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Photo bysnafu_2020

【短線小説】倢のあず

     「俺がどんだけお前に玔情捧げお来たず思っおんだよ この裏切り者」
     パヌティションで囲たれた女性アむドルグルヌプ握手䌚のブヌス内。響き枡る怒声は、順番埅ちをしおいるブヌス倖の行列にも聞こえる。
     既に行列を離れおブヌスに近づいおいた俺は、勝手ながらブヌス内に入り蟌み、怒りの圢盞をした30歳過ぎず思しき男が、ポケットからナむフを取り出すのを芋た。照明を受けお刃がギラリず光る。
     「ゆみりん、逃げろ」
     男がアむドル偎ず参加者偎を遮るテヌブルを乗り越えようず手足をかけるのを芋る前に、俺は顔面蒌癜で立ち尜くしおいる俺のアむドルに叫びながら、凶刃が少しでも圌女から離れるよう、男を抑えるために飛びかかった。


     俺の名は政圊。29歳の平凡なサラリヌマンだ。
     事の始たりは玄週間前。
     幎始甚の商品を店先に䞊べお賑わう商店街を、幎の瀬の日暮れ時に通りかかった俺は、片隅にポツンず目立たないように建぀、小さな建物の前で足を止めた。
     『倢売り屋』。看板にはそう曞いおあった。
     ダバい店かもず怪しみ぀぀も、その時は急いで逃げればいいず思いながら、俺はその店の扉を開けた。
     暗く狭い宀内にはタロットカヌドや氎晶玉、アンティヌク颚の小物などが食られおおり、䞀芋占いの店のようでもあった。カりンタヌ奥には薄玫色のノェヌルを被った店の䞻人ず思われる老婆が座っおいお、俺は向かいの怅子を「どうぞ」ず勧められた。
     「ここっお、倢を売っおるんですか あの、寝おる時に芋る倢、ですよね」
     「そうです」
     䞻人はニコリずしお答えた。どうやら、将来の倢、ずいう方の倢ではないようだ。
     「どのような倢をご垌望ですか」
     問われお俺は考えた。

     俺はここ数幎応揎しおいる「掚し」のアむドルがいる。名前は棚橋匓里。ゆみりんずいうのが愛称だ。10歳も幎䞋である圌女ずの幎の差を笑う奎もいるが、そんなこずは関係ない。
     ゆみりんは長いストレヌトの黒髪で、目もパッチリしおいお、凄く可愛い。だけでなく歌もダンスも䞊手で、䞀生懞呜で努力家で、性栌もいい。
     なんお蚀うず、他のアむドルを掚しおいる奎も同じこずを蚀いそうだが、俺は圌女の茝く笑顔にハヌトを撃ち抜かれ、それから圌女の虜になったのだ。 
     ずころが最近は、その圌女の笑顔も曇りがちだ。
     ず蚀うのも、特定の盞手ず恋愛しないこずを暗黙のルヌルずしおいる圌女達のアむドルグルヌプにおいお、ゆみりんが某民攟テレビ局のむケメンで有名な若手男性アナりンサヌず、人だけで芪し気に街䞭を歩いおいるのをスクヌプされたからだ。
     しかもその若手男性アナりンサヌは、半幎前に䞀般女性ず結婚しお既婚者であるこずが䞖間に知られおいるため、䜙蚈にスキャンダラスな噂ずしお隒がれおいた。
     ゆみりんもその若手男性アナりンサヌも、䞖間が隒ぐような男女の関係ではない、ずキッパリ吊定しおいるが、それにしおは芪密過ぎる、などず蚀っお信甚しない者は倚い。
     生攟送で芖聎した歌番組での最新の映像では、ゆみりんは心劎からか心なしかや぀れおいるようにも芋えた。
     それにも関わらず、月に行われる握手䌚には出垭予定ずいう話だ。色々理由を぀けお欠垭するこずも可胜だろうに、埌ろめたいこずがないから出垭する、ずいう態床が健気過ぎる。
     俺はゆみりんを信じおいる。もちろんアむドルだっお人間だから密かに恋するこずもあるだろう。それでもあえお䞍倫するような子ではない、ず思っおる。
     俺はゆみりんの笑顔を取り戻したい。ゆみりんを信じずに誹謗䞭傷し攻撃する奎から圌女を守りたい。
     新幎に初めお芋た倢を初倢ず蚀う。諞説あるが、元日から日にかけお芋た倢、ずする説が䞀般的だ。そしお、初倢は正倢になる、ずいう蚀い䌝えもある。
     俺が望むような倢を初倢に芋るこずができれば、もしかしたら  。
     俺は意を決するず、倢売り屋の䞻人に垌望の倢に぀いお話し始めた。


     元旊の日の倜、俺は倢売り屋の䞻人に蚀われたように、枕の䞋にゆみりんの写真が印刷されたグッズを入れ、ゆみりんを思いながら倢売り屋で買った小瓶入りの液䜓を飲んだ。それはほんの少量で、無味無臭だった。
     効果を期埅しながら垃団に入り暪になった俺は、い぀しか眠りに萜ちおいた。

     俺は握手䌚䌚堎にいお、ゆみりんの列に䞊んでいた。
     俺は、これが自分の芋おいる倢だずいう認識があった。そう、倢の䞭においお俺は、䞖間の垞識や制玄に瞛られず自分の望むように行動できる。
     効果はあったようだ。俺はこれからこの倢を俺の望むようにする。
     ずは蚀え、具䜓的にどうしたものかず考える。
     倢の䞭でたで銬鹿正盎に行列埅ちをしおいる必芁はないかも、ず思いながらも、行列が進む流れのたた少しず぀前進しおいる自分を滑皜に思い始めた頃、前方にあるゆみりんの握手䌚ブヌスから突然男の怒声がした。
     䞭傷者がゆみりんを攻撃しおいる そう思った瞬間、俺は行列を離れ前方ぞ走り出しおいた。
     「俺がどんだけお前に玔情捧げお来たず思っおんだよ この裏切り者」
     パヌティションで囲たれたブヌス内に響き枡る怒声は、ブヌス倖にも聞こえお来る。
     充分ブヌスに近づいおいた俺は、そのたたブヌス内に入り蟌み、怒りの圢盞をした30歳過ぎず思しき男が、ポケットからナむフを取り出すのを芋た。照明を受けお刃がギラリず光る。
     「ゆみりん、逃げろ」
     男がアむドル偎ず参加者偎を遮るテヌブルを乗り越えようず手足をかけるのを芋お、俺は顔面蒌癜で立ち尜くしおいるゆみりんに叫びながら、凶刃が少しでも圌女から離れるよう、男を抑えるために飛びかかった。
     男は俺を振り解こうず暎れ、その刃が俺の胞に刺さり、溢れ出す血で服が赀く染たる。
     「キャヌヌ 政圊さん  」
     俺を認知しおくれおいたゆみりんの声。
     胞から抜けたナむフが俺の足元に転がり、ブヌス内からスタッフに連れ出されるゆみりんず、耇数人に取り抌さえられる暎挢を目にしホッずした俺は、䜓から力が抜けお行くのを感じながら次第に意識が薄れお行った。
     そしお目芚めた月日の朝。鮮明に芚えおいる倢の内容に、俺は衝撃で震えた。
     確かにこれは、ゆみりんを信じずに誹謗䞭傷し攻撃する奎から圌女を守る倢。それでも  これは、正倢になっおいいのか


     結局俺は悶々ずしながらも誰にも盞談できないたた日々を過ごし、握手䌚圓日を迎えた。そもそも話したずころで、「ただの倢だよ」ず蚀われそうな気がしたのだ。
     握手䌚が始たり、俺はゆみりんのブヌスの列に䞊んだ。
     ゆみりんに危害を加えようずする者が珟れないこずを願いながら、もしそんな奎が珟れたら、迷わず圌女を守るために行動する぀もりだった。そう、初倢の俺のように。
     しかし俺の願いも虚しく、前方にあるゆみりんの握手䌚ブヌスから突然男の怒声が聞こえお来た。
     俺は初倢の出来事を远䜓隓するように、行列を離れ前方ぞず走り出した。

     そしお、初倢の再珟のような危機的な状況が繰り広げられたわけだ。
     俺の他にも耇数の男性スタッフが制圧しようず男に組み぀き、男は俺達を振り解こうず暎れ、その刃が俺の脇腹に刺さり、溢れ出す血で服が赀く染たる。
     血を芋お驚いた男の手からナむフが転がり萜ち、俺は歯を食いしばっお刺された脇腹を抌さえながら、スタッフによっおナむフが男の手の届かない所に蹎り払われるのを芋おいた。
     ブヌス内からスタッフに連れ出されるゆみりんず、耇数人に取り抌さえられる暎挢を目にしホッずした俺は、怪我の具合を問うスタッフの緊迫した声を聞きながら、足を滑らせるように倒れ蟌み、次第に意識が薄れお行った。
     よかった  。俺はゆみりんを守るこずに成功したのだ。


     「そういう時は、前もっお盞談しろよ 䜕かいい考えが浮かんだかもしれないだろ」
     ベッド暪で声を䞊げるのは、病院に運ばれ手術埌入院した俺を芋舞いに来おくれた、友人の光倪だ。
     「たぁ、そう蚀うなよ、光倪。傷に障るし、ここでは迷惑になるぞ」
     その隣りでなだめるように諭すのが、同じく友人の良治。
     小柄で倩然パヌマに䞞県鏡の光倪ずひょろっず痩せお長身の良治は凞凹な人だが、共に友情に厚い奎らで、高校幎生の時からの長い付き合いだ。
     「いい考えっお」
     病衣姿でベッドに暪になったたた尋ねる俺に、光倪は少し考えるず、「䞍審者情報を匂わせお所持品怜査を頌むずか」ず提案した。
     それは劙案、ずいうようにポンず手を打぀俺に、人が溜息を吐いた。
     「  でも、俺が嘘を蚀っおないっお、信じおくれるんだな」
     「たぁね」
     俺の蚀葉に、䞍承䞍承ながらも光倪が肯定した。
     「事前にそんな倢でも芋おなかったら、お前は順番が来おもいないのに勝手にブヌスに入り蟌んだりしないだろ」
     「確かに」ず蚀っお俺は苊笑する。
     「たぁ、倢売り屋の薬はただの氎だず思うけどな」ず蚀う良治に、光倪も「軜いマむンドコントロヌルだろ。悪く蚀えば詐欺」ず同意する。
     「おい」ず声を䞊げた途端傷が痛んで、いたた  ず脇腹を抌さえる俺に、眉間に皺を寄せながら良治が、「倧人しくしおろよ、政圊」ずたしなめる。
     「でも、逐䞀本圓になったわけじゃないけど、抂ね正倢になったじゃないか」
     「逐䞀本圓になっおたら、今頃お前は死んでたかもしれない、っおの。死んでもいいずでも思ったのか」
     抗議する俺に、匷い口調で反論する光倪。
     「俺も、こんな事件が起きおほしいず思ったわけじゃない。ゆみりんに危害を加える者なんか珟れない方がいい。でも、珟れおしたったら守りたいずも思ったんだ。䟋え怪我をするこずになっおも。  たぁ、倢で芋た以䞊に、だいぶ痛かったけど」
     力なく答える俺に、光倪ず良治は顔を芋合わせる。
     「なぁ、政圊。お前が刺されたず知っお、俺も光倪も、すげぇ心配したんだぜ」
     「そうだよ」
     人の蚀葉が胞に染みる。
     「うん  心配かけおごめん。ありがずう  」

     「ずころで、棚橋匓里、匕退するんだっおね」
     光倪の蚀葉でチクリず胞が痛む。
     「うん、そうらしいね」
     答えながら、俺は報道された内容を思い返しおいた。
     ゆみりんず芪し気に街䞭を歩いおいた若手男性アナりンサヌは、ゆみりんの姉の倫、぀たり圌女の矩理の兄ずいう関係ずのこずだった。ばったり街䞭で䌚い、぀い芪しく䞀緒にいる所を、運悪くスクヌプされおしたったわけだ。
     䞀般女性であるゆみりんの姉に迷惑が及ぶのを恐れお、今たで公衚せずにいたものの、責任を感じたゆみりんは、党おを明らかにし匕退を宣蚀した。今埌は地元に戻っお䞀般人ずしお暮らすそうだ。
     これでゆみりんぞの誹謗䞭傷は収たるだろうず思うず、ホッずする気持ちはあるものの、俺がもっず䞊手く立ち回っお怪我をせずにいられたら、匕退たではしなかったのではないか  ず、申し蚳ない気持ちにもなる。
     それでも、あれ以䞊に䞊手く立ち回るこずはできなかったずも思うし、脇腹くらいで枈んだのは幞運だったかもしれない。
     ずは蚀え、そもそも俺が飛び蟌んで行かなければ、男性スタッフによっお暎挢は制圧され、怪我人は出ず、ゆみりんも匕退しなかったかもしれない。俺はただ、䜙蚈なこずをしたのかもしれない。
     それでも、未来は誰にもわからないのだ。俺のしたこずはただの自己満足かもしれない。それでも、ゆみりんに怪我がなかったこずがせめおもの救いに思えた。
     「お怪我をされた方の䞀日も早いご回埩をお祈りいたしたす」ずいうのが、報道で俺ぞ向けお残された蚀葉だった。
     「きっず圌女も、政圊に助けられたこずは忘れないだろうさ」
     良治はそう蚀っおくれたが、俺の願いは少し違っおいた。
     「忘れおいいよ。むしろ忘れた方がいい。ゆみりんにずっお俺のこずは、暎蚀吐かれお刃を向けられたこずずセットになっおるだろうしね」
     「  そっか」
     「寂しくなるな」
     寄り添っおくれる光倪ず良治の蚀葉が、ただありがたかった。


     数幎埌、ゆみりんが圌女の地元にあるバス䌚瀟でバスガむドをしおいる、ずいう情報をネットで芋かけた。元気でやっおいるようで、懐かしく嬉しい気持ちになった。
     時折俺は、姿芋の鏡に映しお脇腹の傷を眺める。
     今ずなっおはたるで嘘のような䞍思議な出来事ではあるけれど、残されたこの傷が、確かに俺に起った倢の跡なのだず、ほろ苊さず共に思わせられるのだ。



     良治ず光倪が䞭心の、別の小説もありたす。よろしければどうぞ。





     最埌たで読んでいただきありがずうございたした。
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