ネガティブ感情
ネガティブ感情( - かんじょう、negative affectivity, NA)とは、人が感じる様々な不快な情動のこと、ないしはネガティブ感情に関する特性を意味する。
概要
[編集]人は嫌いなことや自分に対して不利益を与えることに対してネガティブ感情を抱く。ネガティブ感情には、抑うつ、怒り、蔑視、嫌悪、罪悪感、恐怖、不安、孤独、といった様々な情動がある[1]。
社会通念としてはポジティブ感情とネガティブ感情を連続体の両極と見なすことが多いが、最近の心理学ではそれぞれ互いに独立した心理現象として評価するようになった[2]
進化心理学ではネガティブ感情は危機やリスクへの対応を促すために形成されたと言われている[3]。もし危機やリスクに対してネガティブ感情(不快な情動)を感じなければそういった状況を避けることもしない。そうなると生存が脅かされることになる。車で言えばネガティブ感情はよくブレーキに例えられる。
危機に直面した後の行動原理としては闘争・逃走反応、つまり戦うか逃げるかという対応が知られている。そして対応の結果危機が消失すればネガティブ感情も低下する。しかし現在では危機やリスクが複雑化したため葛藤状況に陥りやすい。例えば職場が嫌だが転職するのも嫌な場合、容易に葛藤に陥る。葛藤状況が続けばネガティブ感情も持続することになる[4]。
ネガティブ感情は危機やリスクに応じて変化するが、その一方でネガティブ感情が高く安定している人もいれば低く安定している人もいる。こういった個人の安定したネガティブ感情の傾向は人格(パーソナリティ)の特性と見なされる。個人の人格におけるネガティブ感情は人格のビッグファイブ (心理学)モデルにおいて神経症傾向に相当する。
なおうつ状態にある人の神経症傾向を評価するのは難しい。うつ状態のせいでネガティブ感情が高いのか、もともとネガティブ感情が高い人なのか(神経症傾向が高い)区別するのが難しいからである。
評価尺度
[編集]ネガティブ感情を測定する尺度としてはPositive and Negative Affect Schedule(PANAS)が最も知られている[5]。PNASはポジティブ感情10項目、ネガティブ感情10項目からなる評価尺度である。ネガティブ感情の項目は、Hostile、Irritable、Ashamed、Guilty、Distressed、Upset、Scared、Afraid、Jittery、Nervous、からなる(日本語版は訳者によって項目数や日本語訳が異なるので原本の英語のまま記載した)。各項目の現在の状態を 1点 (not at all)から5点(very much)までの5件法で選択する。なおPNASの日本語版は項目数や選択肢の数が原版と異なっているので注意が必要である[6][7]。
神経症傾向を含む5因子モデルの性格検査や抑うつ評価尺度のネガティブ感情項目(憂うつ、不安、恐怖等)もPNASのネガティブ感情項目とほぼ同じ内容なのでネガティブ感情を測定していると思われる。
分布モデル
[編集]抑うつ評価尺度に含まれる恐怖、不安、抑うつ、といったネガティブ感情は不眠や希死念慮といった抑うつ症状と同じように抑うつの分布モデルに従うことが報告されている[8]。その一方でポジティブ感情は抑うつの分布モデルに従わない[8]。
出典
[編集]- ↑ Watson, David; Clark, Lee Anna; Tellegen, Auke (1988). “Development and validation of brief measures of positive and negative affect: The PANAS scales.”. Journal of Personality and Social Psychology 54 (6): 1063–1070. doi:10.1037/0022-3514.54.6.1063. ISSN 1939-1315 2026年2月11日閲覧。.
- ↑ Diener, Ed; Emmons, Robert A. (1984). “The independence of positive and negative affect.”. Journal of Personality and Social Psychology 47 (5): 1105–1117. doi:10.1037/0022-3514.47.5.1105. ISSN 1939-1315 2026年1月22日閲覧。.
- ↑ Rodriguez, Tori (2013年5月1日). “Negative Emotions Are Key to Well-Being”. Scientific American. 2026年2月11日閲覧。
- ↑ Si, Shuangqing; Yuan, Jiajin; Yang, Qian (2025). “The role of cognitive conflict-induced negative affect in adaptive performance adjustments: An ERP investigation comparing subjective experience and implicit regulation”. Cognitive, Affective, & Behavioral Neuroscience 25 (5): 1419–1435. doi:10.3758/s13415-025-01322-z. ISSN 1530-7026 2026年2月11日閲覧。.
- ↑ Watson, David; Clark, Lee A.; Tellegen, Auke (1988). “Development and validation of brief measures of positive and negative affect: The PANAS scales.”. Journal of Personality and Social Psychology 54 (6): 1063–1070. doi:10.1037//0022-3514.54.6.1063. ISSN 0022-3514 2026年2月12日閲覧。.
- ↑ SATO, A.; YASUDA, A. (2001). “Development of the Japanese version of Positive and Negative Affect Schedule (PANAS) scales”. The Japanese Journal of Personality (Japan Society of Personality Psychology) 9 (2): 138–139. doi:10.2132/jjpjspp.9.2_138. ISSN 1345-3629.
- ↑ 川人潤子; 大塚泰正; 甲斐田幸佐; 中田光紀『日本語版The Positive and Negative Affect Schedule (PANAS)20項目の信頼性と妥当性の検討』2012年3月31日。doi:10.15027/32396。
- 1 2 冨高辰一郎『なぜ抑うつは指数分布に従うのか』2022年11月14日。ISBN 978-4-7911-1104-6。