
「任せる」は、何も言わないことではない。海士町の祭りで、若い4人から教わったこと
海士町の夏を彩る「キンニャモニャ祭り26」。
僕は、海士町の本氣米生産組合の出店を手伝いました。
最初に「本氣米を広めたいなら、祭りに出店してみたら」と言い出したのは僕です。言い出したというより、少し煽りました。
煽るのは簡単です。企画書もいらないし、お金もかかりません。
責任も、煽った瞬間には発生しません。
一方、煽られた側には、企画、仕入れ、調理、衛生管理、価格設定、販売、会計、撤収まで、現実の仕事がどっと押し寄せます。
なかなか無責任な商売です。
良かれと思って口を出す「経験者の善意」は、時に若者の挑戦を奪います。本当の意味で「任せる」とはどういうことか。海士町の夏祭りで、若手から教わったことを書きます。

今回の出店を担ったのは、大人の島留学生として本氣米や海士町の農業に取り組むKKさん、FMさん、ONさん、HGさんの4人です。
4人は、僕の思いつきに付き合わされた被害者でもあります。
ただし、被害者にしてはずいぶん楽しそうでした。
米を売るだけでは、魅力は伝わらない
本氣米は、海士町の田んぼを守るために生まれたお米です。
隠岐牛の堆肥と、ブランド岩牡蠣「いわがき春香」の牡蠣殻を土づくりに使い、化学肥料や農薬の使用量も抑えています。
本氣米を食べることは、単においしいお米を選ぶことではありません。海士町の農業、田園風景、牛、牡蠣、海まで含めた島の営みを支えることにつながります。
本氣米については、以前の記事にも詳しく書きました。
▶︎ 「美味しいお米」なんて、どこにでも売っている。海士町の『本氣米』は、米の話じゃなくて島の話だった。
ただ、米袋を机に並べて「海士町のおいしいお米です」と説明するだけでは、祭りの来場者は足を止めません。
祭りには焼きそばもあります。唐揚げもあります。ビールもあります。強敵だらけです。
しかも、お祭り会場で米を買いたい人は、かなり限られます。
そこで4人は、本氣米を使った冷や汁や甘酒を考え、真空パックのお米も用意しました。
「本氣米を知ってもらう」という目的を、来場者がその場で食べられる商品へ変えたわけです。


当日は、冷や汁が一杯500円、甘酒が一杯200円。
冷や汁には、豆腐、きゅうり、大葉、本氣米を使いました。甘酒は氷を入れ、暑い祭りの会場でも飲みやすくしています。
「米をどう売るか」ではなく、「米と出会う場面をどうつくるか」。
4人は、商品を祭りの風景に合わせていました。
出店は、地味で面倒な仕事の山
祭りへの出店は、商品を決めれば終わりではありません。
必要な食材と分量を決める。調理手順を確認する。容器や箸を用意する。
販売価格を決める。現金と釣り銭を管理する。衛生管理を徹底する。
売り切れた場合や売れ残った場合も考える。
天候による変更にも対応しなければなりません。
キンニャモニャ祭り26も悪天候の予報を受け、踊りパレードが中止となり、会場と開催時間が変更されました。
当初の計画どおりに進まない。イベントでは珍しくない話です。
▶︎ 「キンニャモニャ祭り26」開催内容変更のお知らせ|海士町
僕には、大規模イベントの運営に関わった経験があります。
経験があると、気になる点が次々に見えてきます。
準備は間に合うのか。当日の役割分担は決まっているのか。
来場者が集中したときに回せるのか。会計と商品提供が混線しないか。
衛生面で確認すべき点は残っていないか。
口を出そうと思えば、いくらでも出せます。
むしろ、経験者ほど口を出しすぎます。
「失敗してほしくない」という善意があるからです。しかし善意は、使い方を間違えると、相手から考える機会を奪います。
「全部は言わない」という決断
出店準備では、いくつかの留意点は伝えました。
一方、商品づくり、見せ方などはなるべく細かく口を出さないようにしました。
放置したわけではありません。
進み具合を見ながら、必要な場面で少しだけ助言する。質問されたら一緒に考える。4人が決められる部分は、4人の判断に任せる。
正直に言えば、「本当に間に合うのかな」「そろそろ確認した方がよいのでは」と、進捗が心配になる場面もありました。
歳を重ね、経験が増えるほど、失敗する場面を先回りして消したくなります。
ただ、僕が正解だと思っている方法は、僕が過去に見聞きした範囲での正解にすぎません。
4人は育った環境も、得意なことも、島に来るまでの経験も違います。僕の経験の中へ4人を押し込めたら、新しい発想が出る余地まで消えてしまいます。
経験は便利です。
便利すぎるから、扱いが難しい。
任せた先にある「僕の知らない正解」
4人は、自分たちで商品を考え、試作し、必要なものをそろえ、販売方法を組み立てました。
手書きの看板を作り、本氣米の法被を着て、お客さんに声をかけました。
提灯や稲穂も使い、小さな出店スペースを「本氣米の店」だとひと目で分かる場所に仕上げていました。
僕が細かく指示しなくても、4人は必要な仕事を見つけ、それぞれ工夫して動いていました。
もちろん、すべてが完璧だったわけではありません。イベントは、反省点がない方が不自然です。
大切なのは、誰かが用意した正解を再現したことではなく、自分たちで考え、販売までやり切ったことです。
実際にお客さんの表情を見て、商品を渡し、お金を受け取り、売り切る。
会議室で「本氣米の認知度向上策」を話し合うより、はるかに多くの情報が手に入ります。
「任せる」と「丸投げ」は違う

今回の経験から、誰かに仕事を任せるときの考え方を、僕なりに整理しました。
1.失敗してはいけない範囲を先に決める
安全、衛生、法令、信用、回復できない損失には、経験者が口を出すべきです。
若い人の挑戦を尊重するという名目で、重大なリスクまで放置するのは、任せることではありません。ただの責任逃れです。
2.達成したい目的を共有する
手段まで決めて渡す必要はありません。
今回でいえば、目的は「僕の指示どおりに店を出す」ではなく、「祭りに来た人に本氣米を知ってもらい、味わってもらう」ことでした。
目的が共有されていれば、手段には自由を残せます。
3.後から直せる部分は、本人たちに決めてもらう
装飾、声かけ、商品の見せ方、役割分担には、いくつもの正解があります。
経験者が好む方法を正解にしてしまうと、任された側は考えなくなります。
間違えても修正できる範囲は、本人たちの判断に委ねた方がよい。判断した経験そのものが、次の仕事に残ります。
4.助言は、答えではなく問いとして渡す
例えばですが「こうしなさい」と言う代わりに、
「お客さんが一度に来たら、誰が会計する?」
「雨が降った場合、商品はどこへ動かす?」
「売り切れたことを、どう伝える?」
と問いかける。
答えを渡すより時間はかかります。ただし、本人たちが出した答えは、本人たちの判断として残ります。
任せるとき、試されるのは「年上」だ
4人の姿を見ながら、任されていたのは4人だけではないと感じました。
僕も試されていました。
口を出したい気持ちを抑えられるか。
自分と違う方法を受け入れられるか。
失敗の可能性を含めて、相手を信頼できるか。
経験を積むと、知っていることが増えます。
同時に、自分の知らない方法を受け入れる力が弱くなることがあります。
「前はこうだった」
「普通はこうする」
「経験上、こうした方がいい」
どれも便利な言葉です。
便利な言葉を繰り返していると、いつの間にか、相手の考える余地を埋め尽くします。
経験者の役割は、過去の正解を押しつけることではありません。
失敗してはいけない境界を示し、挑戦できる余白を残すことです。
僕が煽り、4人が店にした
「祭りに出店してみたら」
僕の役割は、最初の一言を投げたことでした。
一言を企画に変え、商品に変え、店に変え、お客さんへ届けたのは4人です。
祭りが終われば、テーブルも鍋も片づけられます。
ただ、4人が自分たちで考えて売り切った経験は残ります。本氣米を口にした人の記憶も残ります。
僕の中には、もう一つ残りました。
誰かの挑戦を応援するとき、経験を全部披露する必要はない。
知っていることを話す力より、知っていても待つ力が必要な場面があります。
煽った側としては、少し肩身が狭いのですが。
4人とも、本当にお疲れさまでした。
本氣米を知る・味わう
海士の本氣米|海士町公式サイト
海士の本氣米 公式オンラインショップ
本氣米生産組合|大人の島留学
「美味しいお米」なんて、どこにでも売っている。海士町の『本氣米』は、米の話じゃなくて島の話だった。
