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「チワワになりたかった娘──28年かけて母が敗北宣言する日」

    「将来何になりたいの?」
    2歳だった娘に聞いたとき、返ってきた答えは──

    「チワワになりたい」

    え、人間じゃなくて?と内心つっこみながらも、まあ2歳だし、家で飼ってたチワワの“ココ”が好きすぎたんだろうと思った。
    それでもちょっと不思議だったのは、それから何年経っても、彼女は将来の夢を変えなかったことだ。

    幼稚園、小学校、中学……いつ聞いても「チワワになりたい」。
    ……いや、どんだけ憧れてるんだココに。

    私は焦った。
    だって姉たちは、ちゃんと努力して、ちゃんと勉強して、それなりに歩んでいたから。

    なんとかしなきゃと、あれこれ手を尽くした。

    塾、家庭教師、話題の学習ゲーム。
    朝5時に起きて一緒に勉強したこともある。
    でも彼女は、基本やらない。どこまでいっても、やらない。

    私が横で声かけてるだけで、本人は

    「わかんない〜」
    「わかんないんだもん〜」

    これ、無限ループ。

    本気で思った。「私が受験した方が早い」って。

    高校も、姉たちが通った県内トップの進学校はスルーして、
    「自転車で通える距離がいい」と、地元の高校を選んだ。

    でも実際は、そのために買った自転車、たぶん5回も乗ってない。
    通学距離、たったの2.6キロよ?
    それでも、毎日車で送迎。

    ……市内ですよ?どこまで省エネ。

    食べても食べても太らない。
    1日5食いってたけど、ずっとスリム。
    で、よく寝る。ほんとに、よく寝る。

    努力も無理もしない、っていうのは、もう人生設計だったのかもしれない。

    そんな彼女も今は結婚して、実家の道路一本はさんだ向かいに家を建てた。
    子どもは3人、専業主婦。

    ちなみに、姉たちも今は専業主婦。
    長女も、次女(彼女)も、三女も、気が向いた時に実家でちょっとバイトしたり、気が乗った時だけ働く、そんな生活スタイル。

    ある日、娘が言った。

    「だってさぁ。お姉ちゃんたちと私、今、同じ生活してない?」
    「だったら、勉強しても意味なくない?」

    ……ぬかしやがる。
    何も言えねぇ。悔しいけど、たしかにそうかもしれない。

    子守を頼むのも気分次第。
    実家に来てはお菓子食べて、何かしら持って帰ってく。
    「え、住んでるの?」ってレベルで自然にソファに座ってたりする。

    でもね、黙って夫の部屋(孫のたまり場)に掃除機をかけてくれてたり、
    冷蔵庫にしれっとプリンが補充されてたりする。

    “してあげてる感”はゼロ。
    でも、なんか恩は返してくれてる。

    先日、ふとした会話で彼女がこう言った。

    「いやもうね、できるだけ労力使わずに、最大リターンを得たいのよ」

    ああ……そうか。

    「チワワになりたい」って、
    ただの可愛い夢じゃなかった。

    何もしなくても、愛されて、食べて寝て幸せに生きる存在。
    うちのココみたいに。
    あの子は、2歳の時点で**“人生の理想形”**をもう見抜いてたのかもしれない。

    娘を育てて、28年。
    やっと気づいた。

    私は、努力は裏切らないと信じてきた。
    だけど、彼女は努力しないで生き抜く方法をちゃんと選んで、
    それなりに愛されて、ちゃんと暮らしてる。

    育てたつもりだったけど、
    教わったのは──私のほうだったのかもしれない。

     
     
    意地悪で迷走し傷つき笑う人間臭い話。娘3人孫8人、夫と猫と犬と暮らす50代後半。 娘であり、母であり、祖母であり、妻でもある私の日常。

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