メインコンテンツへスキップ


 譜面と曲入ったメディア渡されて、一階の会見室へ向かう。
 もう曲が入っているのか、裕太はぜんぜん冷静だ。
 あんなことのあとなのに…
 凄すぎる。
 けどドレスシャツの前ボタン一つずれてる。
 俺の視線に気づいて慌てて直す。
 耳まで赤くなってるのが意外だった。
 会見室直前、ボタンをなおした裕太がマムンに問うた。
 本名?
 だめ。
 多田悠斗。
 何でえええ!
 子供のようなだだコネ顔したけど、会見室のドアが開いたらすっと表情を消した。

 室内はすし詰め状態だった。
 テレビ、ラジオ、ネット、新聞、スポーツ紙、雑誌、ミニコミ大手…
 ティアーズファンジンの編集代表もいる。
 何が発表されるかもわかってないのに…
「しかも二十分遅れ」
 無表情のまま裕太が囁く。
 どこかを見ろ的身のこなし。
 示された方向の程よい位置に、あのおっさんがいるのが見えた。
 表情変えるな。
 裕太のオーラが伝えてくる。
 懸命にポーカーフェイスする。
 マムンが片手を挙げると、指揮者が構えたときのように、室内がしんとなった。
「お待たせしたね。ソーリーソーリー。お詫びにうちの新ホープ紹介するね」
 みんなを静まらした手を俺たちの方へ払う。
 みんなが一段と静まり返る。
 視線の集中線はもちろん裕太一人にだ。
 数瞬遅れてシャッター音とかが始まった。
 見惚れたのだ。
 間違いなかった。
 そして見惚れたことを恥じるように、次々質問が飛び出した。
 鹿田裕太ですよね。
 もう一人ってことはデュオっすかー。
 その地味な…
 語尾がモゴモゴと消える。
 押しつぶすようにマムンの声が上がる。
「多田悠斗。特技はダンス。挨拶代わりに回っとく?」
 ここでローリング見せろってこと?
 踊るべき?
 逡巡してたらメディアから端子抜けて、かなりな音量で曲が!
 これから売る曲!!
 的な顔をマムンがしかけたその時、いきなり裕太が歌い出したのだ。

 だーかーらー
 ダメだって
 ダメだって
 ダメだって
 ダメだって
 ダメやー
 ゆーうーたーやーんー

 ポカーンと
 見守る取材陣の前で、
 裕太はたった一度だけ笑んだ。

「サービス終わり」

 会見は終わった。

あなたへのおすすめ