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【#創作大賞2024】蒼に溶ける 第3章 ④ 四十九日

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    沙和子の四十九日忌明け法要は、鈴村家の菩提寺である妙遠寺で行われた。
    これまで法要と言えば自宅でやることがほとんどだったのだが、これまた晃雄の「家族だけで静かにやりたい」という希望のもと、わざわざ寺まで出向くことになったのだ。

    当初その報せを聞いた結依は、相変わらずの事後通告に憤るよりも違和感の方が先に立った。葬儀の時はこれでもかとばかりに多方面へ報せたわりに、節目となる四十九日の法要に親族の一人も呼ばないのは、何事も大仰にしたがる父の振る舞いとしては、いささか腑に落ちない。
    だが自宅で法要を行うとすれば、その準備が大変であることは言うを待たない。だから寺で行うというのは充分に理解できるし、結依もまたその方が気楽ではあった。

    妙遠寺は、実家から車で一時間ほど離れたところにある、こぢんまりとした寺だ。だが中へ入ってみると、天井の高い本堂にどっしりとした釈迦如来像とそれを取り巻く様々な菩薩像が鎮座するさまは、宗教心のほとんどない結依の目にも、おのずと荘厳な重厚感を感じさせる。
    広い本堂にたった三人分の床几が用意された光景は、斎場での盛大な葬儀に較べると、ずいぶん質素にも見えた。だがこの方が、人混みに飲まれて母の亡骸の傍にもいられなかった葬儀よりは静かな気持ちになれそうだ、と結依は心の中で安堵した。

    住職の先導に従い、小さな頃から耳に馴染みのある経をたどたどしく口ずさむうちに、法要はしめやかに終わった。

    「――これにて終わりとさせていただきます。どうもお疲れさまでした」

    妙遠寺の住職は、50代半ばの物腰柔らかな男性だった。
    法要が終わったあと、住職はせっかくお越しくださったのですから、と晃雄たち一家を連れて寺の中を案内した。

    「こちらは先ほど法要を行った本堂の裏手にあたるところです。ここでは私どもの寺でご供養する方々のお位牌をお祀りしております。このようにお家ごとに一つとなっておりまして、中に各個人の法号――他の宗派では戒名と言いますが――それをお書きした竹札が入っております」

    そう言うと住職は、ずらりと並んだ位牌の中から鈴村家のものを手に取ると丁寧に開いた。中には四枚の竹札が入っている。一枚は母・沙和子のものだ。『玲光院日泉信女れいこういんにちせんしんにょ』というのが母の法号だった。そして半年前に亡くなった祖父・和正、そして残りの二枚は、結依には曽祖父母にあたる二人のものだろう。つい数か月前まで普通に話をしていた母が、今はこんな竹札一枚の姿と化していることに、今さらながら胸が重く塞がるようだった。

    控室に戻って冷たい麦茶を振る舞われながら雑談を交わすうちに、ふと住職が晃雄に訊ねた。

    「さて早いもので四十九日も過ぎたわけですが、奥様のご納骨についてはどうお考えですか? お父様のご納骨は5月になされたばかりですが」

    住職の言葉に、結依は思わず全身が緊張するのを感じた。墓へ納めず海へ散骨をしたい、という自分の考えは父にも兄にも伝えてある。だが今日に至るまで、はっきりした回答を得ていないことが気がかりだった。
    果たして晃雄は、結依の方を見ずにあっさりと言った。

    「なかなか心の区切りもつかないのですが……いずれは墓へ入れてやらないとな、と思っています。いつまでも外へ放ったままにしておくのは、妻も落ち着かないと思うので」

    結依は自分の顔からさっと血の気が引くのを感じた。何やら気配を察したのか、大樹がちらりとこちらを見る。

    だが事情を知らない住職は、そうですか、と穏やかに頷いた。

    「以前は、それこそ私がまだ生まれる前ぐらいですと、一定の時期が来たら納骨するという考えが強かったようです。ですがそれもだんだん変わりまして、自分が最期を迎えるまで傍に置いておくという方も多くなりました。そして今はご存じのとおり、こういう形でお墓を持つ方が非常に少なくなっております。ですのであまり型にとらわれず、先ほどご主人様が仰ったように、『心の区切りがついた時に』とお考えになるのがよろしいかと存じます」

    だが晃雄は穏やかな笑顔を浮かべながらも、きっぱりと言った。

    「いや、置いておいたらおいたで、何かと気持ちが引きずられるものですから……こういうものはある程度、決まった流れに沿うことも大事かと思うんですよ。昔からある決まりごとというのは、やはりそれだけの意味を持ってるものだと思いますんでね」

    どことなく相手を論破するかのような晃雄の口調に、住職も一瞬鼻白んだようだったが、すぐに静かな表情で何度か頷いた。

    「仰るとおりですね。いずれにせよお急ぎになる必要はございませんので、ご家族でよく話し合われてお決めになればよろしいかと存じます」

    晃雄は鷹揚に頷いた。誰と話すにしても、何やらそり返ったような傲然とした姿勢で物を言う父の姿に、結依は言いようのない嫌悪感を覚えた。
    そしてそれ以上に、またも自分の意見が紙くずのように握りつぶされたことに、怒りを通り越えてもはや絶望しか感じなかった。


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    小説を書くわんこ(SS~長編)。創作大賞2025『栗と牡丹』入選。→2026年4月『栗は月色、こがね色』として朝日文庫より刊行。第2回日本おいしい小説大賞最終候補、第31回やまなし文学賞『雨を知るもの』佳作→作品集刊行。餃子とピザとあんこが好物。一人BARと野鳥観察が趣味。

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