スパイダー』ではベルイマン監督からの影響がより強いといえます。若い女性が主人公というあたりはそうじゃないでしょうか。
ラモン・チュルヒャー:もちろん、ベルイマン監督作品というのは一般的に映画界において非常に重要な作品ではあるんですけれども、『煙突の中の雀』に関しては姉妹が週末を共にする、誕生日パーティのために一緒になる、暗い過去が顕になる、そこを深堀りしていくのはベルイマン的ではないかと思います。加えて心理描写と風景との連携や連想させるもの、心理を風景が語る、風景を心理が語るということ、そしてもうひとつ『煙突の中の雀』で描いている自己破壊/自己攻撃というもの、傷をみせるという部分も非常にベルイマン監督の影響を受けています。というのも私たちは若い時から彼の作品を観てきたのでその影響は感じられるのではと思います。
⑥オススメのスイス映画について
最後にチュルヒャー兄弟からオススメの自国・スイスの映画について教えていただきました。代わりに私からはオススメな日本映画として出光真子『清子の場合』を挙げたところ、かなり興味を持っていただけました。やはり『ジャンヌ・ディエルマン』やベルイマン映画のような室内心理劇からの影響が強いため、興味あると思って挙げたら案の定でした。
■ラモン・チュルヒャー監督のオススメスイス映画
①La Lune avec les dents(ミシェル・ステー、1966)

ヌーヴォー・シネマ・スイスの中核となった映画製作会社グループ5のメンバーであるミシェル・ステーが1966年に製作し、翌年のロカルノ国際映画祭にて出品した作品。反抗的な若者ウィリアムが軽犯罪で生計を立てながらも政治活動に打ち込んでいる中、ビジネスの勧誘を受けるも物質主義への嫌悪から拒絶する。そんな彼のユニークさに惹かれた女・ノエルと交際を始めるものの欲望がふたりを引き裂くといった内容。ミシェル・ステーは日本ではほとんど紹介されていない監督ではあるが、何故か日本語のWikipediaでの情報は充実している。
②ジョナスは2000年に25才になる(アラン・タネール、1976)
最近、IVCからBru-ray BOXが発売されたことで日本でも話題になったアラン・タネールの代表作。8人の「Ma」から始まる男女が五月革命(Maiと共鳴している)と向き合っていく様を描いた群像劇。このインタビューの直後に、Bru-ray BOXを買って鑑賞したのだが、家の撮り方が『ストレンジ・リトル・キャット』と似ていて驚かされた。ミウ=ミウ演じるスーパーの店員が年金生活者の老人に少ない金額で会計しようとする場面や歴史の授業で巨大なソーセージを切り分けるパフォーマンスを魅せる場面など観所多し。また、ベタではあるがモノクロ映像、フッテージでもって引き摺っている過去を表現する場面も印象深い。
③ノー・マンズ・ランド(アラン・タネール、1985)

ボスニア・ヘルツェゴビナ映画ではない方の『ノー・マンズ・ランド』。監督は同様にアラン・タネール。フランスとスイスの国境を舞台に4人の若者グループが厳しい境遇から抜け出そうとする内容。アラン・タネールBOXの堀潤之による解説では、アラン・タネール監督は《閉塞したスイス社会からの脱出》を描いているとのこと。
④Les paradis de Diane(カルメン・ジャキエ&ヤン・ガスマン、2024)
カルメン・ジャキエ&ヤン・ガスマン監督作品はひっそり日本でも紹介されており、U-NEXTにて『世界の終わり』が観られる。『Les paradis de Diane』は第74回ベルリン国際映画祭パノラマ部門に選出された作品であり、出産して早々に赤子を置いて逃亡したダイアンの心理を描いた作品である。ラモン・チュルヒャー監督が選ぶスイス映画は一貫して、社会システムからの逃避を描いた作品となっている。
■シルヴァン・チュルヒャー監督のオススメスイス映画
①山の焚火(フレディ・M・ムーラー、1985)
シルヴァン・チュルヒャー監督はラモンに付け加える形で『山の焚火』を挙げていた。『山の焚火』は最近、日本でも特集上映されていたフレディ・M・ムーラーの代表作で、アルプスの雄大な自然で自給自足を送る家族のドラマ。ドキュメンタリータッチでありながらも、時としてマジックリアリズムのような描写が挿入され不思議な空気感が流れる作品。
【映画情報】
ストレンジ・リトル・キャット
THE STRANGE LITTLE CAT
2013年|ドイツ|72分|カラー|1:1.66|ドイツ語
監督・脚本・編集・サウンドデザイン:ラモン・チュルヒャー
撮影・カラーグレーディング:アレクサンダー・ハスケル
美術:マティアス・ヴェルナー、ザビーネ・カッセバウム
衣装:ドロテ・バッハ
製作:シルヴァン・チュルヒャー、ヨハンナ・ベルゲル
出演:イェニー・シリー、アンヨルカ・シュトレッヒェル、ミア・カサロ、ルク・プファフ、マティアス・ディットマー、アルミン・マレフスキ
© Deutsche Film- und Fernsehakademie Berlin 2013
ガール・アンド・スパイダー
THE GIRL AND THE SPIDER
2021年|スイス|98分|カラー|1:1.66|ドイツ語
監督・脚本:ラモン&シルヴァン・チュルヒャー
編集:ラモン・チュルヒャー、カタリーナ・ベンド
撮影:アレクサンダー・ハスケル
美術:ザビーナ・ヴィンクラー、モーティマー・チェン
衣装:アンヌ=ソフィー・レミ
音楽:フィリップ・モル
製作:アリーヌ・シュミット、アドリアン・ブレーザー
出演:ヘンリエッテ・コンフリウス、リリアーネ・アムアト、ウルシナ・ラルディ、フルリン・ギガー、アンドレ・M・ヘニッケ、ザビーネ・ティモテオ
© 2021 Beauvoir Films / Zürcher Film / SRF
煙突の中の雀
THE SPARROW IN THE CHIMNEY
2024年|スイス|117分|カラー|1:1.66|ドイツ語
監督・脚本・編集:ラモン・チュルヒャー
撮影:アレクサンダー・ハスケル
美術:ペーター・シェルツ
衣装:リンダ・ハーパー
音楽:バルツ・バッハマン
サウンドデザイン:ペーター・フォン・ジーベンタール、ラモン・チュルヒャー
製作:シルヴァン・チュルヒャー
出演:マレン・エッゲルト、ブリッタ・ハンメルシュタイン、ルイーゼ・ハイヤー、アンドレアス・デーラー、ミリアン・ツェルツァヴィ、レア・ゾーイ・フォス
© 2024 Zürcher Film / SRF / SRG SSR