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Photo byhari_factory

地下グルメとロッキー

     名古屋の栄に通勤していた時期もあった。
     その当時は、先日書いた名駅勤務の会社とは違う人材派遣会社に勤めており、同僚の寺島さんと随分気楽にやっていた。
     この気楽というのは、ほとんど遊んでいたのである。自分はまだ独り者だったので、この先どうとでもなるつもりでいたが、寺島さんは家庭持ちで既にお子さんも二人いた。それが自分と一緒にふらふらしているので、どうも無責任だ。
     そんな人が「僕はね、早起きして出勤前に子供と散歩をするんだよ」と、良い父親みたいなことを云う。段々何だかわからなくなった。

    「百君、今日は午後から◯◯社へ行くんだろう? その前に一緒に昼飯を食おうじゃないか」
    「いいですよ。どこ行きます?」
    「この近くにね、好い店を見つけたんだよ」
     寺島さんについて栄の地下街を歩き、じきに定食屋の前に着いた。
    「ここだよ」
     カウンター席に座って日替わりランチをそう云うと、寺島さんは、
    「ここはねぇ、ごはんのおかわりと、生卵がタダなんだよ」
    「それは太っ腹ですね」
    「そうだろう?」
     何だか自身の手柄みたいな調子でニヤリとする。おかわり無料も卵の食べ放題も、痛むのは店の懐である。寺島さんの懐は毫ごうも痛まない。痛まないのに凄いふりをするのは別段手柄ではない。
     折角だから、白米を卵かけごはんにして二杯いただいた。寺島さんは「どれ、もう一杯いっとこう」と、三杯食べた。
     生卵を一度に三つも食うのは蛇とロッキー・バルボアぐらいだろうと思ったが、存外そうでもなかったらしい。

     店を出て、自分は得意先の〇〇社へ向かった。
    「じゃあ、また後で」と言って寺島さんもどこかへ行ったが、どこへ行ったかは知らない。
     夕方事務所に戻ると、寺島さんがパソコンの前で浮かない顔をしていた。
    「どうもね、食べ過ぎたよ……」
     それはそうだろうと思い、そのまま放っておいた。



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    随筆家。日常をそれっぽく書いたり、気持ち悪い話を書いたりする。 著書∶『牛おばさん・他49篇』 パスタ屋店長、人材派遣屋、メーカーのEC担当など種々の職業に就く傍ら、2003年よりウェブ上で執筆活動中。

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