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川と自転車――野山に漂う深遠の靄 4Days/Day3

    野山に漂う深遠の靄 4Days
    MC:ミライ

    ▶️山と軽トラ/Day2

    読むつもりのなかった本ほど、気づけば時間を持っていく。


    棚の端の一冊

    編集部へ立ち寄ったミライは、棚の端に見慣れない本があることに気づいた。

    『遠野旅日記』

    「これ、何だろ」

    手に取って表紙を開く。最初の頁には、小さな付箋が貼られていた。

    《みんなへ。面白い本を見つけました。――サエコ》

    「サエコさんからか」

    頁をめくる。

    第一話――『馬と娘』。
    第二話――『山と軽トラ』。

    その次で、指が止まった。

    第三話――『川と自転車』。

    「川と自転車?」

    時計を見る。急いで帰るほどでもない。

    「……ちょっとだけ」

    ミライはソファへ座り、頁を開いた。


    遠野旅日記 第三話 川と自転車

    記録者:黒戸 聖

    翌朝、「民宿 はやちね」を出たのは、九時を少し回った頃だった。

    昨夜、小野寺さんに勧められた地酒を二杯飲んだ。

    二杯目は断るつもりだったが、絶妙な間合いで、二杯目が注がれた。

    朝食の席でそのことを女将に話すと、

    「だから言ったでしょう。この人の一杯は信用しちゃ駄目だって」

    と笑われた。

    当の小野寺さんは、

    「二杯くらいで大げさだべ」

    と納得していなかった。

    幸い、頭は痛くなかった。

    玄関で靴を履きながら、今日の予定を話した。

    「昨日の話を聞いたので、カッパ淵を見てから帰ろうかと思ってます」

    「ああ。行ってみりゃいい」

    小野寺さんはそう言ったあと、

    「ただな」

    と付け加えた。

    「昨日も言ったけど、『遠野物語』に出てくる姥子淵の話と、今みんなが見に行くカッパ淵は、同じ場所ってわけじゃねぇからな」

    「そこは混同しないようにします」

    「観光で見るなら、カッパ淵でいいんだ。今の遠野で河童っつったら、あそこ思い浮かべる人も多いからな」

    女将が奥から顔を出した。

    「帰りの時間だけは気をつけてくださいね」

    「はい。お世話になりました」

    「また来な」

    小野寺さんが言った。

    私は二人に頭を下げ、「民宿 はやちね」を出た。

    空は明るかったが、空気は冷たかった。

    昨夜は闇の向こうにしかなかった山が、朝になるとすぐ近くに見えた。

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